今も絶大な人気を誇る’80年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回は言わずとしれた名車、カワサキのZ1について、メンテナンス上のポイントを明らかにする。
‘70s国産名車 カワサキ 900スーパー4 Z1 再見【驚異の動力性能と流麗なスタイルで世界を席巻】
―― 【取材協力:GPクラフト】部品販売を主業務としていたGパーツを発展させる形で、’90年代初頭に創業したGPクラフトは、’70~’80年代前半の日本製並列4気筒車を得意とするメンテナンス&カスタムショップ。最も取り扱いが多い機種はカワサキ空冷Zシリーズだが、ホンダCBシリーズやスズキGS/GSX系の入庫も少なくない。●住所:埼玉県川越市小仙波1000-1 ●電話:049-227-0008
カワサキ 900スーパー4 Z1:クランクやフレームにもダメージが発生している
GPクラフトではメンテナンスとカスタムだけではなく、車両販売も行っている。そして’90年代の同店がアメリカから輸入した空冷Zシリーズが、一般的な中古車整備に加えて、エンジン腰上やキャブレター、ブレーキのOHなどで、本来の調子を取り戻せることが多かったのに対して、近年の同店に持ち込まれるZ1は、それだけでは済まないことがほとんどのようだ。
「まずエンジンに関しては、クランクシャフトに位相ズレやベアリングの摩耗といった症状が出ている個体が増えていますし、フレームはバックボーンパイプの曲がりやダウンチューブの腐食など、単体にしての修復が必要な個体が珍しくなくなりました。もちろん、足まわりや電装系がそのままでOKというケースもめったにないですから、整備履歴が不明の空冷Zシリーズを入手して、まったく手を入れずに本来の資質が味わえる可能性は、ほとんどゼロと考えたほうがいいでしょう」
この言葉には敷居の高さを感じる人がいそうだが、好調の回復にかなりの手間がかかる主な原因は、経年劣化や転倒などで、空冷Zシリーズに致命的な弱点は存在しないと田畑さんは言う。
「あえて言うなら、カムチェーン関連部品の耐久性は万全ではなかったですが、現代の対策品を使えば寿命は大幅に延ばせますからね。いずれにしても、全面的なレストアで本来の調子を取り戻した空冷Zシリーズなら、以後の維持に関しては、現行車と大差ない感覚で付き合えると思いますよ」
カワサキ 900スーパー4 Z1 パーツ供給
純正部品の供給状況は決して悪くないし、補修用として使えるアフターマーケットパーツは超が付くほど潤沢。生産終了から40年以上が経過したにも関わらず、空冷Zシリーズの前期型は、部品に関する心配がほとんど不要なのだ。
「部品の豊富さに加えて、クランクやカムチェーンアイドラー、クラッチハブといった部品の修理技術が確立されていることも、空冷Zシリーズの魅力です。だから作業者としては、同時代の他車より気持ちは楽ですね」(田畑さん)
―― 【要所には純正部品を使用】エンジンOHの必需品となるガスケットは、同店ではアフターマーケットのフルセットを使うことが多い。ただしダイナモカバーやオイルパン用は、信頼性が高い純正を使用する。
―― 【鍛造品の選択肢も豊富】GPクラフトの定番ピストンは鋳造の純正オーバーサイズだが(左。Z1000Mk II用)、お客さんの要望に応じてアフターマーケットの鍛造品を投入。右はドイツのヴォスナー製。
―― 【現代の技術で点火系を強化】点火系に関しては、全国の旧車ユーザーから絶大な支持を得ているASウオタニのSPIIフルパワーキットが大人気。とはいえ中には、純正のポイント式にこだわる人もいるそうだ。
カワサキ 900スーパー4 Z1:メンテナンスポイント
◆シリンダーヘッド:修復が難しい場合は新品も視野に入れたい
―― シリンダーヘッドでよくあるトラブルは、カムホルダーの雌ネジ破損/プラグホール周辺のクラック/過剰な面研など。なおカワサキが’20年に発売した復刻品はすでに完売したが、同社は今後も定期的に再生産を行うようだ。
◆シリンダースリーブ:現代の技術を投入したアルミメッキスリーブ
―― 内壁が摩耗限界に達していなくても、シリンダーとスリーブのクリアランスは過大になっていることが多い。そういう場合は純正と同じ鋳鉄製スリーブの新品に交換するのが定番だが、最近の同店では抜群の耐久性と放熱性を誇る井上ボーリングのアルミメッキスリーブ、ICBMの採用が増えている。
