安全性に難がある簡易分離
年々、日本の高速道路網は拡張を続けている。各地で新たな路線が開通し、利便性の向上や地域経済への波及効果が期待されている点は歓迎すべきことだ。
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一方で、整備の進展と並行して複数の課題も抱えている。その代表的なものが
「暫定2車線区間」
の存在である。暫定2車線とは、将来的に片側2車線以上の往復4車線で整備される予定の高速道路などが、当面のあいだ片側1車線ずつの対面通行、つまり合計2車線で供用されている状態を指す。
東名高速や東北道といった幹線道路の多くは片側2車線以上で整備されている。しかし、地方圏の路線では、今なお暫定2車線のまま供用されているケースが少なくない。2023年4月時点で、暫定2車線区間は
・有料道路:20%
・無料道路:60%
を占めていた。距離にして合計約3400kmに及ぶ。暫定2車線区間の最大の課題は、安全性の低さにある。対面通行であるため、中央分離帯の構造が簡易になりやすい。たとえば、片側2車線以上の区間ではコンクリート壁などの堅牢な構造物で車線を分離しているケースが一般的だ。
それに対して暫定2車線区間では、
・ワイヤーロープ
・ラバーポール
・縁石ブロック
といった簡易素材での分離が多い。こうした構造では、車線逸脱による正面衝突などのリスクが高まる。
本来であれば、中央分離帯は衝突を防ぐ堅牢な構造であるべきだ。しかし、現状では多くの暫定2車線区間が簡易分離のまま運用されている。
正面衝突防ぐ低コスト策
暫定2車線区間では、対面通行が基本となる。背景には、
・予算や交通量の制約
・将来的な拡幅を想定した段階的整備
といった事情がある。この構造上、車線逸脱による正面衝突事故のリスクが高く、安全性の確保が課題となっている。
ワイヤーロープは、こうした車線逸脱を防ぐ目的で設置されている。ドライバーにとっては、車線の視覚的な目印となり、接触を避けるための抑制効果もある。また、ワイヤー自体にある程度のクッション性があるため、車両が接触した場合でも衝撃を吸収し、対向車線への飛び出しを抑制できる。
加えて、ワイヤーロープはコンクリート製の構造物と比べて安価で、施工も容易である。特に、無料区間を管轄する国や地方自治体では予算制約が大きいため、コスト効率の高いワイヤーロープは有力な選択肢となっている。
事故対応で光る迅速設置の利便性
ワイヤーロープによる中央分離帯の区間を何度か走行した経験がある。車線逸脱の防止という点では、一定の効果があると実感する。ただし、完全に逸脱を防げるかというと疑問も残る。
一方で、道路を早期に開通させるという観点からは、ワイヤーロープの活用は合理的といえる。設置はコンクリート製よりもはるかに容易で、暫定2車線区間では特に有効だ。たとえば、事故や故障で片側車線が規制された場合、対向車線を迂回路として使う必要がある。その際、ワイヤーロープならば取り外しと再設置が迅速に行えるという利点がある。
暫定2車線区間を実際に走ってみると、法定の車線幅が確保されていても狭く感じることがある。視覚的な圧迫感が影響しているのだろう。特に、中央分離帯がコンクリート製の場合、視界が遮られやすく、精神的なストレスも大きい。これに対して、ワイヤーロープであれば視界が開けるぶん、走行時の緊張感がやや和らぐ。
加えて、対向車の存在を視認しやすくなる点も大きい。すれ違い時に相手車両の動きが見えない状況は、運転中の不安感を増幅させる。ワイヤーロープは、こうした心理的負荷を軽減する役割も果たしている。
切断リスクと復旧コストの現状
暫定2車線区間で推奨されているワイヤーロープの設置には、いくつかの課題も残る。最大の懸念は、二輪車との接触時に重傷事故につながりやすい点だ。二輪車は構造上ふらつきやすく、ワイヤーロープに接触する事故も各地で報告されている。
