世界最高峰のハコ車レース、スーパーGTでトヨタ、ニッサン、ホンダのマシンがメーカーの威信を掛けて戦うGT500クラス。そのGT500クラスのマシン開発の現状を、日産モータースポーツ&カスタマイズ株式会社(NMC)の木賀新一チーフモータースポーツオフィサー(CMO)が解説する。現役のマシン開発について、現役でニッサン陣営の開発担当が講義するという、日本モータースポーツ記者会(JMS)向けの貴重な取材会での内容と資料をベースにオートスポーツweb編集部が3回に渡ってお届けします。
第1回目のGT500マシン空力開発、第2回目のエンジン、プレチャンバー開発の現状に続いて、第3回目はエンジン開発の課題、そして新燃料への対応について木賀CMOが解説します。
GT500のエンジン開発『プレチャンバー』について学んでみよう【スーパーGT夏企画/ニスモ木賀CMOのマシン講座2】
⚫︎圧縮比UPでノッキング発生、リーン化で燃焼速度低下
「市販車であれば排気量を大きくする、エンジン回転数を上げるなどによって出力を上げることができますが、GT500ではそれを規定されているので、燃焼の仕方で勝負をしなければいけません。機械工学を専攻して大学に入ったら最初に習うオットーサイクルの理論熱効率の式に基づいた技術開発を我々はしています」
「熱効率は圧縮比を上げれば上げるほど高まり、比熱比も上げれば上げるほど高まります。比熱比とは、いかに燃料を薄く(リーン)に燃やすかということです。エンジン内で燃料を完全燃焼させるために必要な空気と燃料の理想的な重量比であるストイキメトリック(空気14.7に対して空気1)。昔のチューニングカーやレーシングカーは黒煙を吹きながらこれより濃い(リッチ)な領域で走らせていたわけですが、当然燃費は悪い。パワーがもっとも出せる出力空燃比は12:1から13:1で、燃料消費率がもっとも低い経済空燃比は16:1と言われています。リーンにして熱効率を上げつつパワーを出すためにはどうしたらいいのか? というところでプレチャンバーが出てきます」
「比熱比とともに圧縮比を上げることで熱効率は上げられると申しましたが、圧縮比を上げていくとスパークプラグで点火する前に混合気の熱で燃焼してしまうとか、点火のあとも異常に燃えたりとかの異常燃焼、ノッキングが起きるので、圧縮比は簡単には上げられません。一方で、リーンな希薄燃焼も進めていくと熱効率は上がっても、燃焼しづらくなり燃焼スピードが低下してしまいます。これでもやはりノッキングが発生します」
高速燃焼と燃費を向上することができるプレチャンバーは、前回の第2回目でも触れたようにこれまでのレーシングエンジンの開発を大きくブレイクスルーさせる技術となったが、スーパーGTでは近年、カーボンニュートラル燃料(CNF)、E10燃料と使用燃料が何度か変更された。この変更は当然、エンジン開発とパフォーマンスにも大きく影響することになった。
⚫︎2025年のCNFはハイオク比3.9psアップ、ENEOS E10は7.8psダウン
「昨年までのカーボンニュートラル燃料(CNF)と今年採用のENEOS E10では特性が異なります。植物ゴミ等の非食物、第2世代セルロースから精製されたエタノールによってつくられたCNFに対して、ENEOS E10はバイオエタノールが10%配合された低炭素ガソリンです。標準的なハイオクガソリンを基準として、まず燃料特性としてもっている密度が違います。CNFがハイオクに対して+4.1%、ENEOS E10が+2.9%と濃度がそれぞれ高い。しかしいずれも発熱量は下がります。ハイオクに対してCNFがマイナス3.4%、ENEOS E10がマイナス4.0%です」
「さらにGT500の場合には、燃料リストリクターによって流量が規制されています。今年は90.2kg/hとなっていますが、実際の流量規制は体積でやっています。密度が違うということは、同じ体積が流れても密度の違いだけ、重量比でみた場合にはそれぞれ多く燃料が流れていることになります。ハイオクの質量流量90.2kg/hに対してCNFが93.9kg/h、ENEOS E10は92.9kg/hとなります」
「熱量の違い、密度の違いをトータルすると投入熱量はハイオクが3851.5MJ/h、CNFが3872.8MJ/h、ENEOS E10は3806.2MJ/hとなります。これを単純に出力差に置き換えるとハイオクで650psの場合、CNFは+3.9ps、ENEOS E10はマイナス7.8psとなります。昨年のCNFから大きく出力減のように見えますが、当然エンジニアはここをカバーしようと開発を進めました。CNFではオイルの燃料希釈の問題が出てそれを解消するためにオイル温度を上げるなどの対策も実施しましたがENEOS E10についてはそうした問題は発生していません」
⚫︎出力調整は気筒休止で対応するGT500
「GT500においても全負荷ではなくスロットルコントロールする場面もあります。こうした状況では、何段階かに分けて各気筒への燃料噴射を休止することでトルクを絞っています。このあたりの考え方、やり方も各メーカーで違いがあるのでスロットルオフした時の排気音にそれぞれ個性が出ています」
「燃焼室内の圧力を計測すると、市販車と比較してクランク角に対して急激なグラフを描きます。もともと圧縮が高い上に燃焼が始まると圧力が一気に高まります。掃気の後の圧力低下も大きくポンピングロスが小さくことが分かります。量産エンジン開発を担当していたエンジニアの目からみると驚異的です。恐ろしく燃焼効率が高いので排気温度も下がります。外に逃がすエネルギーが少なくなっているので、コンポーネントも楽になりますし、排気ガスもものすごくキレイです」
[オートスポーツweb 2026年08月14日]
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みんなのコメント
永久機関?ちゃんと校閲してから記事出せよ。
人気主力SUVをレースカーにするなら分かる気もするが