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6戦目でラッセルを超えた18歳アントネッリ。その抜群のスピードセンスへの見解【中野信治のF1分析/第6戦】

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6戦目でラッセルを超えた18歳アントネッリ。その抜群のスピードセンスへの見解【中野信治のF1分析/第6戦】

 マイアミ・インターナショナル・オートドロームを舞台に開催された2025年F1第6戦マイアミGPは、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)が今季4勝目/自身通算6勝目を飾りました。

 今回は、デビュー6戦目にしてスプリントポール、予選3番手を獲得する走りを見せたアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)のスピードセンス、そして角田裕毅(レッドブル)の周囲の人間を納得させる仕事ぶりについて、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

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 依然としてマクラーレン勢が他を圧倒し、スプリントではランド・ノリス(マクラーレン)、決勝ではピアストリが優勝したマイアミGP。個人的には、デビュー6戦目のアントネッリがスプリントポールを手にし、予選でもチームメイトのジョージ・ラッセル(メルセデス)を上回り3番手を掴む走りが強烈で、印象深い一戦でした。

 ただ、もともとアントネッリはスピードセンスが抜群に優れており、その活躍ぶりは開幕前からある程度予想していたため、個人的には驚きというものではありませんでした。スピードセンスとは、かなりわかりやすく表現すれば『限界の先を感じ取ることができる能力』です。

 彼のスピードセンスが優れていると感じたのは、2024年の第16戦イタリアGPのフリー走行1回目(FP1)でアントネッリが初めてF1の公式セッションに参加したときです。ラッセルのクルマを託されたアントネッリは、セッション開始から10分という序盤に最終コーナーの高速のクルバ・アルボレート(旧称:パラボリカ)でバランスを崩し、激しくクラッシュしてしまいました。

 アントネッリのアルボレートへの進入速度のデータを確認したところ、ルイス・ハミルトン(当時はメルセデス)よりも10km/hほど高かったことがわかりました。アントネッリ初のF1公式セッションは、わずか5周でクラッシュに終わりましたが、私には決して無茶な走りの末のクラッシュではなく、彼の中で『行ける』と感じた末のクラッシュだったように見えました。

 当然クラッシュは褒められたことではありませんが、初のF1公式セッション、最新のF1マシンでも動じず、自身の感覚を信じて限界以上に攻めた18歳に対し、ただただ凄いドライバーだと感じたことを覚えています。

 だからこそ、アントネッリに対しては、徐々にその能力を発揮し、結果として証明していくだろうと開幕前から予想していました。まだレースペースの作り方、タイヤマネジメントに関してはラッセルから学ぶべき部分は多々あると思いますが、一発のスピードに関しては、デビュー6戦目で7年目のラッセルに優ったとおりです。

 彼の活躍を見ていると『アントネッリのようなスピードセンスが抜群に優れたドライバーは育成できるものなのか?』と思う方も居られるかもしれませんね。若手ドライバーには誰しもそれぞれ伸び代があります。ただ、ごく稀に伸び代のベースライン(基準値)が高い位置にある、スピードに対する感覚に富んだドライバーが現れる、という感じです。

 アントネッリはスピードセンスが抜群だったが故に、初のF1公式セッション序盤から攻めようとしました。これはF1ドライバーやF1を目指すドライバーにとっても、普通の感覚ではありません。だからこそ、私はイタリアGPでのクラッシュでアントネッリは凄いドライバーだと感じました。クラッシュはあれど、見る者に強烈な印象を抱かせるドライバーですから、フル参戦で経験を積めば早々に結果を残すだろうということは想像に難しくありませんでしたね。

 それに、18歳とは思えない落ち着いたレースでの走りを見るに、この点も今後F1の頂点を目指す彼の武器になるでしょうね。今はまだ予選での一発のスピードだけがフィーチャーされていますが、近いうちにレースやロングランでも強さを発揮すると思っています。


■災い転じて福となす。角田裕毅のダブル入賞

 マイアミGPにてレッドブルはフロアのアップデートを投入しましたが、新フロアを搭載したのはフェルスタッペン車のみで、裕毅のクルマは旧フロアでした。チーム内でクルマのポテンシャルに差が生じるなか、裕毅はスプリントと決勝でともにポイントを持ち帰ることができました。ペナルティやスプリント予選SQ1敗退を含め、本人的には課題が残る一戦だったかもしれませんが、周囲の人間を納得させるいい仕事ぶりだったと思います。

 個人的には、決勝で5秒のタイムペナルティを課せられるなか、アイザック・ハジャー(レーシングブルズ)と1ポイントを争った戦いが、レース後半の最大の見どころでした。自らのピットレーン速度超過で課された5秒のペナルティだけに、あの1点を守れるか否かは、裕毅の周りの人間が受ける印象も180度変わる部分だったと思います。

 それだけに、ハジャーに対し5秒のギャップを守り切ったことは、目に見えるリザルト以上の結果だったと感じています。いろいろな人がさまざまな角度から裕毅のことを評価していますが、裕毅にとっては周りの人間を納得させ続けることが大切です。周囲を納得させ続け、自身のモチベーションを高い領域で維持し続けていれば、アップデートを通じてクルマが速くなったタイミングで、チャンスを掴むことができると考えています。

 だからこそ、ハジャーとの激しい戦いを通じ、レッドブルRB21というクルマの限界に対する理解も深まった今回のマイアミGPは、裕毅にとってポジティブな一戦となったと感じています。災い転じて福となすではありませんが、裕毅のラーニングカーブ(学習曲線)も一気に上がったのではないかと見ています。

 さて、次戦エミリア・ロマーニャGPの舞台は、イタリアのアウトドローモ・エンツォ・エ・ディーノ・フェラーリ(イモラ・サーキット)となり、いよいよ今年もヨーロッパラウンドを迎えます。イモラは空力重視なのか、メカニカルグリップ重視なのか、掴みにくいコースです。路面もバンピーなので、改めて各チームのクルマの特性がわかりやすく結果に出るでしょう。最有力候補はマクラーレンに違いないですが、アップデートの投入状況次第で勢力図にも変化が出れば面白いなという期待もあります。

 また、ジャック・ドゥーハンに代わって、エミリア・ロマーニャGPからの5戦でフランコ・コラピントがアルピーヌのステアリングを握ります。コラピントにとっては久々のF1、初のイモラでのF1ですが、昨年ウイリアムズで見せた好走をどこまでアルピーヌで再現できるのかも、楽しみにしたいと思います。


【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。

・公式HP:https://www.c-shinji.com/
・公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

[オートスポーツweb 2025年05月11日]

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