調子いいぞ。第2戦富士2位、第3戦鈴鹿4位、そして今回第4戦もてぎで3位だ。これまで得意とは言えなかった富士ともてぎで好成績を出せているのは、大きな進化だ。とくに今回のもてぎではここ数年結果に結びついていないレースが多かっただけに、マシンのポテンシャルアップもあるが、総合力が上がっていると見ていいだろう。
ポイントによるウエイトハンディが69kg、BoPによるウエイトが15kgの指定があり、合計84kgのウエイトを搭載してのレースだった。言わずもがな重量増は、マシンにとって致命的とも言えるマイナス要素だ。
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コーナリングはもちろんだが、ブレーキと加速にはダイレクトに影響する。もてぎのコースレイアウトは鈴鹿とは正反対のゴーストップが多いレイアウト。コーナリングマシンのBRZ GT300が得意とするコーナリングはS字くらいなもので、ほかはゴー&ストップなのだ。だから余計に重量増は厳しい条件とも言える。
レース前、渋谷真総監督、ドライバーの井口卓人選手、山内英輝選手ともに「経験のない重量で、どんな影響が出るのかわからない」と口を揃えていた。マシンにできることは、スプリング、ダンパー、スタビを変更してロール剛性を合わせていくことくらいだという。
とはいえ井口選手からは「マシンのコンディションは悪くなると思いますが、信頼できるチーム力があるので、期待できます」というのだ。
想定外の公式練習トップタイム
失礼な見方だが土曜日の午前に行なわれた、公式練習では全体トップのタイムを出していた。ドライバーの山内選手も目を大きく開け、両手を広げておどけて見せるほどで、期待以上の結果だったのだ。
渋谷真総監督は「想定外の路温と気温なのかもしれませんね。うちは、想定通りなので、BRZが速いというより他のチームが外した可能性もありますね」と分析している。
実際の天気は気温27度、路面温度30度で公式練習は行なわれている。この温度はブリヂストンから提供されたものだが、ダンロップの計測では路面温度で2度ほど低い28度になっている。こうした数値の違いもちょっと気になる部分ではある。
さて、公式練習では各チームともウエイトを搭載してのレースは初めてだ。また例年もてぎのレースは11月開催で、250kmのレース距離、最終戦のためウエイトハンディはゼロの状態でレースをしている。今回はシーズン途中で、ウエイト搭載、レース距離も300kmだ。初物づくしという側面もあるレースなのだ。それだけにチーム力が問われるレースだったと言えるのかもしれない。
SUBARU BRZ GT300は通常90分の公式練習では、一人のドライバーでセットアップを行ない、1時間で終了する。残りの30分はもうひとりのドライバーが決勝を想定したセットで走行するというのがパターンだ。またセットアップドライバーは決めておらずレースごとで変わることもある。
しかし、今回はドライバー交代をする回数が多かった。ウエイトやレース距離も含め初体験が多いだけに2人とも同じように経験させる狙いがある。そして決勝を見据えた燃料を満タンにしての走行、ソフトタイヤ、ハードタイヤなどを交換しながら予選、決勝に向け順調に公式練習をこなしていた。
そして気づけばGT300のトップタイムを山内選手が記録していた。1分48秒509で14位までが1秒以内の差なので、三味線は考えにくく、実力によるトップタイムとみて間違いない。ウエイトハンディをものともしない快走だ。
ハラハラ・ドキドキの公式予選
午前中の走行でソフトタイプ、ハードタイプのどちらのタイプでもタイムが出せることが確認できている。前回の鈴鹿では「タイヤが合わない」ことがあったが、今回は「バッチリ合っている」状況だ。作戦はQ1、Q2共にハードタイプでポールを狙う戦略。
Q1は井口選手が走り上位8台がQ2へ進出するが、天気に翻弄される。ミスト状態のコースにスリックでコースインするものの、2号車がまさかのコースアウトで赤旗中断。残り6分で再開となるが、ウェットに履き替えてのアタックに変更。それでもスリックのままのマシンが多く、結果的には8台中6台がスリックでタイムを出し、レインは2台だけだった。通常スリックでタイムが出せればレインでは太刀打ちできるレベルのタイムは出せないが、6位でQ1を突破した。
これは天候に翻弄され、タイヤ交換のタイミングとアタックしたタイミングで結果が異なったわけで、井口選手のタイムもトップとは4.4秒も離れている。それでも予選通過しているのだから、チームの判断の正しさで難しいQ1はクリアできた。また、ハードタイプのタイヤでは今の路温ではウォームアップが難しいことがわかり、Q2は急遽、ソフトタイプのタイヤに変更した。
Q2は山内選手がアタックするが、Q1同様に不安定な天候の中、スリックでタイムアタックをする。マシンはワイパーを常時使うような状況の中、トップ争いを繰り広げ最終的に4位を獲得した。それでもトップとは1.5秒のタイム差があり、やはり天気の影響は否めない。またポールをとった360号車GT-R、2位の25号車ポルシェGT3はいずれもウエイトハンディはゼロのマシンだった。
決勝
スタートタイヤはQ2予選で使用したタイヤが指定された。BRZ GT300はソフトを履いていたので、早めのドライバー交代が必要になる。想定は27周目前後。ドライバーは山内英輝選手だ。今年は速さに磨きがかかったことと、スタート直後のジャンプアップがここ数戦、結果を出していることもある。4位からのスタートで少しでも順位を上げる狙いだ。
