イタリア製の巨大なシューティングブレーク
グレートブリテン島の西に浮かぶ、小さなマン島。海岸線へ打ち寄せる波音と、空を舞うカモメの鳴き声に包まれた、静かな浜辺へやってきた。遠くへ見える灯台の中には、フォーミュラ5000のマシンが飾られているものの、クルマの姿も見当たらない。
【画像】6.4mのシューティングブレーク ムリーナ429GT 同時代の希少ワゴン マスタングも 全102枚
風化しつつある古城には、銃口を突き出す穴が開いている。紛争に巻き込まれた歴史を物語るが、今はそれを忘れさせるほど穏やかだ。ここを待ち合わせ場所にしたのは、名案だった。初対面の印象が、強調されるから。
見慣れない容姿が視界へ現れる前から、プッシュロッドのV8エンジン・サウンドがこだましてくる。低く長いボディが、駐車場へ滑り込んでくる。フルサイズ・アメリカンと呼べるほど巨大なシューティングブレークは、イタリア製だ。
シャシープレートを確認すると、北西部のトリノで製造されたことが明記されている。ブランドのルーツはアメリカ・ニューヨークにあるが、運転席側のサイドシル・プレートには、インターメカニカと刻印されている。
アイデアを実現するため、しばしば異論を巻き起こしてきたイタリアの企業へ、製造は委託されている。ポルシェ356やキューベルワーゲンのレプリカで、ご存知の読者もいらっしゃるだろう。
スポーツカーの性能と、ワゴンの実用性を融合
ムリーナ・モーターズというブランド名と、429GTのモデル名を決めたのは、裕福な家庭に生まれたチャーリー・シュウェンドラー氏。彼の父は、戦闘機を量産していたグラマン・エアクラフト社の創業者の1人だった。
シュウェンドラーの協力者になったのが、マーケティングの知識を有したジョセフ・フォス氏。2人は相当なカーマニアで、冬にはスキーへ夢中になったらしい。
雪が降る山岳部のリゾート地へ、自身のスポーツカーで向かうことは不可能ではなかった。シュウェンドラーは、ポルシェを特に好んだ。しかし、スキー道具はルーフへ括る必要があった。
ステーションワゴンを用意することも、可能だったに違いない。それでも、道中の運転を楽しむことも諦めたくはなかった。
そこで2人は考えた。スポーツカーの走行性能と、ステーションワゴンの実用性を融合したクルマを作ってはどうか。1968年2月、スイス・アルプス山脈での休暇を少し早めに切り上げて、フォスはトリノへ向かった。
フランク・ライスナー氏によって設立されたインターメカニカ社は、その頃に驚くほど多様な少量生産モデルを提供していた。シュタイアー・プフがベースの小さなスポーツカーから、シングルシーターのレーシングカーまで。
フォード・マスタングを、シューティングブレークへ改造した例もあった。このアイデアを、同社は快く実現してくれると期待したに違いない。ところがフォスは税務調査官と勘違いされ、当初は歓迎されなかったらしい。
ベース車両はフォード・サンダーバード
シュウェンドラーと温めた考えを、フォスは大まかにライスナーへ伝えた。実現する方法は、インターメカニカの技術者へ一任された。
ライスナーは、飛び込みでやってきたスキーヤーへ2台だけ作るより、10台程度まとめて生産した方が合理的だと判断した。より多い数が売れた方が、1台当たりの価格を抑えられ、投資費用も回収しやすいからだ。
ゼロからの開発には膨大な費用が必要なため、ベース車両に選ばれたのは、フォード・サンダーバード。スタイリングは、ベルトーネに在籍した経験を持つ、フランコ・スカリオーネ氏へ託された。
彼は、アルファ・ロメオBATからランボルギーニ350 GTVまで手掛けた、フィレンツェ出身の才能溢れるカーデザイナー。その時点では独立しており、インターメカニカとは複数のプロジェクトを通じ密接な関係性を築き、株主にもなっていた。
他社の仕事も引き受けていたが、専らインターメカニカのために働いていたようなものだった。サンダーバードというボディをキャンバスに、余り実用的には見えない、2ドアのシューティングブレークは描き出された。
だが実際は、スカリオーネの友人、イヴォ・バリソン氏の作品だと考えられている。名の知られていないデザイナーだが、コーチビルダーのヴィニャーレ社やフランシス・ロンバルディ社などと仕事をしており、彼のサインが入ったスケッチが残されている。
フランク・シナトラとサミー・デイビスJr.も購入?
ムリーナ429GTのプロトタイプが完成したのは、1969年。ニューヨーク・モーターショーで華々しく発表されると、シュウェンドラーとフォスは量産する計画も明らかにした。閉幕までに、約200台の申し込みがあったようだ。
しかし1970年9月のロード&トラック誌によると、最終的には38台へ減少したらしい。予定価格は1万4950ドルで、当時のシボレー・コルベット2台以上。法外なほど高額だったことは間違いなく、その後、注文が大きく増えることはなかった。
それでも、429GTには錚々たるセレブリティが惹きつけられた。エルビス・プレスリー氏は、2台も購入したといわれている。当時のディーラーの話では、フランク・シナトラ氏とサミー・デイビス・ジュニア氏も、1台づつ注文したとか。
明らかな事実は、ロックバンドのアイアン・バタフライのメンバーの1人が、ビバリーヒルズの代理店で1台を購入したこと。そのメンバーは、乗り始めてすぐに大破させ、直後にもう1台を買い直している。
フォードの社長へ就任したリー・アイアコッカ氏も、巨大なシューティングブレークへ惹かれ、評価のためにしばらく借りていたらしい。ランニングギアの提供にも同意し、429GTがアメリカの公道を走れる認証取得へ協力もしている。
この続きは、ムリーナ429GT(2)にて。
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