125年にわたるモータースポーツ活動
フォードは、正式に設立される前からレース活動を行ってきた。それでも、現CEOのジム・ファーリー氏が「モータースポーツが当社にとってこれほど重要だったことはない」と語るのは、決して大げさな表現ではない。
【画像】公道最強マスタング! V8ツインターボで800ps【フォード・マスタングGTDを詳しく見る】 全31枚
このことを如実に物語っているのは、ファーリー氏のレースに対する熱意だけではない。取材のために防音仕様の豪華なモーターホームの中で話をしている最中、わたし達は全開で唸る5.0L自然吸気V8エンジンの轟音に負けないように、声を張り上げなければならなかった。
3月下旬。数万人の観客がセブリング・インターナショナル・レースウェイに詰めかけ、世界トップクラスのスポーツカードライバーたちによる、フロリダのこのサーキットの容赦ないコンクリート路面で12時間にわたる激しい戦いを見守っていた。この日、ファーリー氏は仕事モード全開だ。あの特徴的なV8サウンドを響かせるワークスのマスタングGT3をサポートするとともに、新たなLMDhハイパーカーの開発のために、さまざまな会議が予定されている。
今年、ヘンリー・フォード氏が自ら手掛けた車両を初めてレースに出場させてから125年が経つ。そうした競技への献身的な姿勢こそ、AUTOCARがフォード・レーシングに「モータースポーツ賞」を授与するきっかけとなった。フォードはダカール・ラリーからF1に至るまで、世界34の選手権をサポートしており、その取り組みはますます広がっている。
ジム・ファーリーCEOは生粋のレース好き
「わたし達は、モータースポーツを単なるマーケティング活動として捉えるのではなく、製品の卓越性を高めるための原動力として捉えるように考え方を転換しました」とファーリー氏は語る。
「フォードにおけるモータースポーツはこれまで、ヘンリー・フォードを除いて、そのような視点で捉えられたことはありませんでした。彼が最初に製作した数台のマシンには、レーシングカーのあらゆる優れた要素を取り入れ、手頃な価格にするという哲学が込められていました。勝利を収め、エンジニアリングを通じて製品を改良することで、素晴らしいビジネスを築くことができるのです」
ファーリー氏はレースをビジネス化しているものの、今回彼がセブリングにいる理由はビジネスだけではない。取材の前日、彼はフォードのCEOとしてではなく、アマチュアレーサーとして「フォード・マスタング・チャレンジ」でライバルたちと競い合っていたのだ。だからこそ、AUTOCARは彼に話を聞くためにここを訪れた。
ファーリー氏は生粋のモータースポーツファンだ。その情熱は、若き日に当時フェラーリの米国輸入業者だったルイジ・チネッティ氏と親交を深め、後に1961年のF1チャンピオン、フィル・ヒル氏の修理工房で働いた経験によって培われた。英国のグッドウッドでGT40を駆って参戦した経験もあり、現在はローラT298でもレースを行っている。
プレッシャーと制約の中で最大限に楽しむ
ファーリー氏にとって、レースへの出場は多忙な日々から逃れる休息であり、ヨガのようなものだ。
「クルマに乗ってレースしていると、他のことは何も考えられません。たとえ爆弾が爆発しても、気づかないでしょう」と彼は言う。
レーシングカーの運転は、「特に時間があまりない時は、謙虚な気持ちにさせられる」という。
「クルマに乗り込んで素早くスピードを上げなければならず、安全にも気を配らなければなりません。フォードのCEOとして、スタートで誰かにぶつけるわけにはいきません。エンジンの性能だけで勝つこともできません。そうすれば『特別なエンジンを搭載しているだけだ』と言われるでしょう。制約はたくさんありますが、だからこそ、良い行いをして、楽しむというプレッシャーがあるんです」
つまり、いくら現実逃避しようとしても、ファーリー氏はフォードのCEOという立場から完全に逃れることはできない。
「多くのCEOは決してこんなことはしないでしょうが、わたしの場合、身が引き締まる思いがするんです」
それでも、彼は「ビジネスの世界と同じように」競争すること自体にスリルがあると語る。セブリングでは、技術的な問題により、両レースともグリッド最後尾からのスタートを余儀なくされた。
「時には最後尾からスタートしなければならないこともあります。わたしがフォードに入社した当時も、株価はたったの4ドルでした」
単なるマーケティング目的ではない
フォードもさまざまな市場動向に左右されてはいるものの、ファーリー氏がCEOに就任した当時(本稿執筆時点で株価は約16ドル)よりも良好な状況にある。そして、その成長においてフォード・レーシングが重要な役割を果たしている。以前は「フォード・パフォーマンス」として知られていたこの部門は、同社のすべてのモータースポーツ関連事業に加え、『マスタング・ダークホース』やオフロード車『ラプター』シリーズといった高性能車も手掛けている。
フォード・レーシングのグローバル・ディレクターであるマーク・ラッシュブルック氏は、2013年から同部門に在籍しており、以前は一般乗用車のエンジニアとして働いていた。同氏は、「仕事の内容は大きく変わった」と語る。かつてはモータースポーツ事業を管理する小さなチームに過ぎなかったものが、現在ではレーシングカーや高性能車を開発する数百人規模のチームへと成長したのだ。
「フォードはかつて、マーケティング目的でレースに注力することもあれば、技術移転を目的とすることもありました。しかし、今日ではその両方を実践しています。わたし達は学び、マーケティングを行い、フォード・レーシングを真のビジネスとして捉えています」
「単にバハ1000でブロンコ・ラプターを走らせるためにお金を使うのではなく、その経験を活かし、月曜日にオフィスに戻ってエンジニアたちと共に新型の(市販)ラプターをより良いものにしようとしているのです」
(翻訳者注釈:この記事は「後編」へ続きます。)
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