ワイヤーロープは一定の強度を持つが、状況によっては切断されることがある。コンクリート製の構造物でも損傷は起きるが、ワイヤーロープのほうが切断リスクは高い。切断された場合、その復旧には時間とコストがかかる。
さらに、降雪地域では除雪作業との両立が課題となる。一般道では除雪効率を優先し、中央分離帯を設けないケースが多い。しかし、高速道路では安全性確保の観点から分離帯の設置が不可欠となる。このため、除雪との兼ね合いで運用が難しくなるケースもある。
10年で進む分離帯改良計画
暫定2車線区間では、中央分離帯に樹脂製のラバーポールが多く使われている。
実際に走行した印象では、ワイヤーロープよりラバーポールの方が設置されている箇所が多い。ラバーポールは視認性に優れており、運転しやすいメリットがある。しかし、衝突時の耐久力はワイヤーロープが圧倒的に高い。
これを受けて国土交通省は、暫定2車線区間のラバーポールを順次ワイヤーロープに切り替える方針を打ち出している。ただし、橋梁やトンネル内などではワイヤーロープの支柱を深く打ち込むことが難しい。そのため、打ち込みが浅くて済むラバーポールを使わざるを得ない場合もある。
ワイヤーロープとラバーポールは、それぞれにメリットとデメリットがある。コスト面も考慮しつつ、両者を適材適所で使い分けることが求められている。
地域差と管轄で異なる設置基準
暫定2車線区間でのワイヤーロープとラバーポールの使い分けについて先に述べたが、現状では使用区間ごとの統一的な基準や意図は見られない。これは地域や路線ごとに環境や条件が異なるためと考えられる。具体的には、
・気候
・交通量
・道路構造
・事故件数
・橋梁やトンネルの有無
など、多様な要素を総合的に判断して中央分離帯の設置物が決定されている。また、管轄する会社や機関も異なるため、予算や運用方針の違いが設置状況に影響している。将来的な片側2車線化を視野に入れた設置計画も必要になる。
次に、諸外国の高速道路の車線数を見ると、両側合わせて3車線以下の路線は非常に少ない。例えば米国では全体の約2%、フランスでも約6%にすぎない。韓国は1992年に暫定2車線を全廃し、2015年までに全路線が片側2車線以上となった。日本だけに暫定2車線区間が多いのは、
・国土の狭さや山岳地帯の多さ
・台風や雪、地震といった自然災害
の多さが影響している。これらが高速道路の建設・維持に大きな費用と労力を要する要因だ。
しかし、このまま暫定2車線区間の課題を放置するわけにはいかない。参考になる例としてスウェーデンの高速道路がある。スウェーデンでは両側合わせて3車線を確保し、片側1車線に加え中央の車線は両側共用の追越車線となっている。ただし、このまま導入すると正面衝突の危険性が高まるため、時間帯によって車線の通行方向を変える可変車線の採用が検討されている。実際、東京都内の一般道でも可変車線が運用されている例がある。
さらにスウェーデンはAIを活用した交通量や状況に応じた「可変制限速度システム」や、幅広い中央分離帯の設置により高速道路の安全性向上を図っている。日本独自の対策が必要ではあるが、こうした海外の取り組みは十分に参考になるだろう。
ワイヤーロープ設置率の現状
2025年6月時点、日本の暫定2車線区間ではワイヤーロープの設置が推奨され、導入が進んでいる。
現状の高速道路事情を踏まえれば最善策ともいえるが、本当にこれで十分なのか疑問は残る。走行してみると、暫定2車線と片側4車線以上では走りやすさやストレスの差が大きい。理想は早期の片側2車線化である。
ただし、現状の暫定2車線区間を利用者が理解し、安全運転に努めることも必要だ。中央分離帯も区間によって異なるが、どのタイプが走りやすいか注目して走ることを勧めたい。(都野塚也(ドライブライター))
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