実は「トロバスお別れの会」
富山県と長野県を結ぶ山岳観光ルート「立山黒部アルペンルート」を運営する立山黒部貫光は、立山トンネル(室堂―大観峰、3.7km)での営業運転を24年11月30日で終えた日本最後のトロリーバスと、代わりに25年4月15日に登場した電気自動車(EV)バスの新旧車両を並べたイベント「のりものデイズ・夏篇」を6月27日―7月1日に室堂(富山県立山町)で開催しました。
【見たことある!?】これがEVバス化で復活した「通標(タブレット)」です!(写真)
立山黒部貫光は7月上旬にトロリーバスの廃車回送を完了し、全て解体することを明らかにしました。「お別れの会」の様相を呈したイベントには大勢の愛好家らが訪れ、解説役を務めた運転手は自身が抱えていた「プレッシャー」を打ち明けました。
筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)が訪れた6月28日には、立山黒部貫光のトロリーバスで初の女性運転手として約10年間ハンドルを握った山本佳慧さんが新旧車両のさまざまな豆知識やトリビアを披露しました。山本さんは現在、EVバスを運転しています。
トロリーバスは屋根に棒状の集電装置「トロリーポール」が付いており、これを使って上空に張ったトロリー線(架線)から電気を取り込んでモーターで走ります。ハンドルや足元のペダルを操作し、タイヤで走る様子から一般的なバスのように思えますが、鉄道事業法では鉄道の一種である「無軌条電車」に分類しています。
山本さんはトロリーバスの旅客輸送には「動力車操縦者運転免許証に加え、バスの運転技術も必要なため(大型・中型路線バスの運行にいる)大型2種自動車免許証も必要です」と説明し、自身の動力車操縦者運転免許証の表紙を見せてくれました。EVバスへの移行で、大型2種免許があれば営業運転をできるようになりました。
ディーゼルバス→トロリーバス→EVバスへ変化した半世紀
立山黒部アルペンルートはほぼ全区間が中部山岳国立公園内にあり、環境保全が必要とされます。全線開通に伴って1971年に旅客輸送が始まった立山トンネルではディーゼルバスが当初使われていましたが、ディーゼルバスは走行中に出す排気ガスがトンネル内にこもるのが問題化しました。
そこで1996年、走る時に排気ガスも二酸化炭素(CO2)も出さない優れた環境性能を持つトロリーバスに切り替わりました。同じ立山黒部アルペンルートで長野県側の関電トンネルを走るトロリーバスが2018年に運行を終了後、立山トンネルのものは「日本唯一のトロリーバス」となりました。
しかし、車両が老朽化する中で「いろいろな問題が発生し、維持のための部品(確保)の関係もあって会社が限界だと判断した」(立山黒部貫光室堂運輸区の早川 忍技術長)。このため2024年に29年間の幕を下ろすことになりました。同じトロリーバスへの置き換えは製造費がかさむことなどから、関電トンネルと同じく走行中にCO2を出さないリチウムイオン電池を充電して走るEVバスに白羽の矢が立ちました。
導入されたのは中国の電気自動車(EV)メーカー、比亜迪(BYD)の大型EVバス「E8」。トロリーバスと同じく8台を入れ、車体側面にはそれぞれ異なる装飾を施しています。うち1―5号車は車体後方に室堂平、みくりが池といったルート上の景勝地の写真で彩り、6―8号車には富山県を舞台にしたアニメ映画『おおかみこどもの雨と雪』の登場キャラクターらが描かれています。
山本さんは「(運転手を含めた)定員は80人と、トロリーバスの73人より7人多くなり、乗降口がすごく低くなって車いすのお客様用にスロープを出せるようになった」と利点を指摘しました。全長は10.5mとトロリーバスより58cm短く、(前後のタイヤの中心間の)ホイールベースも短くなったため「小回りが利く」と運転上の変化も話します。
もちろんEVバスは架線の代わりに充電が必要ですが、「フル充電の状態で250kmほど走ることができ、立山トンネルならば約35往復できる計算です」と山本さん。「フル充電から1日走ると残りは50%ぐらいになり、営業終了後に翌日の運行のために充電器で充電しています」と説明しました。
EVバス化で「蘇った」懐かしの風景とは?
EVバスになって最高速度が45km/hと5km/h上がった、という説明が気になった筆者は、質疑応答の際に理由を質問しました。すると、トロリーバスのラストランの取材でお世話になった室堂運輸区の堀田淳一区長がこう教えてくれました。
「トロリーバスは自動制御によって信号にて運行しておりますが、EVバスはカメラ(の映像)を監視しながら手動で信号を動かしており、通票(タブレット)の交換も加わって時間が長くなるため、運行時間を抑えるために速度を上げました」
EVバスになったのに伴い、立山トンネルの途中でバスが行き違う際に、運転手同士がタブレットを交換する様子がディーゼルバス時代以来、30年ぶりに復活したのも大きな見所です。
トンネルの天井部に残る架線をどうするかとの質問に堀田さんは「正直われわれは名残惜しいので残しておきます」と冗談で参加者を笑わせた後、「これから徐々に撤去します」と明らかにしました。
その後も愛好家ならではの鋭い質問が続き、山本さんは「皆さんのトロリーバス愛を感じてすごくうれしかったです」と笑顔を見せました。自身も「トロリーバスにはすごい思い入れがある」としながらも、EVバスに切り替わって「プレッシャーから解放された」と打ち明けたことがあります。それは「トロリーポールが架線から外れてしまわないように注意しながら走っていた」ことです。
山本さんは「トロリーポールが架線から外れると、車体後部の(巻き取り装置)レトリーバーがロープを巻き取ってしまうため、解除するためにはちょっと力がいる作業になります」と打ち明けました。装置がロープを巻き取るのは、トロリーポールを車両に引き戻し、架線設備などの損傷や事故を防ぐためです。ただ、運転手は車外に出て、トロリーポールを架線に戻す復旧作業を強いられます。
トロリーバスは架線の分岐部や交差部でトロリーポールが外れやすいものの、山本さんが復旧作業をしたのは訓練時だけで「運行時は1回も外さずに乗り切れた」と実に優秀です。
参加した東京都在住の中学2年生の男子生徒は「立山トンネルのトロリーバスに初めて乗った時に一目惚れして以来、何度も乗りました」と話し、この日も車両を眺めながら「やっぱりかわいい」と感嘆していました。トロリーバスの引退については「老朽化し、交換用の部品もなくなっているのでしょうがない」と理解を示し、「(立山黒部貫光の)皆さんが良い方々で、懇意に接してもらっている運転手さんもいる」と話し、立山黒部アルペンルートの魅力は変わらないと強調しました。
確かに立山トンネルの車両は”世代交代”しても、愛着を持ってトロリーバスの運行に携わってきた立山黒部貫光の社員が残っています。それぞれの写真がはぐくんだかけがえのない思い出や哀惜の念は、これからも長く語り継がれていくことでしょう。(大塚圭一郎(共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員))
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