ライディングスクールの主宰を10年以上務めるモーターサイクル・ジャーナリスト柏 秀樹 氏が持論を展開する連載企画。今回のテーマは「運転技術の上達に欠かせない4つのアクション」です。バイクに思うように乗れていないという方、ぜひ動画とともに最後までご覧ください。
まずは「4つのフォーム」をおさらい
前回は「雨の日に車体を深く傾斜させると危険なのか」というテーマで記事を書いた。
その中で、次の2つのことを提案をした。
走行中に4つのフォームが自由にできること。ハンドルグリップを握る手をガチガチからユルユルにして少し手が浮くほどの「フローティング・グリップ」ができること。
この2つが確認できる走りなら、たとえ雨でもバンク角の深い浅いのリスクに大差ナシと、私は考えている。
【4つのライディング・フォーム】
1.「リーンウィズ」 体と車体の傾斜度合いが同じ状態。
2.「リーンイン」 車体傾斜より上体がイン側になる状態。
3.「リーンアウト」 車体が傾斜して上体が起きている状態。
4.「ハングオフ(ハングオン)」 上体と腰が傾斜した車体よりも大きく内側にある状態。
無理に飛ばすと多大な情報を脳が処理できず、リスクが一気に上昇し、たとえ事故にならなくても極度の疲れを生み出すだけ。
「もう限界です。転びます。滑ります!」とバイクが叫んでいるのにアクセルを緩めず、ハンドルを押さえつけて走るから無用なバンク角になったり、乱暴なブレーキ入力をしてしまう。
が、当の本人はその認識はない。バイクの怖いところはその臨界点がわからないこと。マラソンなら足がもつれたら走れない! と自分で判断できる。バイクは勢いだけで走れてしまう。
つまり、バイクは臨界点を教えてくれない非常に厳しい乗り物だ。ライダーの「感じ取る能力」に100%依存しているのだ。
雨の時はわずかに速度を落として、ちょっと力を抜けば、少々のバンク角など関係なく走れる。雨に通用するテクニックがすべての道の安全と楽しさに通じる。
これこそライダーが最優先すべき技術課題と言えるのだ。
雨天時にも通用する繊細なテクニックには、大前提がある
前回の「4つのフォーム」ですでに触れたが、走行車線の真ん中を維持しながら4つのフォームを正確にやってほしいのだ。
4つのフォームを試したらフラフラしてセンターラインやガードレールに近寄ってしまうようだと、各部の操作が雑か、速度が速すぎて無意識に緊張しているか……もしくはその両方の問題を抱えているのだ。
自分の車線の中央を維持すること、速度を少し下げて一定にのまま走る中で4フォームをやれば自分のウイークポイントはきっと早く見つかり、修正もできる。
たとえば下半身をホールドしてグリップに触れる手をゆるくしたら安定して、自分の車線中央が綺麗にトレースできるかもしれない。ならば他のフォームでも同じようにやってみればいい。
次のステップである「4つのアクション」に焦って進む必要はない。上体を大きく動かしてちょっとでもふらつくようなら、まずはセンターキープしながらの4つのフォームをじっくり完成させよう。
さて、前置きがとても長くなったが、やっと今回のお題へ進みましょう。
バイクを自由自在に操るための「4つのアクション」とは?
