とあるドライバーは下位チームでF1デビューをした後、ビッグチームへ移籍し、実績のあるドライバーと数年間コンビを組んだが、それほどスムーズにはいかなかった。戦略をめぐりチーム内で何度か意見が対立し、無線で激論を繰り広げた他、クラッシュも何度かあった。
しかし若く野心的なドライバーがチームに加わり、単なる脇役ではなく、自分自身を証明しようとするのは、それほど予想外のことではない。
■プロストが明かす苦悩。SNSで送られる”憎しみ”のメッセージ「幸か不幸か、アイルトンについて考えないわけにはいかない」
誰のことを指しているのか、お分かりだろうか? 最後のヒントは、母国語がフランス語だということだ。
そのドライバーの名前は、もちろんフェラーリのシャルル・ルクレールだ。もしかして、他に誰か思い浮かんだだろうか?
2019年イタリアGPでF1通算2勝目を挙げる前日、ルクレールは予選の最後の瞬間にチームメイトにスリップストリームを与えることを拒否し、セバスチャン・ベッテルだけでなく、当時チーム代表を務めたマッティア・ビノットの頭を悩ませた。そこからベッテルのロシアGPでのチーム協定破りに転じ、その数ヵ月後に2台はシュタイアーマルクGPのオープニングラップで同士討ちを喫した。
F1では、チームメイト同士ぶつかることは許されない。理想を言えば、常にチームの利益を優先すべきなのだ。しかしチーム内でクラッシュすることもある。ドライバーはチームオーダーに従わなかったり、怒りをぶつけたり……若くて野心的という表現は、レッドブルのマックス・フェルスタッペンにも当てはまる。2018年アゼルバイジャンGPでのダニエル・リカルドに対するディフェンスは、おそらく一線を超えていた。
フェルスタッペンは2017年ハンガリーGPでも、1周目にアグレッシブ過ぎる動きでリカルドと接触。デビューシーズンのシンガポールGPで、カルロス・サインツJr.を先行させろというトロロッソ(現在のレーシングブルズ)のチームオーダーに対して「ノー!」と言い切ったことを覚えているだろうか?
ルクレールもフェルスタッペンも、チームメイトとしては良くないという評判はリストの一番上にはこない。ルクレールは悪役を務めるにはあまりにカッコよすぎるし、フェルスタッペンは……まあ、彼は何でも勝つだろう?
冗談はさておき、ルクレールとフェルスタッペンにそのような評価がないのは、おそらくふたりに高い競争力があると見られているからだろう。そして、そのようなドライバーが時に、チームよりも自身の利益を優先するのは当然のことだ。
しかし今年からハースへ移籍するエステバン・オコンは、「チームメイトとぶつかってばかりいる」というレッテルが貼られている。
このオコンのドライバー像の大元を探るには、フォースインディアでセルジオ・ペレスとコンビを組んでいた時代まで遡る必要がある。
「なぜなのか、正確には分からないよ」
オコンはバーレーンで行なわれたプレシーズンテストで、自身を取り巻く悪評についてそう語った。
「大げさに扱われることもあっただろうね。確かにいくつかアクシデントもあったし、もっと異なる形にしたかったということもあった」
「でも振り返ってみると、チームやチームメイトと上手くやれるようにベストを尽くしてきたし、セルジオであれ、ダニエルであれ、フェルナンド(アロンソ/アストンマーティン)であれ、ピエール(ガスリー/アルピーヌ)であれ、マシンが到達しうる目標を共に達成してきたと思う」
「フェアに言って、僕は彼ら全員と上手くやってきた。そうだね、確かに違ったら良かったと思うようなアクシデントもあった。でもレースを重ねるにつれて、ちょっとしたことも起こる」
しかし、オコンが言うそれは本当に「ちょっとしたこと」だったのだろうか?
■オコンの「ちょっとしたこと」。過去の事例は?
