マニア垂涎の神秘的ジャンクヤード
先ごろ、ランボルギーニ「ミウラ」がとあるオークションに出品され、注目を集めました。何しろジャンクヤードにあった車両のようで、ガラクタ同然のサビついたものばかりだったからです。
【画像】ボロボロのランボルギーニ「ミウラ」に価値はある? これがオークションに出品されたマニア垂涎のコレクションです(25枚)
1950年代に北米へと渡ってきたドイツ人移民のルディ・クラインは、当初、精肉店を営んでいました。しかし、ヨーロッパの名車の解体やパーツ売買がもうかると気づき、1967年に自らの会社「ポルシェ・フォーリン・オート・レッキング」を設立します。
ちなみに、ポルシェから訴えられることを危惧し、“Porsche”ではなくあえて“Porche”と誤字を採用していたそうです。
“ポルシェ”という名称を用いたにもかかわらず、このジャンクヤードはヨーロッパの高級車を幅広く取り扱っていたのだとか。とはいえ、クラインが仕入れていた車両の多くは事故車や焼損車、あるいは部品取り車でした。
それが戦略的だったのか、はたまた頑固だっただけなのか、クラインは中古パーツに高値をつけていたため、一般人による購入は困難を極めたといいます。結果、在庫は積み上がり、時間の経過とともに“コレクション”へと昇華していったのです。
マニア垂涎の神秘的なジャンクヤードというウワサが一部で広がり、創業者が亡くなって数年後には『Junkyard: Behind the Gates at California’s Secretive European-Car Salvage Yard(ジャンクヤード:カリフォルニアの極秘欧州車サルベージヤードの門の向こう側)』という写真集まで発売されたほどです。
現在、同地に掲げられている看板は「クライン・アウト・ハウス」となっています。周囲は塀で囲まれており、なかにどのような車両が収まっているのか外からうかがい知ることはできません。しかしGoogle Mapで確認すると、かろうじて隣接する中古車販売店の敷地のすき間から、古いポルシェ「911」が文字どおり積み上げられている様子が見て取れます。
今回、ボロボロのランボルギーニ「ミウラ」が話題を呼んだオークションも、そうしたクラインのコレクションでした。
RMサザビーズは、「ザ・ジャンクヤード:ルディ・クライン・コレクション」(10月26日)ならびに「ザ・ジャンクヤード:オンライン」(10月26~28日)と銘打ってオークションを開催。マニア垂涎の神秘的なジャンクヤードにあった品々が、ついにオークションに出品されたのです。
●ボロボロでもレストアすれば十分見合う価値に
RMサザビーズのオークションに出品されたクラインのコレクションは、グランプリドライバーであったルドルフ・カラッチオラに納車された1935年式のメルセデス・ベンツ「500K スペシャルクーペ」、29台しか生産されなかった軽量合金ボディを持つ希少な1955年式のメルセデス・ベンツ「300SL“ガルウイング”」、この世に1台しか存在しない1967年式のイソ「グリフォ A3/Lスパイダー プロトタイプ」、ドイツの博物館に貸し出されていた2台のホルヒ……など、ちょっと驚きを隠せないラインアップでした。
そんななか、ジャンクヤードらしくガラクタ同然にサビついたパーツも多数出品されていたのですが、特にランボルギーニ「ミウラ」関連の出品物は圧巻でした。
1968年式のランボルギーニ「ミウラ P400」のフロントエンドとホイールを、文字どおり“積載”した状態の1969年式フォルクスワーゲン「タイプ2 ピックアップ」が出品されています。
しかもこの「ミウラ P400」、シャシー番号(3646)が入ったフレーム、エンジン、トランスミッションはイタリアに送られ、奇跡の“復活”を遂げています。2017年にアールキュリエルのオークションに出品され、88万8040ユーロ(約1億4519万円)で落札されました。
今回のオークションに登場したフロントエンドこそ新車時の“本物”ですが、クラシックカーで重視されるのは“マッチングナンバー=新車時のシャシー番号、エンジン番号、トランスミッション番号がそろっていること)”なんですよね……。
それにしても、「タイプ2 ピックアップ」に「ミウラ P400」のフロントエンドを積んだ、セット販売ならぬセット出品はナイスアイデアです。「ミウラ P400」のフロントエンドだけではどうにもなりませんし、「タイプ2 ピックアップ」をレストアするには現在価値に全く見合わないコストがかかるでしょう。予想落札価格は、安めに聞こえる2万ドル~3万ドル(約327万円~491万円)でした。
もっとも、予想落札価格が高いのか安いのかさえ判断がつかないのも事実。たとえ「ミウラ」のフロントエンドだろうと、いってみれば鉄くずです。このセット出品のみならず今回の出品車両と出品物の全般にいえることですが、車両や部品として見るのではなく、“現代アート”という視点で眺めてみると、あら不思議。急に予想落札価格が安く思えてきました。
「ミウラ P400」のフロントエンドは正真正銘の本物ですし、朽ち果てかけた「タイプ2ピックアップ」も現代アートと思えばシュールに感じられます。
さらに今回のオークションでは、「ミウラ P400」のフロントエンドのほかに、それなりのコストをかけてフルレストアすれば復活しそうな「ミウラ」が3台出品されていました。
まず、1967年式の赤い「ミウラ P400」(予想落札価格35万ドル~40万ドル=約5722万5000円~6540万円)。3台の中で最も予想落札価格が安いのは、相応のコンディションだから、でしょう。
続いて、1968年式の緑の「ミウラ P400」(予想落札価格50万~70万ドル=約8175万円~1億1445万円)。こちらは同じ車体番号の車両がドイツで出品されたことがあるものの、「コチラのほうが本物であると確信」という恐ろしい一文が、RMサザビーズの車両紹介に記述されていました……。
そして最後は、1969年式の青の「ミウラ P400S」(予想落札価格50万~70万ドル=約8175万円~1億1445万円)。新車オーダー時には黄色だったものを、納車前にランボルギーニ社でブルーに塗り替えた代物だそうです。コンディションは悪いものの、オリジナルペイントやオリジナルパーツが保たれている車両であり、高い評価を得られるんだそうです。
いずれの車両も、写真を見るとジャンクヤードにふさわしい“ポンコツ”ぶりです。予想落札価格が強気に見える設定となっているのは、たとえレストアに1億円かかっても現在価値に十分見合うからでしょう。「腐っても鯛」とはまさにこのことですね。
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