■Vol.8「編集作業も請け負った場合」2輪系ライター、伊丹孝裕さん(筆者)のおはなし
ライター兼ライダーの収入には原稿料と日当があることと、それぞれの相場を当サイト(バイクのニュース)で記してきました。また、2輪の紙媒体は慢性的な人手不足という事実にも触れてきたわけですが、さて、そうするとなにが起こるのか……?
2輪系ライターの、仕事とお金 ~ベテランと中堅の狭間にいる伊丹孝裕の場合~ Vol.7
「来月は手が回りそうにないので、いっそ編集もお願いできませんか?」という相談を受けることになります。
編集の仕事は多岐に渡るものの、大枠で言えば企画のスタートからゴールまでを仕切る現場監督であり、それらすべてを統括するのが編集長です。とはいえ、大それた組織ではありません。一般的な編集部は2名から4名で構成され、これは編集長も含んでの人員です。
編集者に求められるのは、なにはなくとも企画力です。企画が決まれば、それを具体化してくれるライター、ライダー、カメラマンを集め、必要なバイクを手配し、撮影日時と場所を決定します。当日はより詳細に、かつ臨機応変にディレクションしながら撮影を進行。ここまでが第一段階です。
撮影が終了すれば、カメラマンから画像が納品されるのを待ってラフを引き(=作りたいページのイメージを描く、もしくは書く)、デザイナーとやり取りしつつ、完成したレイアウト(=ラフを正式な形にしたもの)をライターに送信。編集意図に添うように原稿を書いてもらい、必要に応じて修正してもらったり、校正(=誤字脱字を直す)するまでが、第二段階にしてクライマックスと言っていいでしょう。
ここを乗り切れば、メーカーから借りた広報車両を洗車したり、撮影小物(ウェアやバッグなど)を返却したり、経費を精算したり。そういう細々した業務をこなしながら、印刷所からの矢のような催促電話をやり過ごし、ささやかな休日に思いを馳せる……というルーティンを、月刊誌の編集者は繰り返しているのです。
ただし、月刊誌だからと言ってクライマックスが月一回とは限りません。ムックや増刊と呼ばれる不定期刊行物も同時進行するのが平常運転ですから、結果的に月に3冊を手掛ける、なんてこともあります。
その間、スタッフが増員されるわけもなく、火の車に陥った編集部はフリーランスに仕事を発注。「来月は手が回りそうにないので」とは、つまりこういう切迫した状態から発せられる言葉で、誰かにすがりたくなるのは当然です。
フリーランスのライターがどこまで編集に関わるのかは、ケースバイケースでしょう。僕(筆者:伊丹孝裕)の場合、おおざっぱに説明すると……
編集者「次号、30ページほど任せられます?」
筆者「かしこまり」
といった感じで、企画から人員&車両の手配、撮影のディレクション、ラフ、原稿といった一切合切を請け負うことが珍しくありません。
これは編集部にも僕自身にもメリットがあります。編集部にしてみれば、ほぼほったらしにしておいても30ページが完成。僕にしてみれば、気をつかうことなく、自作自演ですべての物事を進められるわけで、お互いストレス知らず。中途半端に仕事をシェアするよりもスムーズと言っていいでしょう。
では、ギャランティはどのように計算するのか?
基本は、1ページ当たりいくらという取り決めをします。提示されるのは、1万3500円から1万6000円といったところで、この中に原稿料も含まれます。
仮に1万5000円を基準にして30ページ請け負い、そのために必要な撮影を日当2万5000円で2日間行った場合はこうなります。
{(1万5000円×30ページ)+(2万5000円×2日)}×消費税10%=55万円
これが安いのか、効率がいいのか、妥当なのかは、その人の処理能力によって異なります。原稿を書くのは好きだけど、ラフを引くのがどうにも苦手で、これだけで丸々10日間費やしました……となれば非効率だからです。
それを回避するため、30ページすべてに写真をでかでかと散りばめて写真集的な特集にする、という手法もあり得なくはないですが、おそらくそれっきり仕事を失います。もしもそれに耐えうる写真を2日間で撮って構成できたなら、カメラマンに対するディレクション能力が賞賛されるべきでしょう。編集者よりもアートディレクターに転身することを勧めます。
それはさておき、僕はラフを引くのも、原稿を書くのも、車両を引き取って返却するのも苦にならないため、こういう依頼は歓迎する方です。キャパシティとしては月に70ページ程度はこなせるため、当サイトのコラムVol.2で「収入は忙しい月で100万円強」と書いたのは、これが下地になっています。
現在は紙媒体の仕事を辞めたため、割の良いこの収入形態を失った恰好です。ちょっとだけ惜しいことをしたな、と思わなくもありません。ちょっとだけですけどね。
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