ペレスとオコンはフォースインディアでの2シーズン中に、コース上で5つのアクシデントに見舞われたが、オコンはチームのコンストラクターズランキングに影響することはなかったと強調した。
当時の勢力図を考えると、フォースインディアはトップ3から大きく遅れ、基本的には中団グループより前を走っており、オコンはチームメイトとしばしば同じような位置にいた。
フォースインディア時代のアクシデントについてオコンに聞くと「5回だったの?」と笑って答えた。
「確かに全部覚えているよ」とオコンは続けた。
「僕はいつもマシンの中でベストを尽くそうとしてきたし、自分の手の中にあるモノを全て引き出そうとしてきた。チームメイトと接触するのは決して良いことじゃない」
「でも、そうだね。僕らはとても接近したところでレースをしていたし、自分たちだけで走っていたから、そういうことが何度かあった。2017年の初年度は、ほとんどの時間帯で6番手から8番手の間にいたし、(常に)同じグリッド列にいた」
「今は……そうだね、若くてハングリーだったから、今だったら言わないようなことを記者会見で言ってしまったかもしれない。チェコ(ペレス)のことは尊敬しているし、彼のチームメイトになれて本当に良かったよ」
オコンは最近、メディアに対してより慎重になっている。しかし彼は、5回の接触のうち、実質的に自身の責任だったのは1回だけだったということを人々が忘れているということは声高に主張できる。その1回は2017年アゼルバイジャンGPでのこと。決勝1周目のターン3立ち上がりでペレスをウォールに押し込んだ一件だ。
その年の後半、ハンガリーGPではペレスがオコンをターン1でパンクさせ、数週間後のベルギーGPではオー・ルージュで2度もペレスがオコンをウォールに追いやった。そのレース後、オコンはメディアペンで次のように怒りをぶちまけた。
「彼のあれは、プロフェッショナルらしい振る舞いじゃない。彼は他のチームメイトにそんなことをしないし、僕は彼に直接会いに行って、本当のことを話すと思う。彼のことは怖くないよ」
後にオコンは、ペレスが自身を2度も「殺そうとした」と非難のツイートを投稿したのであった。
1年後のシンガポールGPでは、オープニングラップでペレスをオーバーテイクしようとしたオコンがコース外に押し出され、再び2台は接触することとなった。
オコンは1輪を失った状態でコース脇にマシンを止め、この時Sky Sportsのライブ中継を担当するデビッド・クロフトは『またもオコンがチームメイトにウォールに押し付けられた』と叫んだ。
5回のアクシデントのうち4回が主にペレスの過度なディフェンスによるモノだったものの、「悪いチームメイト」のレッテルを貼られたままになっているのはオコンの方だ。
おそらく、その悪評はオコンがアルピーヌでフェルナンド・アロンソとコンビを組んでいた時代に定着したのだろう。このふたりもコース上で近いところを走っていた。2022年ハンガリーGPでの1周目を終えた後のアロンソが「今日のエステバンのようなディフェンスは見たことがない。一度もだ」と無線で言ったことを覚えているだろうか?
しかし、この2年間でふたりが接触したのは、サンパウロGPスプリントでの1度だけ。メインストレートでオコンをオーバーテイクしようとしたアロンソがフロントウイングを引っ掛け、無線でチームに「ありがとう、友よ」と語った。
ただ、2年間のコンビ関係に終止符が打たれた時、アロンソはあるインタビューで「1年を通して常に1台のマシンと戦っていた」と明かし、オコンとのレース展開に必ずしも満足していなかったことを示唆した。
それはおそらく真実なのだろう。しかしアロンソはメディアを通じて“自分なりのストーリー”を広めることを憚らない人物だ。アロンソがコンビを組んでいる際に最も称賛したチームメイトはマクラーレン時代のストフェル・バンドーンで、予選で打ち負かすたびに相手のジュニア時代のタイトルリストを引き合いに出していた。アロンソによれば現在コンビを組むランス・ストロールも未来の世界チャンピオンだという。
■「チームメイトにぶつかるため、ここにいるわけじゃない」
「何度かバトルをしたのは確かだ」とアロンソについてオコンは言う。
「でも、2年間で1度だけ接触したこと。でも翌日には最高のレースが待っていたから、その続きはないよ。(翌日は)僕らは最後尾からスタートして、フェルナンドが5位、僕が8位だった」
「でも僕はフェルナンドのことをとても尊敬している。成し遂げてきたことやドライビングスキル、コース上での能力において、彼は僕が常に最も尊敬しているドライバーのひとりだ」
「彼は最も枠にとらわれない考え方をするドライバーだ。彼とはよく話をするんだ! (F1合同イベントとなった)発表会でゴーカートの話をしていたよ」
「僕らはレースを生きがいにしているし、その点はとても共通している。2度の世界チャンピオンと一緒に仕事ができて光栄だ」
オコンは舌戦に巻き込まれることを望んでいない。この話題のデリケートさを考えれば、理解できることだ。特に2年間コンビを組んだピエール・ガスリーと昨年のモナコGPでクラッシュを喫した時は、ソーシャルメディア上で多くの批判にさらされた。
