トヨタ販売網が迎えた歴史的転換期
トヨタの販売店が変わっている。かつてはトヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店という系列ごとに扱う車種が分かれていた。しかし2020年5月、専売車種を実質的に撤廃し、全店で全車種を扱う体制へ移行した。東京ではこれに先駆け、2019年4月に直営4系列を統合したトヨタモビリティ東京が発足している。
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その後5年間(2020年~2025年)で系列販売会社(ディーラー)は34社減り、店舗数も約300店減少するなど、統廃合が進んだ。一方、国内市場全体が減速する中でも、トヨタは年間国内販売150万台規模を維持し、国内シェア50%超という極めて強固な基盤を保っている。
店舗数が減ったからといって、販売店の役割そのものが縮小しているわけではない。オンラインで車種を比較し、見積もりや商談予約を進められるようになった半面、試乗、整備、保険、買い替え、購入後のサービスなど、実店舗を通じた顧客との接点はむしろ多様化している。メーカー側も顧客データをまとめて扱い、販売店との情報共有を強力に進めている。
トヨタの販売網で起きているのは、ただの店舗削減(リストラ)ではない。
・店舗を減らす動き
・顧客との接点を拡げる動き
が同時に進む、歴史的な構造転換である。なぜディーラーは、新車を売る場所から役割を広げようとしているのか。販売網の変化を追うと、自動車メーカーとディーラー(ディーラー)の役割分担、そしてクルマを購入した後のバリューチェーン収益の仕組みを根本から変える戦略が見えてくる。
4系列撤廃が生んだ地域経営の革新
2020年5月以前、トヨタは国内でトヨタ店(富裕層・官公庁向け)、トヨペット店(中堅・ファミリー向け)、カローラ店(大衆車向け)、ネッツ店(若年層・パーソナル向け)という複数の販売系列を展開し、それぞれに専売車種を設けていた。
高級車から大衆車まで次はこのディーラーからステップアップして購入するという目標を立てやすい半面、同じトヨタ車なのに系列が違うと買えない不便さも抱えていた。やがて高齢人口の増加などを背景に、消費者は車種よりも
・家から近い
・相談しやすい
・整備を任せやすい
といった実利で店を選ぶようになった。系列の違いが購買理由になりにくくなっていたため、全店併売化は顧客の立場からも概ね歓迎をもって受け入れられた。
この転換を進めた背景には、市場環境の変化と、過度な自社系列間競合(自損自益)を解消するという経済的な合理性がある。
日本国内の四輪車新車販売は、2019年の約520万台規模から、2020年にはコロナ禍の影響もあって約470万台規模へ減少(前年比約11~12%減)した。登録車ベースでも前年から約40万台減の約288万台に落ち込んでいる。少子高齢化や人口減少、カーシェアリングの普及を考えれば、国内新車市場が右肩上がりで伸び続ける局面ではないことは明らかだった。
同一地域内に複数のトヨタ系ディーラーが並び、店舗運営や人材配置、在庫、試乗車、広告などが重なるのは非効率である。系列ごとに競わせて市場を奪い合う状態から、地域全体で販売効率を高め、ディーラーの損益分岐点を引き下げて経営基盤を守る戦略への転換が急がれた。全車種を幅広く扱えるほうが来店客への提案も柔軟になり、売り手と買い手の双方にとって理にかなった流れだったといえる。
需要集中と現場の負荷に見る二面性
全店併売化がもたらした大きな変化は、最上級ミニバンの姉妹車であるアルファードとヴェルファイアの販売実績に色濃く表れている。
当初、アルファードはトヨペット店、ヴェルファイアはネッツ店の専売だった。3代目アルファードと2代目ヴェルファイアが発売された2015(平成27)年時点では、アルファードの販売台数が4万4366台であったのに対し、ヴェルファイアは5万4180台と優勢を保っていた。ところがマイナーチェンジを経た2019年には、アルファード6万8705台に対してヴェルファイア3万6649台と立場が逆転する。
そして全店併売が全国展開された2020年、アルファードが9万748台へと急増したのに対し、ヴェルファイアは1万8004台に急減した。格差は5倍以上に広がった。直後の2020年秋頃には、月間登録台数で約8倍もの開きが生じている。
全店でどちらも買える環境が整った結果、知名度やリセールバリューで勝る人気モデル(アルファード)へ需要が大きく集中したのである。全店併売は顧客の比較検討を助け、選択肢を広げることに役立っている証拠でもあるが、同時に不人気モデルの淘汰を自動的に進める商品ラインナップの適正化としても機能した。
一方、ディーラー側は、現場の業務負担という大きな課題に直面している。従来は自系列の十数車種に絞って商品知識を深めれば済んだが、現在は40車種以上を扱わなければならない。複雑な先進安全装備や高度運転支援システム、FRプラットフォームを持つクラウンなどの特殊な構造について、正確な説明や整備対応が求められる。営業スタッフやメカニックがカバーすべき範囲は、かつてなく広がっている。
・効率化や顧客メリット
・現場負荷の拡大
という相反する要素のせめぎあいの中で、販売網の再編は進んでいる。
新車販売から車両保有期の体験提供
