近ごろ、人間の能力をテクノロジーで強化する「人間拡張(Human Augmentation)」なる言葉を耳にする機会が増えてきた。
たとえば筋肉が発する電気信号を読み取って、まるで実際の手のようにモノをつかんだりできる筋電義手(バイオニック・ハンド)もその一種だ。事故で右腕を失った男性が、バイオニック・ハンドを装着してピアノ演奏をしている動画を見たことがある人もいるかもしれない。
いわゆるハンディキャップを負った人のバイオニック・ハンドと決して同列に語るわけではないのだが、「機械による人間拡張」とは男子一般の夢でもある。
古いところではマジンガーZ然り、もう少し新しいところではいわゆるガンダムシリーズ然り。詳しくは知らないがエヴァンゲリオンというのも、その一種なのだろう。
バイオニック・ハンドはさておき、モビルスーツ的なアレの実用化には(おそらく)あと100年はかかるはず。完全なる人間拡張への道のりはまだまだ長い。
だが我々は自動車の運転免許さえ持っていれば、とある絶版名車を通じて、人間拡張の境地に近い感触が味わえることをご存じだろうか?
「とある絶版名車」とは、英国のBMCが製造していた「ミニ」というクルマだ。
最近の人にミニと言うと、おそらくはドイツのBMW社が作っているちょっと派手めな現行モデルを連想するのだろう。だがここでいうミニはそれではなく「元祖」のほう、つまり1959年にデビューした革命的小型車のことである。
1956年に中東でスエズ動乱が勃発すると、世界中で石油価格が高騰した。これを受けて当時の西ドイツでは「バブルカー」と呼ばれる2~3人乗りの超小型車が濫造されたのだが、それらバブルカーの総合性能は正直、「マトモな自動車」と呼べる水準ではなかった。
そんな状況を憂いた当時のBMC会長が、自社開発陣に「きわめて経済的で、きわめてコンパクトでありながらも、人々が十分以上に満足できるクオリティの4人乗り大衆実用車を早急に開発せよ」と命じた。
この無理難題に完璧に応えて生まれたのが元祖のほうのミニであり、その開発チームを率いたのがアレック・イシゴニスという、ギリシア系英国人のエンジニアだった。
「小さくて安いのに高性能なクルマを作れ」という会長の無茶ぶりに対してイシゴニスが採った革命的手法はさまざまあるが、決定的なそれは「エンジンを縦ではなく横向きに載せる。そしてそのうえで、後輪ではなく前輪を駆動させる」というアイデアだ。
これは、クルマにまったく詳しくない人には意味不明な呪文に見える文章かもしれない。だが少しでも自動車のメカニズムについての知識があれば、こう思うだろう。
「それってごく普通のレイアウトじゃない?」
そのとおりだ。今となっては当たり前すぎる手法であり、高額なスポーツカーなどは除いた世界中のほとんどの実用車は、この「エンジン横置きの前輪駆動」という方式を採用している。
だが1950年代後半の地球においては、ごくごく一部の軽車両を除けば誰も実現できていなかったレイアウトなのだ。
イシゴニスは、加えて「変速機をエンジンの下に配置する(つまり二階建てにする)」「サスペンションには金属バネではなくゴム(ラバーコーン)を使う」「スペースを節約するため、ほとんど前例がない直径10インチというごく小さなタイヤを採用する」などのレボリューショナルな手法を駆使し、初代ミニを完成させた。
そしてミニは、BMC会長の要求どおりの「ものすごく小さくて経済的なのだけれど、大人4人が乗る実用車として普通以上に用を足せる」という名作大衆車になった。
だが思わぬ「副作用」もあった。
実用大衆車として作ったつもりなのだが、動きが妙にスポーティなのだ。
スポーティというよりは「ダイレクト」といったほうが実際のニュアンスに近いだろうか? いずれにせよ「大衆向け小型車」であるミニは、同時に「やたらと運転が楽しいクルマ」にもなってしまった。
本稿の冒頭で筆者が「人間拡張(Human Augmentation)」について触れたのは、この点ゆえである。