◆クランクシャフト:完全分解して行う消耗品の交換と芯出し
―― かつては修復が難しいと言われていたけれど、近年では数多くの内燃機加工店やショップが組み立て式クランクのOHを受け付けており、補修用部品の単品販売も行われている。コンロッド小端に丸棒を通している下段の写真は、位相のズレを確認する簡易的な手法で、この作業は車載状態でも可能。
◆クランクケース:歪みやクラックなどさまざまな問題が発生
―― 実動していたエンジンでも、歪みやクラック、ボルトの折れ込みなど、クランクケースに問題を抱えている個体は少なくない。修理できない場合は交換だが、新品は大昔から欠品で、近年では良質な中古の入手が難しくなっている。
◆キャブレター:予算に応じて複数の選択肢を準備
―― 純正のVMキャブレターは補修部品の大半が揃う。ただしGPクラフトでは予算に余裕があるお客さんに対して、山之内キャブレターでのフルOHか(仕上がりは新品同様)、ケーヒンCRへの換装を勧めることが多いそうだ。
◆クラッチ:純正をリビルドするか、J系に換装するか
―― クラッチハブ内に備わる6個のダンパースプリングは、長年の使用でヘタリが生じる。この問題を解決する手法は、カシメを外して行うリビルド(同店では作業をアニーズに依頼)、新品が存在するZ1000J系にコンバートの二択。
◆オイルポンプ:ブルドック製の導入で安定した潤滑を実現
―― 空冷Zシリーズのオイルポンプはギヤ式で、軸穴の摩耗で圧送量が徐々に低下。以前は中古の良品への交換が定番だったものの、近年のGPクラフトでは、ブルドックが独自に開発したオリジナル品(写真右)の採用が増えている。
◆カムチェーン&アイドラー:現代の対策品を用いて問題点をきっちり解消
―― 現役時代から耐久性がいまひとつと言われていたカムチェーン関連パーツは、現代の対策品に交換。カムチェーンはDIDのカート用、アイドラーはJ&J製、ゴムローラーを内蔵するテンショナーアームはPAMS製を使用。
◆ドライブチェーン&スプロケット:サイズダウンしてもマイナス要素はなし
―― 空冷Zシリーズのドライブチェーン+スプロケットは630サイズが標準だが、現在はフリクションロス低減と軽量化が実現できる530に変更するのが一般的。同店の推奨品はDID530VX+サンスターJK-108A(スチール製)。
◆フロントブレーキ:ブレンボキャリパーで制動力を大幅に強化
―― Z1の純正フロントブレーキはシングルディスク。昔から純正オプションでダブル化を図る人は多かったものの、近年の同店ではスピードショップイトウのキットを用いるブレンボ2ピストンが人気。ディスクはサンスターが定番。
◆リヤブレーキドラム:内面研磨によって本来の資質を回復
―― Z1のリヤブレーキはドラム式で、内壁のスチール製ベースがサビサビになっていることが珍しくない。もちろんその状態では本来の制動力が発揮できないので、GPクラフトでは内壁研磨を推奨。作業は井上ボーリングに依頼。
◆リヤショック:純正風から最新型まで選択肢はかなり豊富
―― リヤショックの選択肢もかなり豊富。純正を再現したリプロ品(写真右)を好む人がいれば、当時風のルックスでも性能向上が実現できるアイコン(写真左)、最新技術が投入されたオーリンズやナイトロンなどを選択する人もいる。
◆フレーム:ほとんどの個体に曲がりや腐食が発生している
―― リヤウインカーステーは軽度の転倒でも曲がりやすいが、修正は比較的容易。なお近年の同店では、剛性向上のためにフレーム補強を行うことはほとんどないそうだ。
―― バックボーンパイプの猫背化とダウンチューブの腐食も、空冷Zの中古車ではよくある話。いずれも修復は可能だが、極端に程度が悪い場合はフレーム交換を検討したい。
―― ヘッドパイプ下のガセットプレートは非常に割れやすい。溶接で修理することは可能だが、同店ではノーマルより肉厚の板材を用いて新規製作することが少なくない。
◆レギュレーター/レクチファイア:ICタイプの採用で安定した充電を実現
―― メインハーネスやステーターコイルといった電装系は、数多くのリプロ品が存在。Z1の純正レギュレター/レクチファイヤは昔ながらの別体式だったが、近年はカワサキ純正部品をベースとする一体式を採用するのが定番。
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