東京の明治記念館の駐車場にて、初めて対面した「LEVC TX」はなかなかのボリューム感、巨躯といった印象だった。ところがさすがタクシー車両だけあって、スペック上の最小回転半径は4012mmに留まっているという。
TXのボディサイズは全長4855mm、全幅2036mm、全高1880mm。価格は1120万円としているが、営業用車両として東京都で緑ナンバーとして登録した場合は、補助金が適用され756万円となる。LEVCとは「London Electric Vehicle Company」の頭文字で、「TX」は先代までのモデルとの区別の便宜上、「TX5(第5世代)」と俗に呼ばれる。ちなみにTX4は、映画「キングスマン:ゴールデン・サークル」の冒頭で、車上で主人公が悪役に急襲されてロンドン市内を疾走しながら闘うアクションシーンを繰り広げた、あのクルマそのもので、世代的にはひとつ前のディーゼル搭載車だ。
全身でフェラーリの歴史を感じ取る博物館【第12回 ムゼオ・エンツォ・フェラーリ】
車椅子用スロープは変形機構も備えており、乗り降り用のステップとしても機能する。車椅子は使わないまでも、歩行に介助が必要な人に役立つ。対して今回のTXのパワートレインは、3気筒1.5リッターガソリンエンジンで発電した電力を、ジェネレーターを介して31kWh容量のリチウムイオンバッテリーに貯め込み、最大トルク255Nmを発揮する電動モーターで後輪を駆動する。つまりゼロ・エミッション走行も部分的に可能な、レインジエクステンダー・ハイブリッドというわけだ。
全長4855mm×全幅1874mm×全高1880mmのボディ外寸に、2985mmというロングホイールベースは、ちょうどボルボXC90とXC60の中間サイズとも思える。なぜボルボと比べたくなるかといえば、元々、ロンドンタクシーを製造していた英国の会社がスウェーデンのボルボ同様、中国の吉林グループ傘下に入って電動化モデル専業メーカーとなった、そんな経緯がある。同じプラットフォームが数社・数ブランド間を跨いでコスト低減を図るのが常識である今、そうじゃないか?と思ったからだ。
まず傍から見える範囲で、運転席周りを覗いたりボンネットを開けたりすると、エンジンのスタート&ストップのダイヤル、ATのシフトノブといったパーツはまんま、ボルボの現役世代とまったく同じモノが目につく。充電ステーション以外の手段として、バッテリーに電力を供給する3気筒1.5リッターガソリンのB3154Tという型式も、考えてみればボルボV40などに積まれるT3エンジンと同根ユニットだったりする。
Junichi OKUMURAかくしてコンポーネント自体はボルボと共有するものも多々あるものの、基本的なアーキテクチャはボルボのSAP(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)とは別物で、独自のストラクチャーであると、英国から今回のローンチ・イベントのために来日したスタッフらは強調する。確かに、室内に足を一歩踏み入れると、ボルボのAWDかつ電動化パワートレインのモデルにあるはずの、センタートンネルがないことに気づく。ボルボはこの中にバッテリーを収め、いざ衝突した際に下に落として乗員のいる居住空間を電気から絶縁する……という構造を採っているのだが、TXはフロア下に平たく、ひたすらケースを強化したバッテリーを敷き詰める方式となっている。これは安全性軽視ではなく、タクシーという性質上、乗降性を考慮しつつ後列3座とレッグスペースを確保するために客室フロアのフラット化に腐心したパッケージといえる。
車外から座席にそのまま座れるように稼働する、スウィーベルシート。回転式なので状況に合わせて利用できる。Junichi OKUMURAタクシーとしての性能を突き詰めているドライバー以外に乗員は最大6名、通常時に使う最後列の3座に加え、中2列目は最後列と向かい合って座る折り畳み式である点は、従来のロンドンタクシー同様だ。助手席はなく、簡易なラゲッジスペースとなっており、リアのトランクにはスペアタイヤとジャッキをはじめとする工具類が収まる。
ガソリンとモーターを組み合わせたハイブリッドモジュールを搭載。エンジンは1.5リッターの直列3気筒ガソリンエンジンで、駆動は最大トルク255Nmのモーターで行う。Junichi OKUMURAしかもボディ構造は、TX4まで伝統だった、ラダーフレーム上に上モノ・ボディを架装する方式ではなく、アルミフレーム構造で各コンポーネントを接着剤で繋ぐという、TVRやロータスといった英国製スポーツカーがこぞって採用していた簡易な、しかし効果的な軽量構造なのだ。それでも車重は2330kgもあるが、本国発表のスペックでは最大航続距離は317マイル(約610km)を掲げている。
