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ロシアじゃ飛行機が「軽トラ」代わり!? なかなか更新できず“約80年間現役”の傑作機 「他人事とは思えない」事情とは

掲載 更新 23
ロシアじゃ飛行機が「軽トラ」代わり!? なかなか更新できず“約80年間現役”の傑作機 「他人事とは思えない」事情とは

まるで“軽トラ”な傑作機「An-2」

 日本に住む多くの人にとって、「飛行機に乗る」ことはちょっとした非日常イベントでしょう。しかし海外には、まるで「軽トラック」のように日常生活に溶け込んでしまった航空機があります。それが旧ソ連で生まれた小型多用途機「アントノフAn-2」です。

【まだ飛んでるの!?】これがロシアの「現役バリバリ複葉機」です(写真で見る)

 国土が広大なロシアでは、飛行機は非日常的な移動手段ではなく、日常生活を維持するための重要な移動手段です。特にシベリアや極東地域には、道路や鉄道が充分に整備されていない地域が広がっており、また冬季には地上交通が機能しなくなる場所も珍しくありません。こうした環境で暮らしている人々にとって、ほとんど唯一の交通インフラが航空機なのです。

 こうした地域の空港は、多くの日本人が思い浮かべる“小ぎれい”な施設とはかなり違います。設備は必要最小限で、滑走路は原野を切り開いたままの未舗装。建物は空港ターミナルというより、集会所か倉庫のような簡素な施設が1棟だけ建っているという場所もあります。

 そのような過酷な環境で運用されてきたのが、1947年に初飛行した単発複葉機のAn-2です。巨大な空港ターミナルから保安検査場を通って乗る旅客機がさしずめ「大型高速バス」なら、An-2は軽トラックとたとえても良いでしょう。

 An-2は設計から80年近くが経過した今なお、ロシアや旧ソ連圏の一部で現役として使われ続けています。ジェット旅客機が空を行き交い、航空技術が飛躍的に進歩した21世紀において、なぜこれほど古い飛行機が必要とされ続けてきたのでしょうか。そしてなぜ後継機が登場していないのでしょうか。

必要だけど儲からない「地域航空」

 An-2が長く使われ続けた最大の理由は、同機が完成されすぎた傑作機だったことにあります。もちろん現代の視点で見れば、燃費や騒音、快適性、そして安全性は決して優れていません。しかし、地域航空に求められる「確実に飛び、確実に運べる」という一点において、これ以上ない性能を備えていました。

 また、社会主義経済下の旧ソ連では、航空機は多少古くても使えれば問題になりませんでした。採算性や環境性能など二の次で、“使えること”が最優先だったため、An-2を急いで置き換える理由もなかったのです。

 さらに、ちょうど後継機の必要性が認識され始めていた1991年にソ連が崩壊。経済は混乱し、航空機産業は急激に縮小しました。加えて、An-2の設計元であるアントノフ設計局はウクライナに残ったため、ロシアは設計権や生産権が不明確なまま、An-2の運用を続けることになります。

 そしてソ連崩壊直後の混乱が一段落した後も、地域航空は採算性が極めて低く、市場経済に移行したロシアでは、ビジネスとして成立しませんでした。「必要だが儲からない」という社会インフラの分野に、誰も本腰を入れられなかったのです。

後継機は“軽トラ”になれない?

 しかし2000年代に入ると、老朽化したAn-2の安全性がいよいよ無視できなくなり、西側諸国では安全基準の観点から、運用制限も課されるようになります。ロシア国内においても、地域航空の崩壊が単なる交通インフラの問題ではなく、国家運営に関わる地方行政の問題として再認識されていきました。

 こうしてロシア運輸省・産業貿易省は2019年、ウラル民間航空工場(UZGA)に、An-2後継機の開発をようやく正式委託し、軽量多用途機であるLMS-901「バイカル」が開発されました。しかし小型機といえど、一度縮小してしまったロシア航空機産業のなかで、新型機を設計・開発するのは簡単ではありませんでした。

 LMS-901は当初アメリカ製のGE H80エンジンを搭載し、2022年に初飛行しました。しかし、ウクライナとの戦争もあって西側との関係が悪化しているなか、輸入エンジンに依存するのは大きなリスクです。そこでロシアは、国産のクリモフVK-800SMエンジンとAV-901プロペラへの切り替えを決断しましたが、開発が難航し、計画は大幅に遅れました。

 それでも2025年12月24日、バイカルはVK-800SMとAV-901を装備して、初飛行に成功しました。エンジンとプロペラ、機体の型式認証取得は2026年中に予定されています。

 もっとも、「バイカル」は現代の安全・環境基準に合わせて設計された単発・単葉機であり、従来の「多少無理をしても飛ばす」An-2のような運用は許されません。使えなくなる飛行場も出てくるかもしれません。そうした意味で、バイカルはAn-2の完全な後継機とはいえないでしょう。

 また、地域航空の維持には新しい飛行機だけでなく、より安全・安心で経済的な飛行場を整備するという課題も付いて回ります。日本でもローカル鉄道の存続問題が起きていますが、「乗りものを残すこと」よりも先に、「それを受け止めるインフラと覚悟を誰が担うのか」が問われている点では、問題の本質は同じです。

 An-2とバイカルの話は、他国のユニークな航空機開発のエピソードではなく、「採算の悪い地域インフラをどう維持するか」という、現代社会に共通の問いを突きつけているように思えます。

文:乗りものニュース 月刊PANZER編集部

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みんなのコメント

23件
  • wid********
    北海道住みだけど、たまにマイ飛行機欲しくなるときある・・いや、マジで(笑)
  • kqv********
    そのまま修理しながら使っている所もあるしエンジンをターボプロップに換装して使っている所もあるし、ウクライナ侵攻前ならアントノフがターボプロップ化したAn3も作ってたんだよな。
    構造が簡単で頑丈っていうのもある意味美点。アナログな飛行機だから今まで残れていたというのもある。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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