最新のガソリン・モデルに試乗した「イマオ」こと今尾直樹が、2025年からすべてのモデルをフルEV(電気自動車)にすることを発表したジャガーの戦略をめぐって、あれこれかんがえる。
衝撃的なフルEV化宣言
フェラーリは人類がつくりえた芸術のひとつである──新型F8トリブート試乗記
ジャガーはこんなにいい内燃機関の自動車をつくっているのに、どうして2025年からピュアEVのブランドになると宣言したりしたのだろう……そこのところを、ジャガーXEを試乗しながら、しばし考えた。
客観的に申しあげれば、すべての自動車は電動化へと向かっている。内燃機関が捨てられるのは時間の問題といってよいだろう。気候変動がもはや戻ることができないポイントに達するまで、私たちに残された時間はあとわずかしかない。というのが少なくとも国連の気候変動条約に参加する諸国の意見で、わがニッポンも「2050年カーボン・ニュートラル、脱炭素化社会を目指す」ことを政府が昨年宣言している。
ジャガーが本拠地を構えるイギリス政府は日本よりもっと積極的で、「グリーン・インダストリアル・レボリューション」なる環境政策のひとつとして、2030年からガソリン&ディーゼル・エンジンの乗用車と商用バンの新車販売を終了すると明記している。ハイブリッドに関しては2035年まで認めるものの、それ以降でできる新車販売は100%ゼロ・エミッション車に限られる。
であるにしても、ジャガーのピュアEV化を2025年から始めるというのは、あまりに早い。イギリス人の発音をマネてカタカナ表記すると、ジャギュアの内燃機関のクルマの生産があと4年で終わってしまうのだ。う~む。なんたるこっちゃ!!
いま一度確認しておくと、自動車マニアにとっては超ショッキングなジャガーのピュアEV化宣言は、本年2月15日に発表されたジャガー・ランドローバー(JLR)社の新グローバル戦略「Reimagine(リイマジン)」で明らかにされた。日本語訳のプレスリリースには次のようにはっきり書かれている。
「『ユニークなポテンシャルの実現』を目指し、ジャガーを2025年よりピュアEV(電気自動車)のラグジュアリー・ブランドとして再生」する、と。
「Reimagine」戦略は、2020年7月にJLRのCEOに就任したティエリー・ボロレ氏のリーダーシップによってつくられたもので、「サステイナビリティ(持続可能性)に富んだモダン・ラグジュアリーのリイマジネーション(再構築)、ユニークな顧客体験の提供、ポジティブな社会的インパクトの創出を目指す」と、同社の方向性を打ち出している。
具体的には、2039年までに実質ゼロ・カーボンを目指すとか、次の5年間にランドローバーはピュアEVを6モデル送り出して、ラグジュアリーSUVの世界のリーダーであり続けるとか、あるいは親会社のインドのタタ・グループとの連携を進めるとか、2025年までにキャッシュ・フローの黒字化を目指すとか、などを表明している。
そうしたなかでのジャガーのピュアEVブランド化であり、興味深いことに、EV専用モデルとなる予定だった旗艦XJの次期モデルは、発売直前にお蔵入りとされた。Reimagineのプレスリリースにはこう書かれている。
「ジャガーは 2020 年代半ばまでにブランド再生を実行していきます。感性に訴えかけるデザインと、 次世代を切り拓くテクノロジーを備え、非常に美しい新たなポートフォリオを提供するピュア EV のラグジュアリー・ブランドとして生まれ変わります。ジャガーは、お客様のジャガーに対する期待に応え、 ジャガーでしか味わえない感覚をもたらす、美しい自動車体験を作り出すことで、人々の生活や日常を特別なものにする存在となります。なお、『XJ』というネームプレート自体は存続する可能性はありますが、今後発売するべく開発を進めていた『XJ』後継モデルは、ラインアップには含まれず、今後ジャガー・ブランドは独自の方向性を追求していきます」
