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「鳶ファッション」が世界を魅了する理由──職人スタイルの新たな地平

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「鳶ファッション」が世界を魅了する理由──職人スタイルの新たな地平

アメカジに飽きたとき、男性たちは東へ向かう──。英版『GQ』は、鳶服が与えたインスピレーションのリアルを追った。

数カ月前のこと。お気に入りの抹茶カフェで読書──いや、本を読むフリをしていたときのことだ。作家の献辞ページを何となく眺めながら、外でディープそうな話をしている男性2人組が目に入った。

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彼らのパンツはとにかく大きくて、バルーンのようなシルエットだった。頭にはバンダナを巻き、足もとは足袋靴。まるで職人だ。ここは工事現場でもなければ、日本でもないのに。

その格好は、なぜか頭から離れなかった。そして気がつけば、SNS上でも生活の中でも、そこかしこで見かけるようになった。Instagram、TikTok、Pinterest、果てはBlueSkyまで。一部の人にとってのハイパーニッチな趣味かと思いきや、数年前から静かにメンズウェアの世界に浸透していた本格的なファッショントレンドだったのだ。つい先日も、英国のTikTokerアリ・メガーニがかなり精度の高いHow-toチュートリアル動画をアップした。このトレンドは、みるみる広がりつつある。

伝統と機能美が融合した“着たい服”

この“日本の建設現場の働き人”スタイルは、鳶職人から発想を得たものだ。高所作業を担う彼らのスタイルは、華麗なものではないが、人々の予想を超えるようなストリート感があり、エッジが効いている。腰丈のショートジャケットに、極太のニッカポッカパンツ(語源は“ニッカーボッカー”)、分かれたつま先の地下足袋、汗を吸い取る手ぬぐい。場合によっては、ツール用ループや金具がついたピンストライプのつなぎまで登場する。

「鳶スタイルは、伝統と機能美が合わさったものです」と語るのは、横浜を拠点にするスタイリスト、ブルック・クラムだ。「夏の暑さに対応した通気性のあるワイドパンツ、グリップ力が十分でライトな足袋靴。すべてが実用から生まれたデザインですが、その快適さと適応性で、今では“着たい服”として評価されています」

2010年代には東京・原宿のストリートでも、このようなワークウェアに触発されたスタイルを見かけるようになった。同時期に、建設カルチャーを讃える雑誌『Blue’s Magazine』が創刊された。

「日本では、“師匠を敬う”という文化的価値が深く根付いています」と語るのは、国内外のブランドでマーケティング・アドバイザーとして活動する池戸豪だ。「“守破離”という日本の芸道全般に由来する考え方があって、まずば“守”で型を守り、“破”で破り、“離”で独自のスタイルを確立するという流れです。鳶の文化もまさにそれで、今の進化したスタイルは、そうした精神性が反映された結果なのかもしれません」

「日本の職人の世界では、“守”を極めなければ“破”には進めず、“破”がなければ“離”には至らない──。そんな“守破離”の哲学こそが、鳶スタイルの継承と進化を支えているのだと思います。だからこそ、今世界で注目されている日本の鳶職のスタイルは、単なる見た目の興味深さではなく、規律と敬意、そして仲間意識に根ざしているのだと考えます」

Visvimの中村ヒロキ、Neighborhoodの滝沢伸介、The Soloistの宮下貴裕といったデザイナーたちも、鳶スタイルを積極的に取り入れている。オーラリーはパリコレでネイビーカバーオールとワイドパンツでそのインスピレーションを提示し、アンダーカバーは2022年春夏で伝統的なヘッドギアやオーバーオールを全面に押し出した。そしてアーティストのダニエル・アーシャムは、日本の作業着ブランド・寅壱とカプセルコレクションを制作した。こうなれば、海外のメンズウェア愛好家たちが飛びつかないわけがない。

「巨大なパンツを穿いてバンダナを巻いた職人たちの姿は、知らなければむしろすごく新鮮でクールに映ると思います」と語るのは、東京在住のファッションジャーナリスト、アシュリー・小川・クラークだ。「インスタのファッションカルチャー系アカウントでも、『一番イケてるのは日本の職人たち』って投稿が増えてますね」

空調付きジャケットも着想源

TikTokで話題になったメガーニも、鳶スタイルを「偶然見つけた」と語る。「理想的なバギージーンズがなかなかなくてネットで探していたら、たまたま鳶職人ファッションを見つけて。“これだ”と思ったんです。バルーン型のシルエットに、裾が絞られている。(ニッカポッカは)まさに理想の形でした」

