2023年のスーパーフォーミュラ最終戦が行なわれた鈴鹿サーキット。そこに今季のシリーズを盛り上げた大湯都史樹(TGM Grand Prix)の姿はなかった。
大湯はこの2023年シーズンを前に、チャンピオンチームであるTEAM MUGENに「一矢報いたい」との思いから、自らTEAM GOHへの移籍を希望。TEAM GOHの活動は2022年を最後に白紙となったが、同チームのオペレーションを行なっていたセルブスジャパンにより、新規参戦チーム『TGM Grand Prix』が実質の後継チームとして発足し、そこで大湯が起用されることになった。
■もてぎではスーパーフォーミュラ引退も示唆した小林可夢偉。2ヵ月で心境に変化は?「まだ深くは考えてない。なぜSFだけ勝てないかの疑問は払拭したい」
ただ、そこからの道のりは平坦なものではなかった。大湯は資金を持ち込んでの参戦となっていたことが関係者の証言によって明らかになっているが、大湯側は当初から金銭的にフルシーズン戦えるかどうかがギリギリの状況にあったと言われている。しかし、そんな中で天性のスピードセンスを持つ大湯と高いエンジニアリング力を持つTGM Grand Prix(セルブスジャパン)のコンビは開幕から存在感を見せ、2度のポールポジションを記録。決勝では噛み合わないレースが続いたが、第7戦もてぎでは3位表彰台を獲得した。
『MUGENに一矢報いる』という目標は、少なくともある程度達成されたと言えるだろう。
そして今回、レースウィークを目前に控えて突如大湯の欠場が発表された。欠場は大湯本人の申し出によるものだというが、チーム側も大湯本人も具体的な理由については言及していない。
鈴鹿戦のレースウィークに行なわれた、スーパーフォーミュラを主催する日本レースプロモーション(JRP)の上野禎久社長、近藤真彦会長による囲み会見では、この一件に関する話題も出た。その中で近藤会長は、第5戦SUGOの際には「途中でお手上げになりました、という話がない方向で行きたい」との思いからTGM Grand Prixの池田和広代表に事情を聞いたと明かした。
「色々な事情……おそらく経済的な事情が一番大きかったのだと思いますが、チームはなんとか最後まで走れた。そういう意味では良かったです」と語った近藤会長。一方で関係者の話によると、この一件は非常に複雑な話だとする声も聞こえてくるため、その全容が見えてくるにはまだ時間がかかりそうだ。
■多くのファンを抱える大湯の欠場は「プロモーターとして残念」
大湯はそのスピードやキャラクター、そしてサービス精神旺盛なファン対応から、人気の高い選手のひとりである。実際、アプリ『SFgo』のお気に入り登録機能を使った『SFgo AWARD 推しドラ部門』の中間発表では、TEAM MUGENのリアム・ローソン、野尻智紀に次ぐ3位にランクインしている。
上野社長は、大湯が人気選手のひとりであることに触れ、次のように述べた。
「大湯選手の走りを見たいという方はたくさんいらっしゃいますし、SFgoでの人気の上位となっています。そういった多くのファンがいらっしゃることを考えても、プロモーターとしては残念ですし、彼自身もファンの皆さんがレースに期待していたということをしっかりと受け止めてほしいという気持ちが強いです」
また近藤監督は、大湯の個性的なキャラクターを引き合いに出し、スーパーフォーミュラとしてドライバーの個性を大事にしていきたいと語った。
「大湯選手に関して言うと、僕らはドライバーひとりひとりのキャラクターを大事にしたいと思っています」
「スター選手を作るというのもそうですが、大湯選手みたいな選手もいて、真面目な選手もいて……みたいな(笑)。うちの小高(一斗)もそうですけど、大湯選手みたいなドライバーの頭をコツンと叩いて『静かにしなさい。フォーミュラドライバーは気品良くしなさい』というスタンスではなく、個性があって良いと思う」
「大湯選手なんてポールポジションを獲って、ここ(頭)にヘッドホンのっけてインタビュー受けてるんだよね。これがチーム的に今まで許されたか許されないかは、非常に微妙なところ(笑)。でもそういう選手が出てきたことは面白いと思います。うちの(山下)健太がやってたらやめろって言いますけど。似合わないから(笑)。でもそういうのをチーム側、JRP側でもっとどこかに露出してあげたいですね」
「チームオーナーやメーカーの方たちも、ドライバーの個性を潰さないでほしいです。でもそれはメーカーの関係者の方もそれを分かってくれていて、ドライバーの個性を引き出してくれるようになっています」
近藤会長の言うように、大湯はその突飛とも言えるパフォーマンスや言動が目立っている。ただ近い関係者の証言から口々に聞こえてくるのは、彼が元来非常にシャイな人間であるということ。彼の個性的な振る舞いは本人の持つ気質というより、ファンを楽しませたいという思いからくるものなのだろう。
大湯は昨年のインタビューで次のように語っていた。
「僕はレース業界を変えたいと思っているので、ファンをもっと楽しませることをやりたい、ファンに来て良かったと思ってもらえる場にしたいと思っています」
「もちろん、やっている側は本気でレースをやっていて、面白いことをやっているつもりです。ただ正直言い方は悪いかもしれませんが、僕としてはレースはついでに見てもらうくらいでも良いと思っています。まず、サーキットに来ること自体が楽しくて、その上でレースを見て楽しかった、すごかったと思ってもらえれば嬉しいです」
最終ラウンドで人気ドライバーのひとりを失ったスーパーフォーミュラ。色んな意味で今季のスーパーフォーミュラに人一倍多くの話題を振りまいた大湯は、来季以降の去就も含め、引き続きその動向に目が離せないドライバーだと言える。
複数社の査定額を比較して愛車の最高額を調べよう!
愛車を賢く売却して、購入資金にしませんか?
複雑奇怪なMotoGPシート争い。ジャンアントニオから一転ホンダのマリーニ獲得は正解?それとも【MotoGPコラム】
【中野信治のF1分析/第23戦】リザルト以上に魅せた角田裕毅とアルファタウリ。さらに進化した2023年のフェルスタッペン
F1参戦に向けてドライバーを探すアウディ。現在の本命はアルボンか
TGM Grand Prixからテスト参加の松下信治、来季のスーパーフォーミュラレギュラーシートは望み薄か「何か予想外のことが起きない限り難しい」
福住仁嶺、大湯都史樹がトヨタ陣営に。今季FIA F2王者も参加のスーパーフォーミュラ鈴鹿合同テスト、総勢32人がエントリー
みんなのコメント
この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?