ネットで「次期XJ」と検索すると、スクープ画像が出てくる。それはEVとはいえ、現行のXEやXFをもうちょっと大型にしたようなデザインで、それでは、「感性に訴えかけるデザイン」として物足りないと判断されたのだろう。
Reimagine戦略を読む限り、ティエリー・ボロレCEOは、現在のジャガーは「ユニークなポテンシャル」を実現できていない、と判断しているわけで、そうなると昨年のジャガーの販売トップ3である「F-PACE」、「E-PACE」、そしてXEについてもダメ出しをしていることになりそうだ。
こういうことができるのは、筆者の見るところ、ボロレ氏がルノーの元CEO、つまり、外部からやってきた経営者だから、だろう。内部昇格の人事では、なかなかこういうことはカドが立ってできるものではないはずだ。じつは筆者、現在のジャガー・オウナー諸兄に怒られることを承知で申し上げますけれど、現在のジャガーにあまり魅力を感じておらんのです。
大いなる楽しみ
冒頭に書いたように、今回試乗したジャガーXE R-Dynamic HSE 2.0L P300はよいクルマである。2014年にデビューし、翌年日本に上陸した、初のオリジナル・デザインのコンパクト・ジャガーは、2019年にフェイスリフトを受けている。
今回、筆者は久しぶりにそのステアリングを握り、おぼろげな記憶を辿ると、初期型より乗り心地が快適方向に改善されているようだし、運転支援システムが搭載されていたりもして、技術的にもアップデートしている。
内外のデザインはモダンでキレがあるし、2.0リッター直列4気筒ガソリン・ターボはトルキーで、静粛性が高く、300psの高性能コンパクト・セダンとして、ドイツやイタリアのライバルとは異なる、イギリス車ならでは落ち着きがほのかに感じられる。
ジャガーは年産10万台、ランドローバーと合わせても、つまりJLR全体で年産50万台程度の、小さなメーカーである。車種の数のわりに、マツダの半分以下の生産規模なのだ。
そんな小さな弱小メーカーが、発表以来の7年間、コツコツ、ゆっくりと熟成を図ってきたモデルがXEで、そう考えると、最後の内燃機関搭載のジャガーとなるであろうこのコンパクト・セダンをいまのうちに手に入れておく、というのもたいへんよい考えであるように思える。
とはいえ、ライバルに比して、XEが圧倒的に優れている、もしくは圧倒的に別格の存在とは、残念ながらいえない。
筆者が知る1980~1990年代のジャガー、たとえばデイムラー「ダブルシックス」とか、あるいはもうちょっと前の「マーク2」とか、もっと遡ると、たまさか筆者は昨年末に「XK120」と「Eタイプ」の2台を束の間試乗させていただくという僥倖に恵まれたのですけれど、この2台なんて、いま思い出しても本当にヨカッタ。人間の脳味噌、ハートにズドンと響くインパクトを、クルマ自体が持っていた。
もしも、そういう存在としてリイマジンしようというのであれば、大賛成。ジャガー・ルネッサンス、大歓迎である。ベントレーよりも優雅なスタイルと、フェラーリ、アストン・マーティンを上まわる高性能。そして、レザーの品質はちょっぴり劣るかもしれないけれど、これらライバルの半分から3分の1という低価格でもって、自動車ファンを仰天させてくれるのだとしたら、2025年のEVジャガーは大いなる楽しみとなる。
そういえば、2017年にJLRのクラシック部門がつくった「Eタイプ ゼロ」というEVの試作車があった。1968年のEタイプ・シリーズ1.5と呼ばれるモデルをEV化したもので、オリジナルEタイプのシリーズ1より1秒も速い、5.5秒の0-100km/h加速を誇った。これを量産化すれば、いいのになぁ。XK120もいいし、XJ6もいい。
ま、それらのEVはないにしても、2025年が待ち遠しい!
文・今尾直樹 写真・田村翔
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老舗の味が失われるのは残念でならない。