ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。
第十七回目となる今回は、ルノーとのアライアンス見直しを果たした、日産の今後について。アライアンス見直しの意味の振り返り、それを経て加速する電動化戦略、いよいよ本格化する新興EVメーカーとの戦いについて展望する。
日産のEV&e-POWERはガソリン車並みに安くなる!? 命運握る新戦略を紐解く
※本稿は2023年3月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、予想CG/ベストカー編集部、写真/NISSAN ほか
初出:『ベストカー』2023年4月26日号
■日産・ルノーのアライアンス見直しが意味するところ
2023年2月6日、ルノーグループ、日産自動車株式会社と三菱自動車工業株式会社は、三社のアライアンスをより高いレベルに引き上げる事を目指した、新たな取り組みを発表した
日産自動車が仏ルノーと24年にわたるアライアンス見直しを正式に発表したのは、わずか1カ月強前の出来事です。それ以降、日産は電動車戦略を推進する施策を積極的に発信しています。
まずは、ルノーとのアライアンス見直しが意味するところを再整理してみます。
目的はゴーンがアライアンスに残した3つのレガシィ〔資本関係のねじれ、ガバナンスのねじれ、知的財産(IP)のねじれ〕を解消し、瓦解寸前で共倒れともなりかねない状態のアライアンスを、健全な形に改善させるところにあったと考えています。
アライアンスを健全化して、電動化やソフトウェアなど次世代技術に必須な領域で成果を生み出し、厳しい競争に晒されている自動車産業のなかで生き残りを図ろうということです。
このアライアンスの見直しは決して「終わりの始まり」ではなく、アライアンスの「新チャプター(章)の始まり」と考えるべきです。
アライアンスは、事業面においてはグローバル(世界)からリージョン(地域)の最適化へ縮小します。
欧州事業はルノーとのアライアンスで進められることになりますが、中国・北米ではほかの自動車メーカーなどとの協業も含めて、日産自らの力で競争力を切り開くことが可能となっていきます。
これはルノーとのアライアンスが欧州だけに限定されるという意味ではありません。
日産はルノーが分社化するEV部門の新会社「アンペア」に対して最大15%の出資を検討し、800Vの次世代EV(電気自動車)アーキテクチャや、次世代のCセグメントEVプラットフォームの開発を共同で進める考えです。
世界で最も早くEVシフトが進む欧州市場でEV事業の基盤を構築し、世界に展開しようとする考えは合理的です。
トヨタやトヨタの仲間であるスバルとマツダが日本、ホンダは米国をEV事業の基盤に育成しようとしています。
それぞれ得意な地域で基盤構築を進めるわけですが、日本の主力3社でEV戦略が大きく分かれているということは非常に興味深いものがありますし、この先の成否を分けることになるのかもしれません。
■日産は欧州を中心に電動化戦略を加速
2023年2月27日、日産は電動化戦略への取り組みを加速化することを発表し、2026年時点のグローバルな電動車の販売比率を従来見通しの40%から44%以上へ引き上げました。
なかでも、欧州は2021年に発表された75%から98%へ大幅に加速化させます。
日産自動車の電動化比率(2026年度目標)
ただし、ここでいう「電動車」はハイブリッドのe-POWERと電気オンリーのEVの両方を含みます。
詳細は図に示しているとおり、それぞれの地域でハイブリッドとEVをすみ分けながら、適材適所の電動化を進める考えです。
続く3月9日には、新開発電動パワートレーンの試作ユニットを公開。
日産新電動パワートレーンの試作ユニット。EVとe-POWERで部品の共用化、モジュール化を推進し、コスト削減を目指す
EVにはモーター、インバーター、減速機の3つの部品をモジュール化した「3-in-1」、それに発電機、増速機を加えた5つの部品をモジュール化したe-POWER用の「5-in-1」を発表しました。
小型化や部品と制御の共用化を通じてコスト削減を進めることで、e-POWERにおいては2026年、EVでは2030年までにエンジン車と同等の車両コストを目指すという目標を掲げています。
モーター100%の制御技術がもたらす価値を、エンジン車同等の価格で実現するというところが日産の電動車戦略の肝になります。
「X-in-1」新開発電動パワートレイン
ストレスフリーでワクワクし、不要な振動や挙動のない運転体験、ステアリングやアクセルの細かな修正操作も不要な100%モーター駆動ならではの魅力が価値を生み出し、差別化を図れるということです。
価格が内燃機関に接近するだけでは、EVが本当に受け入れられるようにはならないという強い信念を感じさせます。これは日本市場でのe-POWERの成功に裏付けされたものでもあります。
日産の戦略の特徴は、EVで先行したレガシィをハイブリッド技術に展開し、e-POWERとして「100%モーター駆動で走る電動車」の魅力を作り上げようとするところにあります。
さらに、EVとハイブリッドでモーター、インバーター、ギアなどの部品と制御を共用化することで、高いスケールメリットとコスト競争力の確立を目指すことにあるわけです。
これは、EV専用のプラットフォームとパワーユニットを開発し、その標準化を進めてスケールメリットを確保しようとしているテスラやグローバル自動車メーカーの戦略とは一線を画しています。
日産のアプローチが真の競争力を獲得できるのか、非常に興味深いものがあります。
■再び世界を驚かせたテスラ 伝統的自動車メーカーと新興EVメーカーの戦いが本格化する
折しも、3月1日にはテスラが「Investor Day 2023」と銘打った投資家向け説明会を開催しました。
「プレス→車体組み立て→塗装→最終組み立て」という直線的(シリーズ)な自動車の製造工程の破壊を目指す、革新的なEV製造技術で再び世界を驚かせたわけです。
プレス・塗装・鋳造のサブラインをパラレル(並行的)に組み立てて、左右のサイド面、センター部分、フロント部分、リア部分をシリーズに組み上げて、5つ程度のブロックを一気に一回で組み上げる「パラレル・シリーズ組み立て工程」とは、まさにレゴブロックのような世界です。
この「パラレル・シリーズ組み立て工程」では、組み立て効率は40%向上、製造原価は現行のモデル3と比較して半分になると試算しています。この技術を採用した新ギガファクトリーをメキシコで立ち上げて、2万5000ドルと言われる超廉価EVを世に問う考えのようです。
こういった破壊的イノベーションが次世代の電動車を制するのか、日産のような伝統的自動車メーカーが誇る制御技術の価値がユーザーに受け入れられるのか。2026年頃には大激突の時代を迎えることになるわけです。
つい先頃も値下げを発表したテスラ。写真はモデルX
●中西孝樹(なかにしたかき):オレゴン大学卒。1994年より自動車産業調査に従事し、国内外多数の経済誌で人気アナリスト1位を獲得。著書多数
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みんなのコメント
テスラが行うパラレル・シリーズ組立?
随分昔の日本メーカーで行っていた組み付け方法だな。
このやり方は在庫が増えたりデメリットも大きい。
こんなやり方でコストが低減できるとは、前はどんなやり方だったのだろう?
日産(と三菱も)は緻密な駆動制御で活路を見出し,供給業者を含め,皆が得をする自動車を作っている最右翼と思う.(あとは利益が上がると良いですが・・)