期待どおり、スタート直後山内選手は3コーナーで31号車を交わし3位に浮上した。その後は淡々としたレース展開になり3位をキープ。序盤10周を終えた時点でトップの360号車GT-Rは2位以下に3秒以上のリードを広げる速さを見せていた。しかし途中赤旗中断があり、そうしたリードもなくなり再び接戦にはなるものの、ウエイトハンディは響きトップには追いつけない状況だ。
20周を過ぎたあたりからピットインが始まり、タイヤの交換本数には各チーム戦略が分かれる。ブリヂストンを装着するチームの多くは4本とも無交換を選択している。またヨコハマ、ダンロップは4本交換が多い。
そうした中、予定範疇の29周目にBRZ GT300はピットインし、井口選手に交代する。この時リヤ2本交換でソフトタイプを選択。フロントは無交換とした。また今回のレースでは燃料リストリクターは解除されていて、給油によるロスは前回よりは少ない。リストリクターはタンク本体とホース内の2箇所に装着されJAF勢は本体が33φ、GT3は36φのリストリクターを装備している。ホース内に装着していた27.5φのリストリクターは取り外されていた。
3位でコース復帰した井口選手だが、フロントタイヤはユーズドでリヤがニュータイヤという組み合わせは非常に扱いにくい。極端にアンダーステアからオーバーステア傾向になるからだ。こうしたバランスが崩れた状態でも乗りこなす上手さがあるのが井口卓人選手で、36周目まで3位をキープした。
しかし、4位を走る88号車のランボルギーニウラカンは4本とも交換しており、タイヤが温まった33周目あたりからBRZに猛烈にアタックを始めていた。そして36周目の90°コーナーで粘る井口選手を交わし3位、BRZは4位へと後退した。
その後も4本交換でミシュランを装着する9号車、アストンマーティンヴァンテージに責め立てられるが順位を落とすことなく4位をキープした。がしかし、井口選手の無線からはフロントがなくなり、ブレーキが難しくなっていることが伝えられた。
チームは井口選手に対してABSの介入タイミングを変更するように指示し、様子を見る。レース後井口選手は「残り10周目あたりからフロントがなくなりキツかったんですが、ピットからブレーキ調整の指示をもらって、それからは乗りやすくなりました」とコメントしている。
そしてラスト5周でトップ360号車に異変がおきた。突然のマシンストップだ。トラブルというよりおそらく燃料切れだろうということだ。そして9号車のアストンマーティンも同様にスローダウンして順位を落としていく。300kmレースというもてぎでは初めてのレース距離がこうした計算ミスが生じたのかもしれない。
こうした運もあったが、井口選手は3位フィニッシュを迎えることができたのだ。
課題
幸運でもあるが、3位表彰台は実力アップの証拠だ。富士に次いで、もてぎでもまさかの表彰台。確実にレベルアップしている。だが、課題も残っている。
前戦の鈴鹿ではリヤのグリップが薄いという謎の現象があり、もやもやした状態での参戦だった。結果は4位で満足できる順位ではあるが、課題は残った。これはダンロップとの相談というが、50度を超えるような路面温度は残りの今季のレースにはないので、来季への課題としている。ただ、マシン側でも高温時のセットアップはもう少し煮詰められるのではないのか?再検討は必要だと渋谷総監督は話していた。
データ活用が今季活かされ、データに基づいたマシン開発が成功している。これは制御ソフトの進化へとつながり、理想のソフトデータで走れるためのマシン造りという考え方になっている。これは市販車にもその変化が始まっている最先端の技術であり、かつて優秀なハードを乗りこなすテクニックが美徳とされ、のちに制御するソフトは優秀なハードを使いこなすためのソフト制御になった。そしていまは優秀なソフト制御で走れるためのハードづくりへと変化し、SUBARU BRZ GT300はまさに最先端の開発が進められているわけだ。
にも関わらず、決勝前のウォームアップのタイミングでエンジンが始動しないトラブルが出た。20分間のウォームアップに出走できず、ぶっつけ本番での決勝スタートになっていたのだ。その場で原因は掴めていないが、エンジン始動に関わるパーツを交換している。ECUをはじめ、カム角センサーなどのセンサー類を交換し対応していた。
原因はまだ調査中であるが、こうしたマイナートラブルはもっとも避けなければならないわけで、レースマネージメントという点では課題は残った。
一方で、明るい材料としてはドライバーの進化だ。山内選手のここ一発での速さは磨きがかかり、予選のポール狙いやスタートでのジャンプアップなど、好結果につなげている。そして、決勝では難しいコンディションになってしまう環境でもドライビングできるスキルがある井口選手の役割は大きい。もともとコンビネーションの良い二人だが、今季はさらに磨きがかかり、レベルアップしたコンビネーションになっているのは間違い。
チームのシリーズランキングは3位と同点だ。ドライバーラインキングも3位に浮上している。次戦は再び富士スピードウェイでのレース。今回の3位によりポイントによるウエイトハンディは上限の100kgを超えることになる。またBoPによるハンディも新たにあるかもしれないが、SUBARU BRZ GT300は確実にレベルアップしているので、シリーズチャンピオンに向けて期待したい。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
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