例えば曲がり方には4つあると仮定してトライしたい。4つのそれぞれを確認して、あとは組み合わせ自由。
ひとつずつの確認は、高い精度を出しやすい。高精度になれば、セルフチェック能力が高まる。
つまり、うまく乗れない時の処方箋(改善策)がすぐに引き出せる。
何年乗っても上達しないのは、呼吸・脱力管理と4フォームがちゃんとできて、4アクションをきちんと体が理解していないから。なんとなくできると思って乗っているだけだから。
ということで、4アクションは下記になる。
【ライディング能力を上達させる4つのアクション】
(1) 体重移動
(2) ステップ荷重
(3) タンク荷重
(4) 逆操舵
どれが正しいとか間違いとか、やって良いとか悪いとかはまったくない。いずれも自由自在、いつでもどこでもどんなバイクでもスイスイできるぐらいになりたい。
これは4つのライディングフォームとかぶるように思うけど、フォームは結果であって手段ではない。ともかく4フォームと4アクションは密接に関係しているけれどまずは別々に考えて、あとで合流ってことが大事。
(1) 体重移動
車体垂直で走っている時
直線走行で両手をユルユルにして頭を右のミラー部分まで移動。すると重心が右に移って車体が傾斜。傾斜すると真っ直ぐだったハンドルは右へ切れ始める。
これが体重移動による曲がり方。セルフステアがもっとも穏やか=自然に発生する方法。左旋回も理屈は同じ。見た感じではリーンインのフォームと同じ。
速度が高いほど前後輪の遠心力が生まれる
ジャイロ効果が強いのでハンドルは切れにくい。低い速度ほど車輪の遠心力は弱いので一気にハンドルが切れ込みやすい。アクセル一定でもクラッチを切ってもいい。やりやすい方法でトライすればいい。両方ともトライして曲がり方の違いがあるのか確認しよう。
(2) ステップ荷重
直進時に手の力を抜いて、ニーグリップをせず、右ステップを一気に踏み込む。すると車体は右に傾斜して同時に右側にハンドルが切れていく。載せる体重は強いほど車体傾斜速度は強くなる。
「(1)体重移動」で頭をイン側に入れてからハンドルが切れ始めるよりも素早い反応となる。ステップ左側を踏めば左へ舵がついて曲がっていく。
これもスロットル一定かクラッチ切りで曲がり方の違いを確認しよう。
ステップ荷重では一気に車体が傾斜して曲がり始めるため上体は残るから結果的にリーンアウトのフォームになりやすい。
ポイントは、ハンドルを握る力をユルユルにして、ニーグリップはユルユルかまったくしないで曲がりたい方向のステップ(ステップの端)を強く踏み込むことだ。
(3) タンク荷重
あまり聞いたことがないだろうが、バイクの車種によってその反応は異なる。直進時に手の力を抜いて、右膝でグイッと内側(左方向)へタンクを押すと車体は左側へ傾斜してハンドルは左に切れて曲がり始める。
これも素早い反応となり、バイクだけ傾斜して上体がそのまま残り、結果としてリーンアウトに形になりやすい。
左膝を内側に押し込むと右に傾斜して右へ。これもスロットル一定かクラッチ切りでトライ。リーンアウトの形になるが、タンク荷重の実感が湧かない場合はステップ荷重と同時併用するとさらにクイックな曲がり方が実感できるだろう。
(4) 逆操舵
クルマなら左にハンドルを切ると左へ行くが、直進中(垂直状態)のバイクはハンドルを左に切ると車体は右へ傾斜をはじめて右へ曲がっていく。クルマとは逆の動きをするから逆操舵と呼ぶ。
〈確認方法〉
まっすぐ(垂直)一定速で走る。両手の力を抜いて右手だけを前方向へジーッと押し続けると左へハンドルが切れ、すると車体は右へ傾斜が始まり右方向へ曲がっていく。
クイックにも穏やかにも曲がれ、車体が傾斜する速さ〈ロール速度〉まで自由に選択でき、速度の速い遅いに関係がなく深いバンク角一定の走りも可能。上達すれば(1)(2)(3)よりも狙ったラインを正確にトレースできる。
急激にやりすぎると前輪からのスリップダウンを引き起こすので、わずかにフロントブレーキをかけながらやれば安全率が確保できる。
(1)(2)(3)は先に車体が傾斜して、その後に舵がついて曲がっていく方法。そのためのアクションとして車体傾斜の手段に頭、足、膝を使ってハンドルが自動的に切れていく現象〈セルフステア〉を使う。