だがフラットフロアの利点は、足元スペースがだだっ広いだけではない。ヒンジ式のリアドアを開けるとシルの部分、つまり敷居には714mm幅で耐荷重250kgのスロープが収まっている。これはジャパンタクシーと同じくドライバーやヘルパーが手動で引き出す方式ながら、「パタパタ展開」方式ではなく、スライド式で引っぱり出すだけのもの。日本的発想では電動収納式のスロープこそが、まだ見ぬ本命方式に思えるかもしれないが、タクシー用途なら多少荒っぽくガチャガチャしてもテキパキと、出し入れ操作を何度となく繰り返しても壊れない、そんな頑丈さの方が必要性能といえる。
このスロープは、高さ370mmのサイドシルからタイヤ接地面と同じ地面まで15度の角度で伸びてくる。車椅子の利用客も、人によってはスロープが出たら自分で乗り込んで、広々した車内で90度ターンして前に向くまで流れはセルフでできてしまいそうな、優れたアクセス性だ。その後の、車椅子をフックに手作業でドライバーやヘルパーが固定する必要がある点は、バスやジャパンタクシーと同じくだが、フックが大き目で操作はしやすそうではある。また中列のドア側のシートも回転式となっており、車椅子ではないが歩行補助のいる乗客にも使い易そうだ。ようは、ジャパンタクシーより車椅子の乗客側も、ドライバーやヘルパーの側も、操作ストレスが少なそうだ。
TXは、パワートレインの電化や基本構造のアップデートや最適化によって、環境フレンドリーさやオペレーション・コスト低減を推し進めただけのタクシー車両ではない。高齢化する先進国社会の中でピープル・ムーバーとしての基本性能を、実直なまでの使いやすさと頑丈さに求めている点に、好感がもてる。実際、ロンドンの外というかドイツなど大陸側の欧州では、地下鉄や近郊線でカバーされていない自治体の交通公社が、乗り合い車両つまりライドシェア・サービス車として採用している例もあるとか。
コンセプト次第で一般市場にも食い込むかもしれない?MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)と聞くと、何だか意識高めの新しいもののように聞こえてしまうが、例えば大都市や空港まで、数名の乗客を順にピックアップして1台にまとめて運ぶ乗り合いサービスは、日本でも欧州でも民間の会社によって何十年も前からおこなわれてきた。筆者がフランスのシャルル・ド・ゴール空港から100kmほどの小都市に住んでいた頃は、車両がルノー・エスパス3で、電話予約と現金払いだったが、それがアプリ経由で、直前予約OKとキャッシュレス決済になって、オペレーションが公の手でも行われるケースが出てきた、それだけの話だ。
フロアは完全フラットで、観音開きのドアを採用したことによりゆったりとしたスペースを確保。車椅子の方向転換も行いやすい。Junichi OKUMURA注意すべきはむしろ、自治体のようにパブリック・サービスを提供する側が、バリアフリーの低運用コスト車両として、TXに注目した点だ。欧州のパブリック・サービスではオペレーターの肉体的負担やリスク、つまりこのケースではスロープ出し入れ時のよっこらしょ的なキツさやそれが習慣化して引き起こすギックリ腰とその先を、雇用側が事前評価するのは当たり前のことで、それ専門の担当者が置かれているのが常だからだ。
トランクにスペアタイヤなどを収める代わりに、助手席をラゲッジスペースとしている。Junichi OKUMURA2月より発売、6月より納車が始まる日本市場でTXは、補助金込みで緑ナンバー登録した際の価格は756万円。プレミアムなタクシー車両として展開していくそうで、ジャパンタクシーのようなビッグデータに資する端末機能はないが、障害者や高齢者だけでなく、ベビーカー・ユーザーの若い家族からも潜在的需要は少なくないだろう。乗り易さというエクスペリエンスは一度味わったら戻れないものだし、個タクや介護タクシーなら、「あの乗りやすいクルマ」という指名が入りやすいかもしれない。「おもてなし」的プレミアムやマナーには敏感でも、満たすべきミニマム・レベルとその根拠となる「cause(コーズ)」が見落とされがちな日本の事情を、チクリと刺す1台ではある。
またタクシー車両だけでなく、今後は別のボディ・バリエーションとして業務バンなども展開する予定だそうで、ルノー・カングー的な商用バン好きも見逃せない存在になるかもしれない。
文・南陽一浩 写真・奥村純一 編集・iconic
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みんなのコメント
こういうどうしようもないカタカナ英語は使わない方が良い。みっともない。なぜ「体験」と言えないのだろうか。