鈴鹿サーキットが変わろうとしている。
現時点で鈴鹿サーキットでのF1日本GPの開催契約は、2029年まで。2030年以降の開催に関しては、まだ未定の状態だ。しかしその2030年以降も鈴鹿でF1日本GPを続けていくために、鈴鹿サーキットは組織を編成し、新たな部署を立ち上げた。
【コラム】鈴鹿サーキットでのF1日本GPは、春開催になっても観戦券の売れ行き好調。でもそこにある危機感……将来に向け、今やらなければ
”ビジネスマーケティング部”は、わずか3人だが、ひとつのスポーツ/エンターテインメントイベントだったF1日本GPを、ビジネスイベントとして昇華させようとしている。
現在F1は、世界中で人気が急拡大中。そのため新たに開催したいと名乗りをあげる国や地域は、枚挙にいとまがない。日本国内にもF1開催を狙う都市がいくつかあるとも言われる。いかにドライバーやファンからの評価・人気が高い鈴鹿サーキットであろうと、開催契約を延長できるという保証はない。
なぜ鈴鹿での日本GPを続けていく必要があるのか?
F1の開催権を得るためには、F1にとって何らかの開催メリットがなければならない。当該のサーキット/地域で開催すれば、F1のプレゼンスが上がるか、もしくは巨額の収入を期待できるか……簡単に言えばその二極であろう。
F1のプレゼンスを上げるのに役立つ開催というのは、非常に稀。今で言えばモナコくらいであろうか。しかしそのモナコでさえ、毎年のように「開催がなくなるのではないか」という噂が上がる、そんな現状である。
つまり現実的には、F1の開催権を確保するならば、F1にどれだけの収益をもたらすことができるかというのが最重要ということになろう。つまり、巨額の開催権料を支払うことができるかどうかだ。
海外のグランプリの多くは、国や自治体が金銭的にもサポートしていることが多い。F1を開催することで、その国や地域のプレゼンスを上げようとしているのだ。しかし一方で、公的資金による支援を受けていない、民間主導のグランプリもわずかに存在する。そのうちのひとつが、日本GPである。
F1日本GPは、鈴鹿サーキットを運営するホンダモビリティランドが主催。そしてその開催権料は、観戦チケットの売り上げや場内での物販による収入によって賄われている。つまり収入を上げるためには、より多くのチケットを売らなければならない。
しかしこれは簡単ではない。F1日本GPに、もっと多くのファンを惹きつけるだけの魅力がない……というわけではない。実は鈴鹿サーキットの施設的に、観客受け入れ数のキャパシティがほぼ限界に達しているのだ。つまり、観戦チケットおよび物販による収入は、これ以上はあまり増やせないのだ。
そこで立ち上がったのが、冒頭に記したビジネスマーケティング部の3人だ。
これまでF1日本GPのスポンサーを務めたり、場内にPRブースを出展するのは、F1のサプライヤーだったり、自動車メーカーだったり……つまりF1と実質的に繋がりのある企業がほとんどだった。しかし世界に目線を広げれば、F1と全く関係のない企業が、F1を使って自社のビジネスに役立てるというのは普通のこと。最近で言えばアメリカンエキスプレスやレノボ、レゴ、ハイネケンなどがその筆頭であり、日本GPのファンゾーンにブースを出展するなど、F1を活用したマーケティングを行なった。高級ブランドの数々を束ねるLVMHもそうだし、2026年からはディズニーもここに加わるという。
日本でも、自動車業界以外の企業がF1/F1日本GPを自社のビジネスに役立てることができるはず。それがビジネスマーケティング部の考え方だ。
「2030年以降もF1日本GPを続けていくためには、日本の企業にF1の持つビジネス価値を最大限活用していただくことが必要です。これまで私たちは、こうした切り口での発信を積極的に行なってきませんでした。F1と関わることが、企業にとって好影響があるということを認識いただき、私たちとパートナーシップを組んでいただくことによってそれを実現する……ということがこのビジネスマーケティング部のミッションです」
同グループの竹内大地氏はそう説明する。
「イギリスやマイアミ、シンガポールなど、民間主導でやっているグランプリは、パートナーシップによる収入が非常に多く、海外ではそれが当たり前になってきています。だからこそ我々も危機感を持ち、そこに可能性を感じました」
以前とは大きく変わったF1の世界観
彼らが考える企業によるF1日本GPの活用方法は、ロゴが国際映像に映るといった広告だけではなく、BtoB(企業間取引)である。F1は、他ではまず体験できない”非日常”空間である。それをお得意様の”おもてなし”に活用してもらうというのが、最も考えやすいパートナーシップの枠組である。
