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護衛艦で運用した「異色の対潜ヘリコプター」自衛隊初の作戦用UAVが姿を消したワケ

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護衛艦で運用した「異色の対潜ヘリコプター」自衛隊初の作戦用UAVが姿を消したワケ

自衛隊が50年以上前に運用していた「ドローン」って?

 海上自衛隊が2025年1月に艦載用の小型UAV(無人航空機)としてアメリカの防衛企業シールドAI社が開発した「V-BAT」を選定したと発表しました。

【写真】これが日本に唯一残る「DASH」です

 しかし実は海上自衛隊、約50年も前の時点で、早々と艦載用の無人機を運用していたのをご存じでしょうか。その名は「DASH(ダッシュ)」。アメリカ海軍が対潜作戦用に開発・実用化したヘリコプタータイプのドローンです。しかし同機は15年ほどで運用を終了しています。登場の背景と姿を消した原因はどのようなものだったのでしょうか。

 そもそも、水上艦艇が海中の潜水艦を探知する装置には、こちらから音波を出してその反射で見つけるソナーと、潜水艦が出している音を聞き取って見つけるハイドロフォンの2種類があります。そして潜水艦が反撃してくる可能性もあるため、水上艦艇が対潜作戦を実施する場合、できるだけ遠距離から敵潜水艦を探知・攻撃できるほうが有利です。こうした対潜水艦用の探知技術が著しく発達したのは第2次世界大戦後の1950年代で、この時期に前述した両方の潜水艦探知装置の性能が大きく向上しています。

 これら技術の発展によって、はるかに遠方の潜水艦でも探知できるようになったため、従来の爆雷はもとより、「ヘッジホッグ」や「ウエポン・アルファ」といった前方投射用の対潜ロケットについても、射程不足が露呈するようになります。

 そこで、より遠距離に魚雷や爆雷などを投射可能な兵器として「ASROC(アスロック)」が誕生しますが、ほぼ同時期に開発された、もうひとつの対潜遠投兵器が「DASH」でした。

原型は1人乗り用のマイクロヘリコプター

 当時、アメリカのジャイロダイン社は、海軍に対して1人乗りの超小型ヘリコプターのデモンストレーションを行っていました。当時、アメリカ海兵隊はこのような簡易式飛行装置をさまざまな任務に投入しようと考えており、試行錯誤を重ねていたのです。

 結局、このような1人乗り超小型ヘリコプターは採用されることなく終わりましたが、海軍はこれを応用した対潜兵器の遠距離投射手段を思いつきます。同機を遠隔操縦式に改造して無人機とし、これに対潜誘導魚雷を搭載すれば、遠距離の敵潜水艦への攻撃手段になると思い付きます。

 アメリカ海軍は当時、駆逐艦やフリゲートといった小型艦艇に小さな飛行甲板を設けて有人の小型ヘリコプターを運用しようと実験中で、その小さな飛行甲板は超小型ヘリ改造の無人対潜ドローンの発着用として打ってつけでした。そのうえ無人対潜ドローンが運用できれば、母艦はその他の遠距離対潜兵器を装備しなくてもよいという可能性も出てきます。

 しかも、母艦を飛び立って指定の海域に到達したら対潜兵器を投下するだけというシンプルな運用なので、複雑な飛行を遠隔操作する必要がなく、誘導面での問題もさほどありません。

 こうして、1人乗りの超小型ヘリコプターをベースにDASHが誕生します。ちなみに、DASHとは「Drone Anti-Submarine Helicopter」の略で、1959年に初飛行しています。

 DASHの最高速度は約150km/hで巡航速度は約80km/h、航続距離は約130km、飛行耐久時間は約1時間。胴体下に対潜誘導魚雷2本を搭載することができました。誘導装置は、母艦の飛行甲板とCIC(Combat Information Center)にそれぞれ備えられており、基本的には離着艦を前者、目標への飛行と帰艦の誘導、それに兵装の投射を後者で実施することになっていました。

アメリカよりもずっと長く運用していた海上自衛隊

 アメリカ海軍は1962年からDASHの本格運用を開始します。しかし当時のドローン技術の限界で、エンジンなど機体関係と遠隔操縦のどちらにも問題が生じることが間々あり、約760機が生産されたものの、うち約半数が故障や事故によって失われました。もちろん、実戦に用いられた機体はなく、そのため敵によって撃墜されたものもゼロです。とはいえ少数の機体が、ビデオ器材などを搭載し、ベトナム戦争で着弾観測や偵察などに用いられています。

 結局、損耗率の大きなDASHの任務は、射距離こそやや短いもののアスロックで代替できると判断され、アメリカ海軍では1969年に運用を終了。しかし1965年に運用調査を開始し、1967年から本機を18機導入した海上自衛隊は、たかつき型とみねぐも型の護衛艦に搭載して1979年まで運用を続けました。

 ちなみに海上自衛隊におけるDASHの運用実績は、アメリカ海軍と比べてはるかに良好でしたが、わずかな機数をアメリカ海軍よりも長期に渡って飛ばし続けたため、やはり約半数を故障や事故で損耗しています。

 なおDASHに見切りをつけたアメリカ海軍は、その後、狭隘なDASH用飛行甲板でも運用が可能な小型有人ヘリコプター・システム「LAMPS(Light Airborne Multi-Purpose Systemの略)」を採用することになります。

 DASHの運用終了から約半世紀。いまやドローンを含む無人航空機は驚異的な発展を遂げ、空対空戦闘にまで用いられようとしています。そしてロシアによるウクライナ侵攻では、陸海空のあらゆるシーンで多数のドローンが用いられており、さらに一歩進んで欧米などでは無人潜水艦まで登場するまでに至っています。(白石 光(戦史研究家))

文:乗りものニュース 白石 光(戦史研究家)

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みんなのコメント

24件
  • dco********
    護衛艦なつぐもでdash.J−19号の機体発動機の整備を担当していました。今てつのくじらかんの入口の場所に展示していますね。懐かしいです
  • dum********
    DASHは、遠方の目標まで魚雷を運ぶ手段として運用されていました。
    魚雷をロケットで運ぶASROCに比べると速度は遅いものの、目標の位置が正確に分かる前に魚雷を近くまで運んで待機させ、誤探知だった場合は攻撃を中止できるという利点がありました。
    ただ、DASHの運用には飛行甲板や格納庫といった設備が必要で、それならもう少し頑張って有人ヘリを運用したほうがいい、という判断に至ったわけです。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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