業界の闇が出たビッグモーター事件
自動車ユーザーのおよそ8割が任意の自動車保険に加入している。これは、自動車損害賠償保障法により、すべての車の所有者に加入が義務付けられている自賠責保険に加えて、さらに多くの人が任意保険にも入っているということだ。つまり、ほとんどのユーザーが保険料を二重に負担している構図になる。
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この保険制度への信頼を揺るがす事件が、近年起きた。中古車販売大手の株式会社ビッグモーター(以下、ビッグモーター)において、修理車両に意図的な損傷を加え、修理範囲を広げる。あるいは、不要な板金や部品交換を行う。こうした不適切な手法で、保険金を水増し請求していた事実が明るみに出た。
この事件を機に、長年業界内で公然の秘密とされてきた不正が次々と噴き出した。まるでパンドラの箱が開いたかのようだった。
「修理と保険」の利益相反構造
なぜこんなことが起きたのか。その背景には、ビッグモーターが修理業者であると同時に、
「損害保険の代理店」
でもあったという構造がある。自動車ディーラーや整備工場も同様で、多くは保険会社と代理店契約を結んでいる。なかには損保会社から出向してきた社員が常駐しているケースもある。つまり、修理と保険という利害が相反する業務を、同じ組織が担っている状態だ。
ビッグモーターは、ノルマに追われるなかで、修理費用をかさ増しするために車に傷をつけた。保険金請求の対象を増やすためだ。実際、整備売上に厳しいノルマが課されており、目標を達成するために故意に顧客の車を損傷させる行為が横行していた。しかも、これらの手口は、損保会社から出向してきた人物も関与していたことが判明している。
このように、整備業者が保険販売も兼ねる構造では、過剰な整備がチェックされにくくなる。保険の販売実績やシェアを優先するあまり、抑制機能が働かない。結果として顧客にとっての利益相反が生じている。
当然ながら、こうした過剰整備によって保険料が上がると、負担するのは利用者側だ。ビッグモーターの事件は、整備業者と保険会社が手を組み、ユーザーを食い物にしていたことを示している。もちろん、ビッグモーターのように悪質な事例はまれだ。しかし、業界内では多少多めに修理する程度の行為が常態化しているとの指摘もある。
ビッグモーターと関係が深かったとされる損保会社では、社長を含む役員が交代する処分が下された。しかし、その後もグループ子会社の社長に就任するなど、処分の甘さが問題視されている。
金融庁の監督指針とその問題点
こうした事態を受けて、金融庁は保険会社による代理店への過度な便宜供与を防ぐため、監督指針の改正案を公表した。過度な便宜供与が疑われる場合、代理店を検査できると明記し、重大な問題が確認されれば行政処分を科す方針を示した。不正の再発を防ぐため、代理店への指導を厳格化する狙いがある。
一方で、この改正指針には疑問の声もある。ビッグモーターのような一部の悪質事例に引きずられ、
「代理店側に過度な規制を課しているのではないか」
という懸念だ。そもそもビッグモーター事件も、保険会社の側にノウハウや関与がなければ成立しなかったはずだ。それにもかかわらず、規制の矛先はもっぱら代理店に向けられている。
例えば、保険会社が自社商品を優先的に推奨させようとする便宜供与を禁止するとされている。その結果として、代理店は自動車ユーザーに対して複数の保険商品を並べてすべて説明しなければならなくなるという見方もある。
この比較推奨販売の適正化は、選択肢を示すことでユーザーの適切な保険選びを支援するという建前だ。しかし実際には、大手損保の商品内容に大きな違いはない。だからこそ「どの会社でもいいからお任せする」というユーザーも多く、細かな説明は理解されにくいのが実情だ。
商品力に差がない状況下で収益拡大を求められれば、コンプライアンスより営業成績を重視する企業文化が生まれるのは自然な流れだろう。損保各社の商品は実質的に差がなく、カルテルに近い状態にも見える。それを放置したまま、説明責任だけを代理店に押しつけるのは筋違いだ。
保険商品が横並びである限り、損保会社は営業協力や社員の出向といった手段で攻勢をかけるしかない。その結果、現場が腐敗し、疲弊していく。
不満を封じる価格交渉構造
先ほど、整備事業者が少し多めに修理することが業界の慣例になっていると書いた。こうした背景には、自動車保険で適用される工賃単価が、実態と乖離するほど安く設定されているという事情がある。
損保会社が整備事業者に支払う工賃は、30年ほど前の整備料金を基に、消費者物価指数(一般の消費者が購入するモノやサービスの価格変動を示す指数)をかけて算出されるといわれている。そのため、損保会社は工賃を引き下げる強い影響力を持っている。整備事業者は経営を成り立たせるために、修理をやや多めに見積もり、取り分を確保しようとするのではないか。修理業者の側からすれば、
「不正請求を前提にしなければ割に合わない」
