デッドストックとリプロパーツの融合。半世紀前のジウジアーロ・デザインを現代へ引き戻したフルレストア
新車と見紛うボディを持つ1台が、旧車イベントの会場に静かに置かれていた。いすゞ「117クーペ」の初期型、通称ハンドメイドモデルである。オーダーを受けたいすゞ車専門店が3年をかけ、プレスラインの再現にまでこだわってフルレストアを完了させた。デッドストックの純正パーツと自社製リプロダクトパーツで固めた仕上がりを追う。
自作パーツで幻のプロトタイプに! いすゞ「ピアッツァ」に人生を捧げるオーナーが完成させた至極の1台
ノスタルジック2デイズで見たいすゞ117クーペのハンドメイドモデル
会場で足を止めさせたのは、アストラルシルバーメタリックの塗装だった。旧車の祭典ノスタルジック2デイズに例年大きなブースを構えるいすゞスポーツは、今年もベレットGT-Rやピアッツァ、幻のピックアップとして知られるワスプなど、数多くのいすゞ車を並べていた。そのなかでひときわ輝いていたのが、この117クーペである。
丸目4灯のヘッドライトを備えるボディは、フロントウインカーの位置やテールランプまわりの造形から、ハンドメイドと呼ばれる初期型と見て取れる。ブースで来場者を迎えていた「いすゞスポーツ」の岡根代表に話を聞いた。
「このクルマは昭和45年式の117クーペで、お客様からオーダーをいただき、当社で3年ほどかけてボディも含めたフルレストアを終えたばかりの車両になります」
昭和45年式は西暦にすると1970年式にあたる。発売から半世紀以上が経過した個体が、塗装の面から内装のディテールまで整えられた状態で人前に立っている。
いすゞ117クーペの初期型が「ハンドメイドモデル」と呼ばれる理由
初期型が特別視されるのは、ボディの作り方そのものが後年のモデルと違うからである。117クーペは、ジョルジェット・ジウジアーロがボディデザインを手がけた2ドアクーペで、いすゞ初の量産DOHCとなる1.6リッターのG161W型を搭載して1968年12月に発売された。車両価格は172万円と、当時としてはかなり高価な設定になる。それでも流麗なスタイルとツインカムエンジン、上質な内装が支持を集め、1981年まで生産が続くいすゞの看板車種となった。
原型は1966年3月のジュネーブショーに出品されたプロトタイプ、117スポルトにある。この造形を可能な限り忠実に市販車へ落とし込むため、ジウジアーロ自身が生産化に向けたリデザインを担当した。ところが、極端に細いピラーなど、当時のいすゞのプレス技術では再現しきれない部分が残る。そこで大まかなラインだけをプレスで出し、パネルのトリミングや穴あけなどの工程を手作業でまかなうことによって、市販にこぎつけたという経緯がある。初期型が「ハンドメイドモデル」と呼ばれるゆえんである。
手作業ゆえに量産は難しく、月あたりの生産台数は限られていた。ボディがプレス成形に切り替わる1973年3月までの生産台数は2458台とされる。総生産台数8万台超の117クーペのなかで、初期型が別格の存在として扱われてきた背景には、この数字がある。
ハンドメイド117のレストアはプレスラインの手作業での再現とノウハウ詰まったリプロパーツ
3年という作業期間の大半は、ボディに費やされている。いすゞスポーツの工房では、プレスラインを出すことにこだわったボディワークが行われた。光の当たり方でキャラクターラインの通りが素直に見えるあたりに、その成果が表れている。
ボディに装着されるパーツもまた、今では入手が難しいものばかりになる。純正パーツがひととおり揃った状態で残っていること自体、現在では珍しい。いすゞスポーツはレストアのために数多くのパーツをストックしているほか、リクローム(メッキの再生処理)などパーツ再生のノウハウも積み上げてきた。ホイールキャップのように調達が困難になった部品は自社でリプロダクトしており、この1台にもデッドストックの純正パーツと自社製リプロダクトパーツがふんだんに使われている。
専門店が手を尽くしたとしても、ハンドメイドモデルは1台ごとに個体差を抱えている。だからこそ、素材となるボディと向き合いながら時間をかけるほかにない。岡根代表の話からは、部品を集め、直し、作り直してきた蓄積がそのまま仕上がりに直結している様子が伝わってきた。
手作業で生み出されたクルマを、また手作業で現代へ引き戻す。50年以上前のジウジアーロの造形が、いま新車のような姿で目の前にある事実は、旧車と付き合う楽しさをそのまま示している。このクルマを迎えたオーナーが、これからどんな時間を重ねていくのかを想像したくなる1台である。
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みんなのコメント
45年くらい前だったかにフロントフェンダー交換したと思う。
通常上側エプロン部はボルト止めなんですが、
ハンドメイド117はハンダ付け。
外すのはバーナーで炙れば良いけど、
取り付けは大型のコテとバーナーと板ハンダで取り付け。
ムチャ苦労したような記憶が!
いろんな規制ばっかりの現代車には無理なんだろうなあ