支持熱の行方
国際エネルギー機関(IEA)が2025年5月14日に公表した「グローバルEVアウトルック2025」によれば、2024年の世界における電気自動車(EV)の新車販売台数は1750万台となった。前年比で25%以上の増加である。全新車販売に占めるEVの比率も、前年の18%から22%へと拡大した。
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EVシフトは世界的に緩やかに進行している。そのなかで、自動車に対する価値観も静かに変化している。従来の「クルマ好き」が重視してきたのは、運転の楽しさやデザインといった嗜好性だった。一方で、EVを選ぶ層は、
・環境負荷の低さ
・エネルギー効率
といった要素を重視する傾向が強い。購入動機の軸が異なる両者は、価値観の転換を象徴しているといえる。
本稿では、EV支持層の嗜好や購買動機を掘り下げる。そのうえで、EV時代におけるクルマ好きの意味を再考する。
EVを選ぶ理由の内訳
日本では、新車販売に占めるEVの比率は2%程度にとどまる。現時点では、EV購入層は少数派である。ただし、その消費行動には変化の兆しが見え始めている。
従来、自動車の購入動機は多岐にわたっていた。
・内外装のデザイン
・走行性能
・安全性
・価格
・ブランド価値
など、複数の要素を総合的に判断して選ばれてきた。
一方、EVを選ぶ理由には独自の特徴がある。静粛性や低振動、高トルクによるスムーズな加速といった走行性能は、内燃機関車と比較しても優位に立つ。また、税制優遇や購入補助金といったインセンティブ、充電コストの安さも動機として加わる。環境意識の高い層にとっては、環境規制への適応という視点からEVを選ぶこともある。
米国ではカリフォルニア州がゼロエミッション車(ZEV)規制を導入している。2035年にはガソリン車の新車販売を禁止する方針だ。すでに全米で10州以上が同様の規制に踏み切っており、今後はEVの選択が求められる局面が増えていく。
そうした状況での購入動機は、嗜好性ではなく合理性や環境配慮が軸となる。EVは「楽しむ対象」から
「使うための道具」
へと変化していく。従来のクルマ好きの価値観とは異なる視点が、いま広がりつつある。
動力への執着の変化
かつてのクルマ好きは、エンジン車に強いこだわりを持っていた。アクセル操作に忠実な車両の反応やエンジン音に魅了され、マニュアルトランスミッション(MT)を操ることに情熱を注いでいた。
しかし、EVではエンジン音が消え、MTも過去の技術となった。クルマ好きが価値を見いだしてきた要素は排除され、ドライバーの感覚に訴える部分が設計から切り落とされていく。
近年では、統一プラットフォームを用いたEVの量産が進み、走行性能や操作感における個性は希薄になりがちだ。残る差異は主にデザイン面に限られる。
こうした流れのなかで、
「技術に感情移入する」
という従来のクルマ文化は、EVによって次第に存在感を失っていく可能性がある。
加速する旧車趣味の高齢化
現在のEV市場は、テスラ、比亜迪(BYD)、ヒョンデといった企業が主導している。EVが選ばれる基準も変化している。車両性能だけでなく、OTA(無線通信アップデート)によるソフトウェア更新の利便性や、自動運転支援機能といった体験重視の技術が評価されている。
これは、従来の「走る・曲がる・止まる」といった走行性能に価値を置く嗜好とは明らかに異なる。EVをスマートフォンのような存在と捉え、愛着ではなくアップデート性や利便性に価値を見出す層が現れている。中国をはじめとする一部の市場では、こうしたEV支持層が拡大傾向にある。
もはやEVは所有欲を満たす対象ではない。重視されるのは話題性や技術の目新しさへと移行しつつある。クルマを取り巻く価値観は、大きく転換している。
一方で、クルマを趣味とする嗜好は今も残っている。旧車、マニュアル車、V8エンジン車などへの支持は根強い。ただし、EVシフトの流れのなかでは、こうした嗜好は逆風にある。