このブームは、より広い層の西洋文化圏が日本のニッチブランドに目をつけていることとも関係している。カルト的人気を誇るブランドであるKAPITALをLVMHが買収したことや、プーマがBLUE BLUE JAPANとコラボしたことは、その一例だ。アメリカの影響を受けた日本のストリートブランドは以前から米国で手に入れやすかったが、日本独自のより伝統的な生地や素材が注目を集めるようになったのは、つい最近の出来事だ。

「昔は、アメリカ古着は“ステータス”、日本古着は“安上がり”という見られ方がされていました」と話すのは、サンフランシスコで日本式のレザーアイテムを作るPalomaの創設者、ロレアーノ・ファエディ。「でも今は、海外からの観光客が日本の古着を“目的”にして訪れてくれます。リバイバルだけではなく、バレルレッグジーンズなどにみるように、昔ながらのシルエットが今のトレンドに影響を与えるようにもなってきたんです」

西洋の定番ワークウェアが、やや飽和してきたことも要因かもしれない。Carhartt WIPやディッキーズ、ティンバーランドといった鉄板ブランドは依然として人気だが、その人気の反動として“違うスタイル”を探す動きも活発になってくる。「meanswhileみたいな日本ブランドは、“空調服”から着想を得たピースを出しています」と語るのは、インディペンデント系メンズショップ『This Thing of Ours』の創設者、ティム・マクタヴィッシュ。「日本の夏の作業のために、実際に鳶職人たちが着ている空調付きジャケットですよ」

名古屋を拠点にするファッション系コンテンツクリエイター、DAI TANAKAもこう補足する。「アメリカのワークウェアは、耐久性やタフさを重視した重い素材が多い。一方、日本の作業着はシルエットやライン、腕前に重きを置く。静かで洗練された美しさがあるんです」

もちろん、鳶職スタイルの影響力は今に始まった話ではない。三宅一生や山本耀司は、すでに数十年前から東洋と西洋を融合させたシルエットを探求していた。「アメリカではあまり見ないシルエットでも、パリやベルリン、体制や実験をより受け入れている都市では珍しいものではないと思います」

さらに忘れてはならないのが、 メゾン マルジェラの「タビ」だ。1988年のデビューショーで、裸のモデルがパリのカフェ「Café de la Gare」で「タビ」を履いて登場した瞬間から、そのシルエットは伝説になった。マルジェラは“足袋”を発明してはいないが、ファッションアイコンにしたのだ。

以来、ナイキもヴェトモンも“スプリットトゥ”シューズを生み出してきた。2020年にはリーボックがマルジェラとタッグを組み、「タビ」版Instapump Furyを発表したほどだ。

マルジェラは2015年、アントワープのMoMu美術館での展示の際、「『タビ』ブーツは、私のキャリアにおける最も重要な足跡です」と語っている。「一目でわかるし、それは25年経った今でも続いています」

かつては日本の建設現場のユニフォームだったスタイルが、今や世界的なファッション現象へと進化している。これは、最も予想外のトレンドこそが最も深い足跡を残すということを思い出させてくれる。それは見た目だけでなく、その背後にある精神性が理由だろう。

美学よりも、むしろ「帰属意識」の問題なのかもしれない。男性たちが参加し、身を置くことのできるもうひとつの文化なのだ。鳶職人の文化に、誇り、規律、仲間意識が息づくことに人は感心する。それはヤンキーや暴走族のような、日本特有の緊密さのあるカルチャーとも重なり、少し穏やかな形となって、ファッションに目覚めたばかりの若者たちを惹きつけるのかもしれない。

西洋のメンズウェア好きにとっては、「自分の部族を見つけた」ような気持ちになれるのかもしれない。そのコミュニティは、Instagramのコメント欄、Discord、Subreddit、グループチャットと散らばっているが、鳶の美学に通じる何かを共有している。シルエットを語り、リンクを交換し、“師匠”に想いを馳せる。オタク心をくすぐり、同じ空気感の仲間と語り合える──これが何より大事なのだ。新たな着こなしで作業着をまとい、ダブルニーパンツより一歩先に行くことも、優越感を与えてくれる。

東京と仙台で建設会社を経営するカチさんは、ファッションとして鳶スタイルが流行っていることについて、こう話す。「気になりませんよ。最近の作業服って、かっこよく作られてますから。好きなら、着ればいいんじゃないですかね」

From British GQ

By Adam Cheung
Translated and Adapted by Yiqing Yan

文:GQ JAPAN Adam Cheung
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みんなのコメント

1件
  • luv********
    チノやカーゴパンツなんかはもう普通のファッション用よりも生地の風合い・丈夫さや伸縮や値段も、作業着系の方が優れてるね
    デザインもダボダボ一辺倒じゃなく適度にフィットしてるし
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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