「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、2070年には日本の総人口は9000万人を下回り、高齢化率が38.7%に達すると予測されている。人口減少が深刻な課題である中、移民の受け入れはますます重要になってくる。移民のこれからと社会統合の現在地について、移民政策の専門家である是川夕に訊いた。
かつて日本は移民受け入れに慎重で閉鎖的と見られていたが、その状況は変わりつつある。移民に関する議論を「国際移住」と「社会統合」の2つの観点から分析する国立社会保障・人口問題研究所国際関係部部長の是川夕は、「日本では外国人が差別され、貧困に追いやられているというイメージがあったかもしれませんが、実際にデータを使って見ていくと、緩やかに社会統合が進んでいます」と話す。
「例えば、2024年6月時点で在留外国人358万人のうち、永住資格を持つ外国人は90万人を超え、在留外国人全体の3割近くに達しています。そして永住資格者は過去30年間一貫して増加をしており、就労目的の外国人に限ればアジアからの流入はアメリカよりも多いのです。賃金という面だけを切り取っても、平均的には日本人と同等あるいはそれ以上という分析結果も出ており、エンジニアなどの専門職に従事する外国人の賃金は、日本人より14%高いこともわかっています。ほかにも、持ち家率は上昇傾向にあり、例えば日系ブラジル人は派遣市場に滞留していると考えられがちですが、20年程前と比べると住宅ローンを組んで家を購入する人は増えています。長く日本に住む中で格差は着実に縮まっているんです」
日本における移民の受け入れが本格化したのは、1990年代頃からだ。2000年代以降に増えたため、第1世代はまだ若く、20代、30代が大半を占めるボリュームゾーンだという。
「つまり、日本での移民の多くが働きに来ており、これは国にとってポジティブな影響を与えると考えられます。現在、日本人女性の労働参加率は過去最高水準をマークし、高齢者の多くも働いている一方、恒常的に生産年齢人口は減少し続けています。ですから移民によって雇用が奪われる可能性はほとんどなく、それよりも助け合う必要がある。特に地方は深刻です。地域経済社会の持続可能性や発展を考えたときに、やはり外国人や若い人たちが来ることはプラスです。反対にそうでなければ、自治体などが消滅してしまいかねません」
また、アジアの若い人にとって日本への留学は現実的な選択肢なのだと是川は続ける。「欧米へ行く人が多いのではないかと考えられがちですが、コストやビザ等の問題で実力というより、富や移住先とのコネがある一部の層しか行けない構造になっています。それに比べ、日本は実力があれば比較的来やすい。さらに新卒採用の間口の広さがプラスに働き、日本は留学生の卒業後の滞在率が4割超と、国際的に見ても非常に高い。その若者たちが今後着実に管理職に就いていけるかといったことは見ていく必要がありますが、日本の人口減少のマイナス影響を抑制する効果をもたらしていると言えるでしょう」
日本に排斥運動の土壌はないがヘイトスピーチにはNOをマクロな視点ではプラスの効果が多そうだ。ただしミクロで見ると、まださまざまな課題はある。例えば、差別や排斥といった問題がないわけではない。
「日本でもヘイトスピーチが社会問題としてあり、何かをきっかけに排斥運動を生む引き金になりかねないため、川崎市のヘイトスピーチ条例のように取り締まることが必要不可欠です。ですが、ヘイトスピーチは個人の感情に起因することが多く、社会全体を象徴しているわけではありません。日本の外国人受け入れの全体像であるということはなく、何か事件・問題が起きた時は人権やウェルビーイングの観点から個別事案としてしっかり扱う必要があります」
また、日本が抱える移民政策の最大の課題は、親とともに日本へ来た子どもたちの学習環境にあるという。「最近の研究では、ただ日本語だけで教育を受けていると、学習に必要な抽象的な思考の発達が遅れてしまうことがわかってきています。大人は母語で考える力が身についているため、通訳や生活言語を習得することで解決していけますが、子どもの場合は年齢や状況に合わせた母語保障やアイデンティティ形成を支援する仕組みが必要です。移民の大半である20代、30代の家族形成が今後進み、さらに2023年に母国からの家族の呼び寄せを可能にする特定技能2号の対象分野が拡大しました。単身で来日している25万人の特定技能1号労働者のうち、向こう3~5年以内には7割近くが2号に移行すると予想されています。今後、日本社会として子どもたちの受け入れ体制をいかにつくっていけるかが、中長期的課題としてあります」
日本の移民政策をより良いものへと発展させていく鍵は、アジアの国際労働市場の発展を意識することだと是川は話す。
「欧米諸国で顕在化する移民政策による分断は、新しく移民を受け入れたことによって起きたというよりは、植民地時代からあった宗主国と植民地の間の格差が、そのまま引き継がれた形で起きています。そのため、非正規滞在の増加や分断が課題としてあります。一方で、日本やアジアでは欧米でみられるような排斥運動に繋がるようなシナリオは現時点では考えにくく、取り組むべきことのコンテクストが異なることを理解した上で考えることが重要です。アジアの国際移動は多層性はあれど、基本は経済的チャンスを求めて働きにいくという労働市場型。それゆえ、日本は単なる受け入れ国ではなく、労働力を循環させ、アジア地域における経済的な連携強化と深く結びついていく必要があると思います」
つまり、アジアを一つの共通した労働市場として見て、その中で人材が自由に効率的に行き来できるような仕組み作りが今後の課題点としてあると続ける。「例えば、スキル互換性を高め、現地で取得した資格や技能試験の結果を日本でも評価できる仕組みを整備できれば、適した人材が効率的に日本で活躍できるだけでなく、逆に日本で得た経験やスキルを持ち帰り、出身国で新たな産業を育てる可能性が生まれます。また、多国間の社会保障協定を強化していければ、日本の年金制度への貢献者が増えると同時に、移民がリタイア後に母国で安心して暮らせる環境が整備されます。こうした多国間の枠組みや、雇用者と求職者のマッチングを促進する国際的な仕組みを強化し発展していくことが、移民政策が持つ本質的な価値ではないでしょうか」
是川夕/YU KOREKAWA国立社会保障・人口問題研究所国際関係部部長。東京大学文学部、同大学大学院人文社会系研究科博士課程修了、カリフォルニア大学大学院アーバイン校修了。専門は社会人口学、移民研究。出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」委員。OECD移民政策専門家会合メンバー等。近著に『日本の移住労働者─OECD労働移民政策レビュー:日本』。
写真・GION 文・大庭美菜 編集・橋田真木(GQ)
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