どこの世界にもどの業界にも、勢いのあるヒットモデルや事柄がある。それだけに怖いものなしかと思いきや、さにあらず。そこには必ずといっていいほど「天敵」の存在がある。
自動車業界も同様である。一見死角がないような、他を圧倒しているメーカーやクルマにも、「なーんかあいつ、やっかいな存在だなー……」と思ってしまうような存在、“天敵”が潜んでいるものなのだ。
そんな「天敵」を探ってみようというこの企画。今回はもうひと捻り加えて、天敵が「身内(つまり同じメーカー内)」にいた! というケースをお届けしてみたい。
※本稿は2017年8月のものです。
文・写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2017年8月26日号
トヨタ車の天敵はトヨタ車
身内に「やっかいな存在」=「天敵」が多いメーカーはなんといってもトヨタだ。それもディーラーの系列間による競合が激しい。
トヨタにはトヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店の4系列あり、全系列、あるいは複数系列で扱う車種も多い。そういうクルマの場合、他社の競合車ではなく同じトヨタの別系列の店と競合することが多くなるのだ。
「ネッツ店とトヨペット店の間でプリウスの値引き額を競わせたり、トヨタ店とカローラ店でC-HRを競わせたり、そういうパターンは数多くあります。販売店にとっては“トヨタ車の天敵はトヨタ車”という状況です」と渡辺陽一郎氏。そういう厳しい競争があるからこそ圧倒的なシェアを確保できるのだろうが、営業マンは大変だぁ。
アル/ヴェルの天敵は新しいノア3兄弟
2017年7月、マイナーチェンジしたノア/ヴォクシー/エスクァイアは、アルファード/ヴェルファイアもびっくりのハデ顔に大変身。
サイズや価格帯の違いとともに、アルファード系は「ちょっとブイブイ言わせたい人たち」、ノア系は「安心、確実なミニバンが欲しい人たち」という棲み分けができていたが、その差がグンと近づいた。
ノア3兄弟でもヴォクシー、エスクァイアはもともとハデ顔だったが、今回のマイチェンでノアも4本の太いメッキが全体を覆う顔となってハデ度200%アップ。「ノアがこの顔なら無理してアル/ヴェル買わなくていいや」というお客さんが増えそうな気配が濃厚だ。なんたって、価格がぜんぜん違うから!
それにしても、世界のクルマのハデ顔競争はいつまで、そしてどこまで続くのでしょうか?
※この企画後の2017年12月にアル/ヴェルがマイナーチェンジを果たし、あろうことかさらにハデさイカツさが激しくなってしまった。ハデ顔競争はさらに続いていくようである。
プリウスの天敵はC-HRで、C-HRの天敵はハリアー
プリウスの天敵がC-HRだというのはよく知られた話。フロア、パワートレーンは同じながら、昨今のSUVブームに乗って、C-HRはプリウスの顧客を奪い続けている。
「現行プリウスは顔のウケがイマイチ。発売から約1年後にC-HRが登場して、先代プリウスからの代替えがC-HRに移行しています」と渡辺陽一郎氏は言う。
実際、プリウスの2017年1~6月の売れゆきは前年同期比64%と、波に乗れていない。C-HRの存在だけが原因ではないものの、その影響が大きいのは確かだろう。
ところが因果なもので、実はそんなC-HRにも天敵がいる。それはハリアー。ご存じ同じトヨタのSUVだが、この発見は東京都内の某トヨペット店営業マンの証言による。トヨペット店ではC-HRとハリアーを扱っていて、C-HRを見にきたはずのお客さんがハリアーを選ぶケースが少なからずあるというのだ。
気持ちはわかる。C-HRはハイブリッドGの価格が290万5200円、ハリアーは2Lガソリンエンジンのエレガンスの価格が294万9480円とあまり差がないうえに、ハリアーのほうが値引きが大きく、総支払い額では安くなることもあるからだ。
安いのに車格が上で、見た目も高級車っぽいとなればハリアーに心がなびくのもわかるというもの。両車を一緒に扱っているのはトヨペット店だけなので、その影響が大きいとは言えないが、C-HRにとってハリアーは意外な天敵なのだ。
ちなみに、担当がたまたま見た建て売り住宅のチラシに「ハリアークラス入庫可」とガレージの説明文に書かれていたことがある。知名度抜群。まだまだ若僧のC-HRに負けていない!
インプレッサの天敵はXVで、XVの天敵はフォレスター?