対する逆操舵は手をこじるのみ。
舵〈ハンドルのこじり〉を使って強制的かつ瞬時に車体傾斜させてセルフステアを発生させる乗り方でもある。
逆操舵の応用としては右に曲がっている途中でハンドルをさらに右へ切り足すと、逆に車体は起き上がってしまう。
例えば左カーブでコーナリングしている時に対向車がセンターラインを割ってきて、あわや正面衝突か! というギリギリで危険回避するために、左いっぱいに寄るなら、左カーブで右にハンドルを切るということ。切るのは右方向だ。
すると左に傾斜しているバイクはさらに深いバンク状態になって左に寄れるということ。逆操舵はかように瞬時の動きができるから効果的な危険回避テクニックに使えるというわけ。
これに対して左カーブ旋回中に自分の車線のイン寄りに落下物が急に現れたとしよう。落下物の右側に緊急回避したいならハンドルはどうするか。左に切るということ。左に切る。あくまでも左に切り足す。
すると車体はグイッと起き上がって危険回避ができる。ブレーキ操作しながら逆操舵するとさらにタイヤを路面に押し付けるから安全性がさらに高まるのも事実。ちゃんと使えるならばの話だが。
ともかく逆操舵の原理を読んで、どうしても理解できない場合は、安全な環境下で実際にやってみるといい。それでも理解や体感できないなら無理にやる必要はない。
「逆操舵」が役に立つ場面
例えば道幅が1メートルもない非常に狭い道に遭遇。左は崖下で左側に足を着くことはできない。右は草木が生えている山側で足が着ける道。ここをバイクで通過するとしよう。
左側に倒れたら万事休す。そうならないためにどうするか。
ここでも逆操舵が役立つのだ。ちょっとでも危ないと思ったらブレーキをかけながら右側のハンドルを前に押す。つまり崖側にハンドルを切りながら止まれば車体は右に傾斜して右足が着けるから崖下に落ちない。
一般道でも使える。
交差点に差し掛かって赤信号で止まるときに道路の左端が低い。だから足が着きにくくて困る人もいると思う。
足着きがギリギリなら、止まる直前の時速2km/h以下になったらハンドルを左に切る。つまり右手を前に押す。すると右足着地で確実に止まれるってことと同じ。
交差点の停止も崖に落ちない止まり方もワインディングのカーブの曲がり方も危険回避も、やることの基本は同じだ。
「4つのアクション」を実現するうえで、忘れてはならないこと
4つのアクションは、ワインディングの曲がり方や危険回避テクニックのひとつにして損はないと思う。
損得というよりも、この4つのアクションが個別にちゃんと練習できて、どのパターンでもいつでも組み合わせができるとバイクはもっと自由に楽しく安全に走れるようになるということ。
では、最後にもう一回チェック。
入門と基礎は似て非なるもの。どんなハイレベルになっても3秒かけて鼻で息を吸う。7秒かけて口でゆっくり息を吐き切る。
つまり呼吸管理。そして脱力管理と連動。これは基礎としてずっと重要なライディングの原理原則。
両肩をグッと大きく上げながら鼻で息を吸いながらハンドルグリップをギューッと握って、肩、ヒジ、手をガチガチにする。そこからゆっくり7秒かけて息を吐きながら肩、ヒジ、手をユルユルにする。脱力連動の柏秀樹流「10秒マインドフルネス」だ。
次に4フォーム。飛ばすことよりも前にちゃんと4つのフォーム、リーンウイズ、リーンイン、リーンアウト、ハングオフが自由に大きく動けてしかも10秒マインドフルネスができるかを確認。
そして4つのフォームがちゃんとできるようになったら、4つのアクションで曲がる段階入る。
体重移動、ステップ荷重、タンク荷重、逆操舵。どの曲がり方が正しいとか間違いではなく、5分か5kmに1回の呼吸脱力管理ベースに4フォームと4アクションが、いつでもどこでもちゃんとできるか。
むやみに飛ばすよりも、冷静に自分への問いかけを忘れず、バイクと以上のやり方で会話すれば、走った分だけライディングは必ず進化する。
飛ばして速くなるより、飛ばさずに早く上手くなってほしい。本当の速さとはそういうものだ。
より安全で、より疲れずに乗れたら、バイクはもっと楽しくなるよ。
「4つのアクション」を活用したライディングを写真とともに解説
カワサキ Ninja H2 SX SEでタンデムした場合
