国際基準の制定で2020年度中に義務化!?
少子高齢化の進行とともに、高齢者や運転の未熟な人による交通事故が社会問題化しつつある。そうしたなか、国際連合の部会のなかで、衝突被害軽減ブレーキ(AEBS)の義務化が今年6月に正式決定し、2020年1月に施工されることになった。
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部会で議長国のひとつとして議論を推進した日本でも、国土交通省が新車への装着義務化を本年度中に結論付ける方針だが、これにより今後、どんなことが変わってくるのだろうか?
性能が均一でないのが問題点
AEBSとは、自動車に搭載したカメラやレーダーからの情報を車載コンピュータが解析し、走行中に前方の障害物や歩行者などと衝突する危険がある場合はドライバーに警告、ドライバーの対応や操作が不十分な場合は自動停止させる機能のことだ。
国内においては、28年前の1991年から、先進安全自動車(ASV)の開発を産官一体で行ってきた歴史がある。そのなかで、AEBSも開発されたのだが、当初はあくまで被害軽減が目的で、ドライバーが装置を過信しないよう完全停止は規制されていた。
その後スウェーデンのボルボが完全停止を世界で展開し、それにあわせて国内でも完全停止が認められるようになった。そして2010年に、スバルがアイサイトをレガシィに採用したのを皮切りに、現在多くのメーカーが対応車種を増やしている。
政府では、近年、AEBS装着車に安全運転サポート車(通称サポカー)を推奨する取り組みなどを実施している。2019年4月には、国が対応車のAEBS性能を評価する制度なども開始した。
だが、問題は、車両価格帯によってセンサーの種類や性能が様々であり、機能する速度域もいろいろな設定があることだ。単純にAEBSを装備するからどのクルマを選んでも安全性能は同じというわけではなく、また同じ車種でも、注文装備の選び方で機能を満たす範囲が異なる場合もある。
結果として、サポカーなら安心とは一言でいえない場合もあり、競合車や注文装備を詳細に比較することは消費者にとって面倒で、わかりにくさにもつながっていた。
AEBS未装着車への対応が鍵だ
今回定められた国際基準によると、主に以下の要件を満たす試験に合格することが必要となった。
時速40kmで走行中に、前方で停止しているクルマに衝突せず停止
時速60kmで走行中に、前方を時速20kmで走っているクルマに追突せず停止
時速30kmで走行中に、前方道路を時速5kmで横断する歩行者に衝突せず停止
これら各制御は、手前で運転者に衝突の危険を知らせる警告も必須とされている。
基準が義務化されれば、どのクルマを選んでもAEBSの性能は同一になる。そこで新車購入の際には、外観や内装、あるいは走行性能や実用性などに集中して比較検討でき、消費者にとって有り難いことだ。また、AEBS装着車が道路上に増える勢いも増すだろう。
一方、この基準は新車に対してのみ実施されるため、義務化前に市販された車両はAEBSが未装着だったり、性能が異なったりするクルマも道路上に残る。
未装着車に対しては、トヨタやダイハツが後付け装置を有料で市販することもはじめているが、業界全体の動きになっているわけではない。
高齢者は、いま所有するクルマの性能や大きさに満足している場合が多く、クルマの買い替えに必ずしも積極的ではない。年金に頼る生活をしているとなおさら経済的な厳しさがある。
カーシェア車両やレンタカーも義務化に
ほかにも運転が未熟な免許証取得したての人は、運転免許証の取得自体に20万~30万円近い費用を投じているため、新車を購入すること自体が難しい人もあるだろう。
ことに都市部で生活をする若い世代では、クルマを所有することに対して関心が薄い傾向にある。それはクルマ離れということではなく、カーシェアリングやレンタカーを利用することで、クルマの利便性を理解している様子は、カーシェアリングの会員数が150万人に達していることからもうかがえる。
事業者が、どこまで投資するか、採算との関係もあるが、そうしたカーシェアリングやレンタカーにAEBSを標準装備していくことも、事故低減の一つの策になるだろう。
また、高齢者に対しても、生活環境によっては簡単に免許証の返納ができない事情もあり、そういう場合には、AEBSなど運転支援機能のついた新車への買い替えの道もあると私は助言している。もちろんそれで万全というわけではない。だが、加齢によって衰えてきた身体機能を、クルマが補ってくれる側面はある。
危険は熟練ドライバーにも及ぶ
こうした安全への運転支援機能の充実は、高齢者や運転が未熟な人たちだけでなく、運転に自信を持ってきた人にも有用であるはずだ。すなわち、それほど交通環境は混雑し、複雑化しているからである。
たとえば、スマートフォンの画面を凝視しながら歩いたり、道の真ん中で立ち止まってしまったりする人がいる。なかには、スマートフォンを見ながら自転車に乗っていたり、スクーターに乗る人を見かけたりしたことさえある。運転に熟練し、運転に自信を持つ人でさえ、いつ事故の危険に遭遇するかわからないのである。
そうした交通環境の複雑化が、AEBSの世界基準制定につながっているだろうし、これらの傾向は日本だけでなく世界的に広がっている証でもあるといえる。背景には、世界的な人口の増加と、都市の肥大化がある。そしてデジタル通信機器の普及が、便利さとともに新たな危険を生んでもいるのである。
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