プリウスとC-HRの関係と同様に、インプレッサとXVも身内の天敵という関係。2017年6月の販売台数はインプレッサが4326台、XVが4154台とほぼイーブンで、互いに「やっかいな相手」と思っているはず。ただ、さらにやっかいな相手がいるのはXVで、インプレッサには身内にカテゴリーがかぶるクルマはないが、XVにはフォレスターがある。
XVの2L NAが248万4000~273万2400円なのに対し、フォレスターは241万9200~289万4400円。しかもモデルが古いフォレスターのほうが値引きは当然大きく、支払い総額ではフォレスターのほうが安い場面が多いのだ。
XVは新開発プラットフォームSGPの優位性があるものの、フォレスターもモデル末期(2017年時点)となって熟成しきったよさがあり、しかも312万8760円の安さでターボも選べる。XVにとって、なかなか手強い相手なのだ。
※2018年7月発売の新型フォレスターについてはこちらから。
ムーヴの天敵はタントベースのムーヴキャンバスだ
ムーヴは長い歴史を持つクルマだけに知名度がある。「お父さん、次のクルマは軽にしましょう。ダイハツのお店が近くにあるから、ムーヴというのがいいんじゃない?」と奥さんが言いだすケースがけっこうある(あるんです!)。
そこで夫婦で近くのダイハツ店へいくと、そこに「ムーヴキャンバス」と書かれた展示車がある。奥さん「あら意外とムーヴって広いし、かわいいデザインしてるのねー」と即決。お父さんも「俺が知ってるムーヴと違うな?」と思いながら、その気になっている奥さんを止める勇気など当然なく、「値引きはいくら?」という話になるわけだ。
そりゃ広い。ムーヴキャンバスはムーヴという名前がついているものの本当はタントがベースなのだから室内は広い。そして、洒落た色づかいがなんとも楽しげだ。
そんな感じでムーヴにとっての天敵はムーヴキャンバスになるというお話。なぜ車名をタントキャンバスにしなかったのかは本当に不思議だ。
現行GT-Rの天敵は第2世代の直6GT-R!
スカイラインGT-Rと現行日産GT-Rの間には暗くて深い河が流れている。
どれだけ現行R35型がすごいクルマでも、直6時代の第二世代(R32~34)が好きな人には絶対に受け入れられない何かがある。悲しいことに、それはR35にとって天敵と言えるほどのギャップなのだ。
ある直6GT-Rファンは、「スカイラインGT-Rはオグリキャップだ。見た目はさほどいいワケじゃないが懸命に走る姿が日本人の心の琴線に触れるのだ!」と担当に訴えかけたことがある。彼にとってR35はいけすかない外国かぶれのイヤなヤツ。
ことの是非、その真偽のほどは別として、世の中はそんなものだ。
VWポロは兄貴分ゴルフの天敵になる?
2017年6月16日に本国でデビューした新型VWポロ(日本でも2018年3月20日発売開始)は全幅が1751mmとなって、ついに3ナンバー車に。全長は4053mmでホイールベースは94mm大の2564mmになる。当然、後席居住性は飛躍的に向上。前後距離だけでなくヘッドクリアランスも20mm拡大しているという。
こうなると気になるのがゴルフとの関係。ゴルフも代を追うごとに大きくなっているから逆転現象はないものの、ここ日本市場では「新しいポロくらいで広さは充分」という層が現われてもおかしくない。価格もゴルフより安いのは確実だから、そのアドバンテージもある。
2LターボのGTIもあって、走り屋さんにも対応。ひょっとして新型ポロはゴルフの天敵になるかもしれない。
※新型VWポロについてはこちらから。
スイフトの天敵はソリオかも
2017年6月の販売台数、スイフト3174台、ソリオ5106台(ちなみに2018年6月の販売台数はスイフト1128台、ソリオ3354台)。セグメント、エンジンラインアップも同じ2台だが、意外な差がついている。
スイフトにとって、これは天敵。ソリオの売りだったストロングハイブリッドを追加したことで、今後どれだけ台数差を縮められるかに注目だが、室内の広さに圧倒的な差があるだけに追撃は容易ではなさそう。重心が低いぶん走りはスイフトに軍配が上がるが、日本市場ではそれより大事なことがありまして……。争いはさらに激化していく!
以上、自動車界、その身内同士に潜む「天敵」に注目してみた。まあ、天敵には適度な緊張感をもたらすという作用もあるから、悪いことばかりではないのかもしれない。アナタの人生に天敵はいますか?
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