車は買って終わりではなく、その後のライフステージでの活用こそが重みを持つ。そこに社会構造の変化が重なり、トヨタの販売戦略は新車を作って売り切るビジネスから、購入後の保有期間全般における体験価値(バリューチェーン)を高める方向へと軸足を移している。
デジタル技術の浸透によって、顧客は店舗へ出向く前にオンラインで見積もりや比較を済ませるようになった。実店舗の位置付けは、ゼロから情報を集める場所ではなく、最終確認と納得、そして実車体験の場へと変化している。
さらにハイブリッド車(HV)やバッテリー式電気自動車(BEV)など、従来とは異なる先進機能やバッテリー運用について、購入時の丁寧な説明と高度なアフターサポートが求められるようになった点も大きい。
若年層を中心とする車の所有から利用へという価値観の変化も見逃せない。残価設定ローンや定額利用サブスクリプションKINTOなどの新しい利用形態が広がり、トヨタ系の店頭でもこれらが前面に押し出されている。
ディーラーは、新車契約という一時的な窓口から、車検・整備、保険、買い替え支援、ソフトウェアやハードウェアのアップデート、パーソナライズ対応などを通じて、顧客の車生活全般を長期的に支える存在へと変わってきている。市場が縮小していく過程では、新車販売台数だけに頼らないこうした収益の柱を守ることが、ディーラーの新たな経営基盤として欠かせないものになっている。
デジタル連携と対面接客の最適融合
この販売網の変化を支えているのが、メーカー主導のデジタルトランスフォーメーション(DX)と顧客体験(CX)基盤の刷新である。2018年に豊田章男社長(現会長)が発した自動車をつくる会社から、モビリティカンパニーにモデルチェンジするという宣言以降、トヨタは顧客データの統合へと動いた。
かつてはバラバラだったサービスIDを一元化するTOYOTAアカウントが導入され、登録者数は700万人を突破した。これにより、メーカー自身がどの顧客がどの車両に乗っているかを直接把握できるようになっている。公式サイトtoyota.jpも従来のカタログ型から対話型サイトへと変わり、ライフスタイルから車種を絞り込むクルマ診断や、専門知識を持つオペレーターによる有人チャット接客を取り入れ、顧客満足度を大幅に引き上げている。
こうしたデジタル化を経て、メーカーとディーラーの役割分担はより明確になった。メーカーは商品企画や広範なデータ分析、デジタル接点の整備などを担い、ディーラーは地域での対面相談、試乗、整備といった実際のサービスを深める。オンラインか店舗かという二者択一ではなく、両者が異なる役割を持ち寄り、うまく組み合わせることこそが現在のトヨタの強みである。
テスラなどに代表されるEVメーカー主導のウェブ直販モデルが業界で広がりを見せる中、2023年3月の全国トヨタ販売店代表者会議において、当時の佐藤恒治次期社長は直販体制への移行を少なくともトヨタ・レクサスでは絶対にないと明確に否定した。
佐藤氏は、知人が販売店スタッフとの親身なコミュニケーションに心を打たれて車を買ったエピソードに触れ、トヨタが提供する本質は車というモノの価値だけでなく、顧客とディーラーの心と心の関係や、心を動かすサービスであると明言している。デジタルに不慣れな高齢者層が確実に増加していく日本社会において、地域に密着した実店舗と人材が持つ対面サービスの力は、他社に対する決定的な強みとして機能し続けるのだ。
これからディーラーが狙うもの
これまでの流れを俯瞰すると、全車種併売と店舗統廃合による効率的な地域経営への移行、KINTOやアップデートを通じた体験価値の重視、そしてID統合によるデータ基盤と対面サービスの融合という、確かな変化の流れが見えてくる。
店舗数が減少する一方で、1店舗がカバーする顧客接点の範囲は広がり続けており、そのバランスをいかに整えるかが今後の論点となるだろう。データ社会の進展に伴い、開発段階から販売店関係者を招き入れ、顧客の生の声を商品開発へ直接反映させる共創の動きも活発化していくはずだ。メーカーとディーラーが情報を共有し、ひとつのチームとなって顧客を長期的に支える体制は、これからの時代の顧客生涯価値(LTV)を高める仕組みそのものである。
5年後、10年後の自動車産業を見るうえで、全国に何店舗あるかという規模の視点だけでは実態を捉えきれない。1店舗が購入前から保有期間にかけて、どれだけ深く広い接点を持てるかという質の視点が問われている。店舗数の減少と役割の拡大が同時に進むこの過渡期において、ディーラーが今後どの領域を担うべきなのか、生活者の観点からその行方を注視していきたい。(近澤眞吉(モータージャーナリスト))
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みんなのコメント
将来見据えて整理してるんだよ・・・。
多くの場合、地域のトヨタディーラーは古くからできたトヨタ店やトヨペット店のディーラーが出資して傘下にカローラ店やオート店&ビスタ店(→ネッツ店)を設立・運営してきた。だから取り扱い車種がトヨタ・ブランドで共通化された以上、子会社のチャンネルは親会社に統合されることになった。またトヨタ店やトヨペット店が持っていた富裕層向けの顧客は、それぞれが傘下に持つレクサス店に移行することになった。かつての5系列からレクサスとトヨタの2系列に再編されたことになる。