環境規制の強化により、旧車の維持費や税負担は年々増している。部品供給も不安定化しつつあり、所有環境は厳しさを増している。経済的にも社会的にも肩身の狭い状況に置かれているのが実情だ。
若年層のクルマ離れが進むなかで、旧車の購入層は高齢化している。趣味性の高いクルマ文化は、社会構造の変化に十分に適応できていない。このままでは、愛好層の縮小とともに、ガラパゴス化していく可能性も否定できない。
評価軸の二重構造
EV支持層は「環境にやさしい」「未来を先取りしている」といった観念を、消費の正当性と結びつけようとする傾向がある。
しかし、その選好の出発点を遡れば、そこにあるのは効率や倫理ではなく、むしろどのように生きるべきかという内面の欲望に根ざした、きわめて情緒的な衝動である。これは、エンジン音やハンドリングに没入した往年のクルマ趣味と本質的に異ならない。違いがあるとすれば、それは愛しているとされることの形式が変容したにすぎないのではないか。
例えば、EVを選ぶ人々のなかには、温室効果ガスの削減や脱炭素社会への適合を理由として語る者もいるが、そこにはしばしば
・最先端を選んでいる自分
・意識の高い消費者である自分
といった、自己像の演出が透けて見える。購入行動が未来志向であるかのように装いながら、その実態は
「自己肯定感の再生産」
に回収されているケースも多い。車両のスペックや環境性能は、そうした自己演出のための舞台装置にすぎないのかもしれない。
この構造は、消費行動における意味の構築過程を示している。すなわち、人は商品を使うために買うのではなく、あるべき自分を表現するために選ぶという点で、旧来のステータス消費と地続きである。かつてのスポーツカー愛好者が、ブランドや排気音に自己投影していたのと同様、今のEVユーザーもまた、充電速度や走行距離の数値を通じて
「自己物語の更新」
を行っているだけなのだ。このようにして生まれるEV消費の文法は、表向きは社会的意識に見えても、実態は私的欲望の合理化にほかならない。問題なのは、それが本来の嗜好から立ち上がった選択なのか、それとも「そう選ぶべきだ」という空気に駆動された選択なのかという点である。
社会規範に適合することが、知らず知らずのうちに欲望の輪郭そのものを書き換えているのだとすれば、それは欲望の源泉そのものが外部から再構成されている現象とみなすべきだろう。
政策依存のEV拡大構造
米調査会社コックス・オートモーティブによると、2025年第1四半期(1~3月)の米国EV販売は前年比11.4%増の約30万台だった。一方、前四半期(2024年10~12月)からは19%減少した。テスラの販売減が市場全体の成長を鈍らせている。
EV市場は外部要因に強く依存し、EV単独での成長は困難である。各国の政策や税制、購入補助金、充電インフラ整備などが市場拡大の土台となっている。
一方で、自動車メーカーはEVへの投資と生産ライン再構築を進めている。ここに市場投入とのタイムラグというリスクが存在する。
EVの投入が先行すると、消費者は限られた選択肢を迫られることになる。需要は必ずしも嗜好に基づかず、「選ばされた選択」が市場全体を形作る事態が進んでいる。多様化する市場のなかで、クルマ好きという単一のカテゴリーが失われる可能性も否めない。
クルマ好き定義の変革
EV支持者がクルマ好きかどうか――は、定義次第で変わる。
従来の定義では、エンジン車への運転や構造への愛着を指す。しかし、新たに「消費プロセスへの共感」を基盤とする嗜好層が現れている。
過去のクルマ文化は排除されるべき対象ではない。新たな嗜好との共存の可能性を模索する必要がある。
何をもってクルマ好きとするか――その答えは意味の見出し方にかかっている。好きか、正しいかにとどまらず、選択基準の変化が問われ始めているのだ。(鳥谷定(自動車ジャーナリスト))
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みんなのコメント
速さ、快適さ、燃費、どれをとってもゴミカスみたいなもんだけど、旧車の味を楽しんでる人たちからすると
どうでもいいからね
毎度のデータやスペック盛りと同じ。