今年の日本GPの際には、ビジネスカンファレンスが行なわれ、F1に興味を持つ企業を鈴鹿サーキットに招待。今のF1の雰囲気を感じてもらったという。
参加した企業の担当者の多くは、当然F1のことを知っている。しかしその知識は、かつて日本でF1がブームだったバブル期の『セナプロ時代』止まり。そんな方々に今の生のF1を改めて知ってもらうことは非常に重要だった。
「今回のカンファレンスでは、今のF1の雰囲気や世界観、規模感を知っていただくこと、そしてF1をビジネスとして活用する上でのイメージを持っていただくことを目標に掲げていました」
そう前述の竹内氏は語った。
「今回はF1の競技としての側面はもちろん、ピットウォークやトラックでのコースツアー、パドックエリアの視察など……そういう部分の世界観を体験していただきました。F1に対する印象を変えられたのではないかと思います」
このビジネスカンファレンスには、74社130名が参加したという。これは予想を大きく上回る数だった……その証拠に、本来ならばそのカンファレンスの模様をメディアも現地で取材できる段取りだったが、参加人数が多すぎたために会場に入れず、取材を断念しなければいけなかった。
しかも参加した企業は、これまで鈴鹿サーキットと関わりのあった会社ばかりではなく、幅広い業界の人たちが参加したという。これも新たな広がりに繋がるかもしれない。
「金融系やIT系、総合商社、不動産、キャラクタービジネスをやられている企業、大手通信会社まで、かなり幅広い業態の企業にご参加いただきました」
「大変興味を持っていただき、具体的な話を進めていけそうな企業もいくつかあります」
そもそも彼ら、つまりビジネスマーケティング部の3人は、F1日本GPをBtoBに役立ててもらうことを中心に考えていたという。しかしながら企画内容を煮詰めていくうちに、ある可能性に気付いた。それが、BtoBを繰り返していけばいずれtoC……つまりF1ファンになる可能性がある、一般の人たちに繋がるかもしれないということだ。
「日本でF1に関わる企業が増えていくことになれば、日本でのファンも増えていくのではないか、そんなことを期待しています」
「どういう未来が待っているんだろうと考えた時に、BtoBの先にはさらにBがあり、またBがあって、そのうちC(カスタマー/一般顧客)に繋がるだろうと考えました」
「例えばF1日本GPとパートナーシップを組んでいただければ、『パートナーを組んだ』と各企業から発信していただくことができます。特別なロゴも使え、それを使ってキャンペーンなどを行なっていただくことになれば、一般の方にF1、そして日本GPのことを知っていただくことに繋がるのではないかと考えています」
日本での、日常でF1に触れられるように
前述の通り、今のF1日本GPの観戦券はほぼ完売。しかも鈴鹿サーキットのキャパシティ上限に近づいている。ただ、それが未来永劫続くわけではない。今の観客層は年齢が高く、手をこまねいていれば自然と数は減っていく……つまり新たな層に興味を持ってもらい、新陳代謝を促進するのは必要不可欠なことだ。
「今はチケットが順調に売れているからいいですが、これが5年後、10年後も同じですかと考えると、どんどん減っていく可能性があると思います。日本の人口も減る一方ですから、そういう危機感は当たり前にあります」
だからこそ若い新しい層に、BtoBを通じてアプローチできることを期待している。まだまだF1のファンになってくれる層の人たちがいるはずだ。
「F1の地上波での放送が終わった後、F1にほとんど触れずに育ってきた方々がいるはずなんです。新しいエンターテインメントとして見てくれる人がいるだろうと考えています」
「まだF1を知らない人がいて、知ってくれたらF1を好きになってくれる可能性があると思います。toBに関しても、toCに関しても、日本GPを開催している私たちはそうした新しいファンを増やす努力をしていかなければいけないと思っています」
日本GPには、たしかにたくさんのお客様が訪れる。しかし、普段生活している中でF1に触れる機会は稀。テレビを見ていても、そして街を歩いていても、F1関連の何らかのモノを目にすることはまずない。しかし、多くの日本企業がF1日本GPのパートナーになり、それを活かすようになれば、F1が溢れる日常が現実のモノとなる可能性がある。彼らは、そんな未来を目指しているのだ。
鈴鹿サーキットでのF1日本GP、そして日本のF1の将来は、彼らの仕事、そしてその効果にかかっているのかもしれない。
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1990年代と見比べると歴然で追い越しもままならない