FCY導入とともに切り替わった中継映像。ピットレーンを走る金色のmuta Racing Lotus MC。「まさか!?」と驚いた多くのファンの予感は的中した。スーパーGT第4戦もてぎのGT300クラスの決勝レースは、加藤寛規/阪口良平のふたりが駆るmuta Racing Lotus MCが、終盤の三つ巴のバトルを制し見事な大逆転優勝を飾った。この間に何が起きたのか。関係者のコメントを聞いた。
今季、新たな体制が組まれロータス・エヴォーラMCとブリヂストンの組み合わせ、加藤寛規と阪口良平のふたりのコンビでGT300クラスに挑んでいるmuta Racing INGING。実はこの第4戦もてぎは、「速さはあった」というのは渡邊信太郎チーフエンジニアだ。予選では残念ながらQ1突破はならず17番手となってしまったが、「そんな予定はなかったんですが(笑)」という。
muta Racing Lotus MC、17番手からFCYで好機を掴み三つ巴の戦いを制する【第4戦もてぎGT300決勝】
ミッドシップレイアウトの車両は、この暑さでクーリングに課題を抱えている車両も多く、エヴォーラMCもその課題を抱えていた。ホンダNSX GT3勢も今回苦戦したが、この課題によるパワーダウンが影響していた様子。エヴォーラはクーリングの対策パーツを導入したものの、ドラッグが増えてしまったこともあり、「見事なくらい5速のエンドの伸びがなくなっていて、予選が接戦だったので、僅差で落ちてしまいました」という。
ただ、もともとのスピードはあった。公式練習では7番手だったのだ。それを踏まえレースでは、3つのプランが用意されていたという。まずひとつは、自車のペースが良くても、前に詰まってロスをしてしまった場合、早めにピットインするというパターン。もうひとつは定石の均等割りで、この場合は四本交換が前提だ。そしてもうひとつは、ペースが良く引っ張れるパターンだ。ウォームアップでは加藤がマイレージを重ねたユーズドタイヤで確認したが、このペースが良く、『引っ張るパターン』に決まった。
「抜いて上がっていけるレースを進めることができました。抜いて上がるのはウチの場合珍しいんですけどね(笑)」と渡邉チーフエンジニア。逐次加藤からはタイヤの状況もフィードバックされていたが、前がいない状態ならば1分51秒台のペースで走ることができた。これは無交換でもいけるのではないか……? という判断が下された。
さらに、上位陣はタイヤ四輪交換がほとんど。「替えてしまうと彼らの前には出られない。それならば替えずに行こう」と決断した。「行けるだけいって、間に何かが起きたらピットインしようと決めました。そうしたら、何かが起きたんですよ(笑)」
モニター上に、arto RC F GT3から煙が上がった映像が入ってきた。渡邉チーフエンジニアはフルコースイエローの可能性を即座に判断し、ピットインを指示した。何もなくても2周後にピットイン予定だったため、準備もできていた。作戦はズバリ成功。無交換で阪口を送り出し、「ドキドキしながら」まんまとトップに浮上することに成功したのだ。
■muta Racing Lotus MCの背後に迫った2台の事情
FCYが解除された後、阪口はアウトラップでタイヤが冷えた状態でピックアップを拾ってしまったか、ペースが上がらなかった。そこでそれまでトップだったGAINER TANAX GT-R、さらに埼玉トヨペットGB GR Supra GTが接近してくる。ただその後、ピックアップがとれてからはグングンペースが上がり、阪口は2番手以下を引き離しフィニッシュ。阪口にとっては嬉しいGT300初勝利を飾ってみせた。
「あとは、おそらくなのですがブレーキとアクセルを踏むタイミングが良かったですね。ウチは最後までズルズルにはならなかったので、最後まで抜かれる感触はなかったそうです。あとは52号車が来て11号車に仕掛けてくれたので、『頑張れ! でもウチは抜くなよ』と(笑)。あとはGT500のトップの1号車がどこにいるかを確認しながら走りました。ファイナルラップの裏のストレートで『1号車を行かせろ!』と指示を出しましたね」と渡邉チーフエンジニア。
「みんな作戦をうまくはめたくて努力しているし、いろんなことを考えたりしていますが、うまくいかないことがうまくいったので勝てたのだと思います。勝てるときというのは、そういうものなんだと思いますね」
一方、思わぬ展開となったGAINER TANAX GT-Rの福田洋介チーフエンジニアは、「基本的に、普通に走っていたらぜんぜんタイヤはもたなかったです。スタート直後からドライバーは、『タイヤを保たせること』に集中していました」という。muta Racing Lotus MCの背後には迫ったが、「もてぎは2秒くらいペースが違わなければなかなか抜けませんから」と抜くほどのポテンシャルはなかったと振り返った。
「2号車との距離としても、スリップが効くからついてはいけるのですが、横に出てしまうと失速してしまう。逆に52号車も抜けなかったですよね。FCYのときに2号車が前に出て、そこで追い上げるのでタイヤの良いところは使い切ってしまっていましたね。あとはポイントをうまく平中選手がうまく抑えてくれました」
そのGAINER TANAX GT-Rを追いつめていたのは埼玉トヨペットGB GR Supra GTの吉田広樹だ。四本交換を行い、好ペースでたかのこの湯 GR Supra GTをかわしたが、「FCYが入ったときに2号車がトップに出るだろうと予想はしていたので、それは仕方ないから、11号車との争いをしようと思っていました」と吉田。
「優勝争いはもちろんしたいですが、今後得意なサーキットは来る。優勝争いができるならするし、2番手がダメなら3位でしっかりとポイントを獲ろうと思っていました。でも予想外にトップが近づいたのでモチベーションが上がったというところです(笑)」
吉田は可能な限り大きなポイントを獲ろうと平中を攻め立てたが、「使えるものはなんでも使ってでも抜こうと思っていましたが、平中さんがやっぱり上手いです(苦笑)。決定打がないですし、GT500を使っても、スキもみせてくれなかったです」と3位でレースを終えることになった。
3台すべてがパフォーマンスを出し切り合った終盤の三つ巴の戦い。全力だからこそ、決定打がなかったのが最後までオーバーテイクが生まれなかった要因だったのだろう。
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