突然の登場だったCB1000スーパーフォア
発端は廃材を利用した1台のクレイモデル。それが数え切れないほどの共感を集めて、ホンダを代表する機種へと成長していく……。その誕生と進化に深く関わったホンダマンは33年目の“ファイナル”に何を思うのか。
→【画像】「コンセプトを変えず、33年も続いたことに感動します」──“BIG-1”のキーマンに聞くフラッグシップCBの物語
●インタビューまとめ:埜邑博道
BIG-1が培った価値はホンダのヘリテイジになる
’91年の東京モーターショーに忽然と姿を現したCB1000スーパーフォア。現在のようにネットやSNSもない時代で、事前情報などは一切なく、まさに突然の登場。しかも、その時点では市販化も決まっていない完全なプロトタイプだった。
―― 【岸 敏秋さん】’81年、HY戦争の真っただ中にホンダに入社。自分たちが乗りたいバイクをという思いから、CB1000SFをボトムアップ提案した首謀者のひとり。その後も、CB1000SF/2代目CB1300シリーズ、CB400SFシリーズなど、プロジェクトBIG-1の旗艦モデルのデザインを担当。CBR1100XXスーパーブラックバード、RC45、BROS、PCXなど、大型機種からスクーターまで幅広い領域で活躍。一昨年、ホンダをリタイアした。
それにさかのぼること2年前の’89年頃、デザイナーの岸敏秋さんは当時、第三京浜のパーキングに集まる大排気量のカスタムマシン群にホンダ車がないことにモヤモヤした思いを抱いていた。当時のホンダは’80年代からスタートしたV4戦略の真っただ中で、CB750フォア、CB750/900Fから続いていた並列4気筒を積むスポーツバイクの流れは途絶えていたのだ。
そこで、デザイン部門からのボトムアップ提案の形で、CBR1000Fのエンジンを用いたネイキッドスタイルのクレイモデルを作り始めた。大きなエンジン。それに見合う巨大な燃料タンク、スポーティなシートカウル……。岸さんの中にあるホンダらしさ、岸さんにとっての“CBの刷り込み”が具現化されていた。
「市販予定のないバイクなので開発コードもないし、予算は微々たるもの。なのでRC30のフロントフォークやCRキャブ、オーリンズのリヤサスなど、使用したほとんどのパーツは不用品を保管している場所からもらってきた『廃材』でした」
―― 作成中のCB1000SFクレイモデル。廃材部品を寄せ集めて作った…ということがよく理解できるカットだ。
事業的には、大排気量の直4ネイキッドなんて売れないと思われていたが、市場のトレンドを見ていると需要は絶対にあると岸さんは感じていたし、V4戦略の真っただ中でも社内には長年にわたって直4をやってきたスタッフが山ほどいた。岸さんが作ったプロトタイプは、そういう人たちをどんどん巻き込んで熱を帯びていった。そして’91年の東京モーターショーに登場したプロトタイプは多くのユーザーの間で話題を呼び、’92年11月にCB1000スーパーフォア“BIG-1”として正式にデビューを果たした。
―― CB1000SFの燃料タンクやテールカウルなど、部分のアイデアスケッチ。ポルシェ911が描かれているのに注目!
それから33年。’98年登場の初代CB1300SF(SC40)、’03年の2代目1300(SC54)と、多くのファンに愛されながら“BIG-1”コンセプトを継承してきたシリーズは、ついに今回のファイナルエディションで有終の美を飾ることになった。CB1000SFに続き、2代目1300のデザインも担当した岸さんは次のように語る。
「CB1000/1300の仕事に関しては、自分自身ではクリエーションという感覚ではなく、CB750フォアの池田均さん、CB900F/1100Rの森岡實さんが創作したものを、イメージを受け継ぎながら組み立てて、次世代に受け渡したという感覚が強いです。750フォアとエフは当時の一線級のスーパースポーツで、CB1000SFはそのエッセンスを引き継いだロードスター。ですから、自分が感じたCBらしさを当時の様式で組み立てただけのような気がします」
現在のモデル開発はマーケットインが主流だが、CB1000SFは最後の大型プロダクトアウト商品だったかもしれないと岸さんは言う。
「作り手側の想いの発信をお客様がしっかりと受け止めてくれて、受け止められたお客様の想いが我々に強く跳ね返り続けてきた。だから、コンセプトを変えないことが正しい選択だとホンダの中で認識されてきたのだと思います。それゆえに、今回のファイナルまで基本を変えずに来ることができた。本当に驚きだし、我々の先輩が持っていたホンダ・スポーツバイクへの熱い想いへのリスペクトが、これだけ長く商品として発信し続けられたことは今思えば感動すら覚えます。
電動化の加速など、予測が立てにくくなった今日のマーケットにおいて、お金や最新スペックでは作り出せない絶対的なヘリテイジや普遍性は稀有な価値です。33年間、CB1000/1300が培ってきた価値感は、たとえ表現が変わったとしても、そのコアな部分をホンダが継承していくことがお客様のためになると信じています」
岸さんを含めたホンダのエンジニアの想い、ホンダ好きユーザーの深層心理から形作られたBIG-1シリーズ。作り手とユーザーがともに同じ想いを感じて響き合える、まさしく稀有なモデルだったのだ。
―― 初代CB1000SFのアイデアスケッチ。
―― こちらは2代目CB1300SFのファイナルスケッチ。サインにあるように共に岸さんの作だ。
CB1000 SUPER FOUR(SC30)アイディアスケッチ集
―― CB1000SF アイディアスケッチ 01
―― CB1000SF アイディアスケッチ 02
―― CB1000SF アイディアスケッチ 03
―― CB1000SF アイディアスケッチ 04
―― CB1000SF アイディアスケッチ 05
―― CB1000SF アイディアスケッチ 06
―― CB1000SF アイディアスケッチ 07
―― CB1000SF アイディアスケッチ 08
―― CB1000SF アイディアスケッチ 09
―― CB1000SF アイディアスケッチ 10
―― CB1000SF アイディアスケッチ 鉛筆画
―― CB1000SF ファイナルスケッチ
―― CB1000SF 部分アイディアスケッチ
―― CB1000SF T2(1994年モデル) アイディアスケッチ
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みんなのコメント
せっかくのデカいエンジンをカウルで隠すのは勿体無い、見せつけてやれ!という開発者の半ばヤケクソの発想だったらしい。
このアンバランスなほどの過剰さがV -MAX並みのど迫力だった。
1300になって全体的にバランスよくカッコよくなってしまったのが長生きした理由なんだろうけど、ちょっと残念でした。