「ピエールとは、とても長い話なんだ」とオコンは微笑みながら話した。
「僕らがどこから来て、どういう関係なのかは、僕らにしか分からないと思う。ピエールも、僕らが困難な状況でもチームをひとつにしてきたと言っていた。幸運なことに、僕らはチームを救うためにいた。(ふたりが表彰台に上がった)ブラジルのような瞬間があって良かった。僕らには過去に色々あるけど、あの瞬間はいつだって、僕らふたりにとって超ポジティブな思い出だ」
「僕らの出身地からすれば、F1で同じチームにいて表彰台に登れるなんて誰も信じなかったと思う。それを一緒に経験できたのは素晴らしいことだ」
ふたりの因縁を考えると、まるで全世界がオコンとガスリーがクラッシュするのを待っていたかのようだった。2023年オーストラリアGP決勝での再スタート時のクラッシュはNetflixのドキュメンタリー『Drive to Survive』でも大きく取り上げられたが、ふたりが混乱に巻き込まれた結果であることは明らかであり、ふたりの関係を語る上で大きな足しにはならなかった。
しかしオーストラリアでの一件が多かれ少なかれ“レーシングインシデント”として片付けられたのに対し、2024年のモナコGP決勝での1周目のクラッシュは、明らかにオコンのミスだとして、「チームメイトとクラッシュした過去」を持つドライバーと批判が殺到した。
「モナコで起きたこととはいえ、チームには何の損害もなかった」とオコンはそう振り返った。
「僕は自分の非を認めた。違った結末になってほしかったのは確かだ。しかし僕らは毎回ベストを尽くしてきた。この2シーズンを通して、マシンから最大限の力を引き出せたと思う」
そしてあまり詳しくは語らないが、オコンはネット上で多くの批判を目にするのは苛立たしいと認めている。チームメイトとクラッシュした過去をしっかり調べようとする人は少ないからだ。
「見出しがあるとすぐ、みんなそれに飛びつきたがる」とオコンは言う。
「でもそうだね、僕の考えでは、自分たちは(各チームで)やるべきことをやり、チャンスが来たら掴む。ピエールとも、フェルナンドとも、ダニエルとも……チェコとも上手くやった。最終的に、僕らは全ての項目をクリアしてきた。それが最も重要なことだ。僕はチームメイトにぶつかるため、ここにいるわけじゃない。デタラメだよ」
「みんなそう見ているんだ。ある話題について誰かが笑っていると、みんながその話題についていき、同じことに飛びつきたがる。でも時間が経って、忘れ去られることを願っているよ」
■ハースの今年はイメージ払拭のチャンス
オコンは自身がハードに攻めるレースを愛していることをまず認めている。結局のところ、F1の他のドライバーと同様に、負けず嫌いなのだ。運良く勝てるマシンを手にしていれば、チームメイトを含め誰とでも激しく争うこの傾向は、将来的なチャンピオン候補の証と見なされたかもしれない。フォースインディア時代にはある程度、そう見られていたが、ビッグチームへのネクストステップは訪れなかった。
同じ色のマシンとレースをすることになった時、オコンはもう少し慎重になる必要があったかもしれない。少なくとも何人かのチームメイトはソーシャルメディアのフォロワー数がかなり多く、その中の何人かにオコンをあまり好きになれない理由を与えてしまったのだろう。
いずれにせよ、正当化されようがされまいが、彼につきまとうイメージを考えると、オコンはそのストーリーをさらにふくらませる理由をこれ以上人々に与えるわけにはいかないと分かっているのだろう。ハースでの新章では、キャリアで初めて経験豊富なドライバーとしてチームを牽引する立場となる。
現在、ガレージの反対側にいるのは、実力を証明する熱意で満ち溢れた新人オリバー・ベアマンだ。
ハースではより大きな責任を感じているかと聞かれたオコンはこう答えた。
「それに関してはあまり集中していない。確かに、チームは僕の経験を頼りにしている。僕が考えていることが時には非常に重要になる。僕が早い段階でフィードバックすることで、改善すべき点やマシンの弱点、長所を知ることができる。そして、チームはそれをとても良く受け入れてくれた」
「でも、オリー(ベアマン)は僕よりもこのチーム内での経験が豊富なんだ!」
「僕には長年のレース経験があるけど、彼はルーキーの中でも最も準備が整っている。最初のレースを迎えたら、僕らはチームを急速に前進させることができるだろうし、全員の力を最大限に引き出すため重要なことだろうから、それは良いことだ」
ひとつ確かなことは、オコンは自身にこびりつくイメージに関わらず、ハースで雇われ、チームのために働いているということだ。チーム代表であり、長年の知り合いでもある小松礼雄は、ニコ・ヒュルケンベルグとケビン・マグヌッセンが共にチームで過ごした2年間、それぞれの過去があるにも関わらず、どのように協力し合うことができたかを称賛していた。そして、それこそ小松代表がオコンとベアマンに期待していることなのだ。特にオコンにとって、自身を証明し、長い間苦しんできた評判を払拭するのにこれ以上のチャンスはないだろう。
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