カワサキのNinja H2 SX SEでタンデムの場合は、高剛性な車体ゆえに低速走行時に重量感が強い。
なのでここでの走りは、Dの逆操舵でラインを選択。Bのイン側ステップへの荷重やCのタンク荷重はその補佐として使う。
逆操舵メインで車体が早めに大きくバンクしようとした頭をイン側にいれても上体がセンターに残り、写真としてはリーンウイズフォームに写るわけだ。
ドゥカティのスーパースポーツモデルの場合
ハイペースの高荷重コーナリングでこそ曲がる楽しさが味わえるVツインのドゥカティ。
ためらいなくコーナー手前で一気に大きく頭をイン側の前方向に出す。つまりA:斜め前方向。
単気筒バイク並みにクランク幅の狭いドカティはそれだけで素早く反応して曲がってくれる。中途半端だとかえってメリハリが出にくい一面がある。頭を大きく一気にインへ。思い切りが大事。ハンドルはこじらない乗り方を優先。
ヤマハ セローの場合
セローのように軽量級のバイクは、どんな入力も簡単に反応。動きがわかりやすい。イン側ステップでも上体をインに入れるのもCのようにタンクを外から押し付けるのも、すぐにレスポンス。
逆操舵をするならさらに手には力を入れないで穏やかに押し出すとちょうどいい。
軽量級バイクこそ脱力確認絶好のターゲット。呼吸と連動して脱力することを習慣化しよう。
トライアンフ タイガー1200でのタンデムの場合
電子制御サスによってソロと同じ車両姿勢が取れるため、運転操作は実にナチュラル。タンク荷重Cはほとんど効かず、Bのステップ荷重でやや反応。
Aは頭がやや外側にあるリーンアウトの状態。カーブの先の見通し確保が主体のため。Aの頭をイン側に入れる体重移動ではとても自然な舵角のつき方を示す。
逆操舵でのレスンポンスは過剰ではないし、しっかりとした車体剛性も実感できる。
BMW R1250GSアドベンチャーでのタンデムの場合
このバイクは縦置きクランクによるロール方向のレスポンスが非常に良い。しかもフラットツインによる低重心もその魅力を後押ししている。
なのでイン側ステップへの荷重で簡単に曲がり始める。
このクラスの重いバイクでは反応がほとんどないCのタンク荷重でも、手の力を抜いてやればしっかりレスポンスする。
この状態で「う」の外足荷重で車体を起こしてラインを外に持っていくのも容易。「え」の方向へステップを抜重すると自動的にイン側ステップへの荷重が移動できる。これもGSはわかりやすい。
フラットツインによるヘッド周りの軽快性が、このバイクの扱いやすさの決め手となっている。
「あ」は左コーナー旋回中に障害物を見つけ、センターライン側にラインを一気に変えたい場合に使う「加操舵」を試す方法。
右手を前に押すとハンドルは左に切れる。すると車体が一気に起き上がって右へ行くというテクニック。
ハンドルを切り足して車体を起こす方法は、このバイクに限らずすべてのバイクで実感していただきたい。まずは穏やかな入力から確認したい。
完全停止直前(時速2km/h以下)に行うステアバランスによる右足着き、左足着き選択とコーナリング中の逆操舵はまさに原理は同じ、ということ。
どれが正しいか、ではなくどのようにでも使い分けたり、複合させて安全快適で楽しければいい。
自在に使えると楽しいし、安全でしかも楽チンな4アクションを習得してほしい。
文:柏 秀樹
柏 秀樹 プロフィール
大学院生(商学研究課博士課程)の時代に、作家片岡義男氏とバイクサウンドを収録した「W1ツーリング~風を切り裂きバイクは走る~」を共同製作。大学院修了後にフリーのジャーナリストとして独立。以降、ダカールラリーを始めとする世界中のラリーを楽しみながら、バイク専門誌の執筆活動や全国各地でトークショー出演などを行っている。
バイク遍歴60台以上、総走行距離100万キロ以上、そして日本中の主要ワインディングロード、林道のほか世界の道を走ってきた経験をもとに2003年に始めたライディング・アート・スクールをリニューアルして2009年から新たにKRSこと柏 秀樹ライディング・スクールを開校。バイクやクルマの安全と楽しさを一人でも多くの人に熱く伝えることを生き甲斐にしている。
柏秀樹持論
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