元祖ミニの運転席に座り、それを動かし始めると、このクルマはドライバーの肉体および精神と完全に一体化する。いやもちろん実際にそんなことはないのだが、あまりにもコンパクトで、そしてあまりにも「決して不快ではないダイレクト感」に満ちているため、まるで自らの肉体がこのクルマの形状およびサイズへとメタモルフォーゼし、そのうえで走っているかのような錯覚を覚えてしまうのだ。
英国のコメディ映画『Mr.ビーン』で、主人公氏の愛車が黄色い元祖ミニであることをご存じの方は多いだろう。そしてビーン氏は劇中でなぜかいつも、黄色のミニをえらい勢いでかっ飛ばしている。駐車するときも、どこかへ行く用事があるときも、彼はいつだっておそろしいほどシャープに走る。
ミニというクルマのことをご存じない人は、眉をひそめるかもしれないシーンだ。「ビーンは、なんだってあんなに飛ばしてるんだ?」と。
だがミニを知る者にとってあれは、思わずニヤリとしてしまうシーンである。「そうそう、どうしてもそうなるよね……」と。
ミニを買って、ビーン氏のように無法な勢いで街中をかっ飛ばそうぜという話ではない。ミニを買って、もちろん節度と法を守りながらではあるが、「人間拡張(Human Augmentation)」にも似た世界を楽しんでみるのはどうだろうか? という話を私はしている。
マニアックなことを言うのであれば、1960年代から1970年代あたりに製造された「本当のクラシックミニ」を買うのがいちばんではあるかもしれない。
だがそこにこだわりすぎる必要もない。1990年代から2000年までの最終世代であっても、しっかりと整備されてきた(できれば妙な改造はされていない)個体でさえあれば、ミニの真髄すなわち「人間拡張の境地」は十分以上に堪能できる。
その世界にご興味のある方は、ぜひ。
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
愛車管理はマイカーページで!
登録してお得なクーポンを獲得しよう
「すごい多重事故…」 関越道で「トラックなど3台が衝突」発生! 2車線が一時通行規制で「通過時間70分」の大渋滞 圏央道も混雑
“45年ぶり”マツダ「サバンナGT」復活!? まさかの「オープン仕様」&斬新“レトロ顔”がサイコー!ワイドボディも魅力の「RXカブリオレ」とは?
オヤジむせび泣き案件!! ホンダの[デートカー]が帰ってくるぞ!! 新型[プレリュード]は究極のハイブリッドスポーツだ!!!!!!!!!
「運転席の横に“クルマが踊っている”スイッチがありますが、押したら滑りますか?」 謎のスイッチの意味は? 知らない「使い方」とは
「すごい衝突事故…」 東富士五湖道路が一時「上下線通行止め!」 ミニバンが「横向き」で“全車線”ふさぐ… 富士吉田で国道も渋滞発生中
ホンダ新型「プレリュード」まもなく登場? 22年ぶり復活で噂の「MT」搭載は? 「2ドアクーペ」に反響多数!海外では“テストカー”目撃も!? 予想価格はいくら?
不要or必要? やっちゃったらおじさん認定!? 「古い」「ダサい」といわれがちな [時代遅れ]な運転法
「ノーマルタイヤで立ち往生」に国交省ブチギレ!?「行政処分の対象です」2年連続で大量発生…「スタックの7割が夏用タイヤ」今年も緊急警告
もう[トヨタ]が開発してるだと!!!!!!!!!!! 次期型[GR86/BRZ]は1.6Lターボ+ハイブリッドでほぼ確定か!?
「黄信号だ。止まろう」ドカーーーン!!! 追突されて「運転ヘタクソが!」と怒鳴られた…投稿に大反響!?「黄信号は止まるの当たり前だろ」の声も…実際の「黄信号の意味」ってどうなの?
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
申込み最短3時間後に最大20社から
愛車の査定結果をWebでお知らせ!
店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!
みんなのコメント
この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?