というのが現状である。こうした事態を受けて、国土交通省は2025年3月、「車体整備事業者による適切な価格交渉を促進するための指針」を出した。事業者が損保会社などに対して、透明性と公平性を前提に労務費などの価格交渉を行えるよう、工賃単価を算出して交渉することを促している。
しかし、金融庁の調査によると、車体整備事業者の約8割が損保会社に対して苦情を申し出たことがないと回答している。その理由として、
「苦情を申し出たところで変わらない」
「時間の無駄である」
「損保会社の交渉姿勢が一方的である」
といった意見が多かったという。このように、
・大手なら商品内容に差がないのにその説明を代理店に丸投げする
・工賃単価を過度に抑制し保険支払額を減らそうとしてくる
といった実態がある。それにもかかわらず、損保会社側には事実上おとがめなしという構図が続いている。国土交通省も工賃単価をちゃんと算出して交渉しましょうというだけで、損保会社への指導には及び腰だ。
その一方で、大手損保3グループが発表した2025年3月期の連結決算では、各社とも純利益が2年連続で過去最高を更新した。損保会社だけが、“ひとり勝ち”のような状況になっている。
国が損保会社に甘いワケ
なぜ国は、ここまで損保会社に甘いのか――。
本件に関するメディア報道も、損保業界に同情的な論調が多い。多くは、代理店に営業協力と称して過度な奉仕を求められる業界、という描き方だ。そこには、損保業界の政治力がにじんでいる。背景には、損保会社が
「官僚の天下り先」
であるという実態がある。そのため、行政側も強く出られないのではないか――そう邪推したくなる。
保険業界は、天下りの多い業界として知られている。2017年に『週刊現代』が報じた「実名リスト・霞が関全省庁キャリア官僚108人「天下り先と退職金」」でも、保険業界は天下りが集中する業界として名指しされていた。実際、
・金融庁
・財務省
・国土交通省
からも、保険会社に天下っている例がある。ある損保会社の幹部は、記事内で次のように証言している。
「保険会社が役人の天下りを積極的に受け入れる理由は二つあります。ひとつは役所の情報を集めるためです。保険は認可商品ですから、監督官庁の認可が下りやすくするには何が必要なのかを情報収集することは極めて重要なのです。二番目は何かあったときに手心を加えてもらおうという下心。保険は営業の仕方まで保険業法で細かく規定されていますが、ぎりぎりのグレーな部分はあります。そうした場合、行政処分を受けるか、指導だけで終わるかは、監督官庁の担当者の気持ち次第の部分も多い。そうしたとき、担当者の先輩を顧問として受け入れている会社には処分が甘くなることが考えられる。天下りの顧問を通じて、役所側が落とし所をどう考えているのかがわかるだけで大きなメリットです」
今回のビッグモーター事件でも、まさにこの“手心”が発動されたのではないか。損保会社は天下りの恩恵を受けて、行政からの追及を逃れたのではないかと思わざるを得ない。
時代遅れの自動車保険制度
本件とは別に、財務省にはもうひとつ問題がある。それは、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の積立金7500億円のうち、約6000億円(正確には5952億円)を
「借りパク」
しているという事実だ。そもそも自賠責保険は、その役割をほぼ終えている。ならば、その6000億円を使って、任意保険レベルの補償に制度を一本化すればいいだけの話ではないか。そうすれば、自動車ユーザーの二重払いも解消される。本来、歓迎される改革のはずだ。
考えてみれば、安心して運転するために、あれこれと保険を重ねがけしなければならない乗り物は自動車だけだ。国民の移動を支えるはずの自動車が、こんな不可解な制度のもとにあること自体、おかしい。しかも、自動運転技術はすでに進化している。クルマは、事故を起こしにくい乗り物へと変わりつつある。それにもかかわらず、保険制度だけは時代に取り残されたままだ。表面的な制度見直しばかりが続き、実質的な改革には踏み込まない。代理店やユーザーへの負担ばかりが増えている。
ちなみに、自動運転の技術自体はほぼ完成している。人間が運転せずとも、車が走るだけの能力は実験レベルではすでに実現している。だが、事故が起きたときに誰が責任を負うのか――この問題が解決できていない。そのため、現実には衝突被害軽減ブレーキ程度の機能しか普及していない。もしかすると、
「自動運転が実用化されると困る勢力」
がいるのではないか。たとえば、損保会社や官僚たちだ。そんな疑念すら湧いてくる。これは、下種の勘繰りに過ぎないだろうか。自動車保険制度の抜本的な改革によって困るのは誰か。それは、
・自賠責の積立金を借りパクしたい財務省
・保険会社に天下りたい官僚
・ユーザーに何もせず保険加入させたい損保会社
この三者にほかならない。
2025年5月末現在、保険業法の一部を改正する法案が国会で審議されている。だが、その内容は代理店にばかり負担を押し付け、損保会社には何のおとがめもない。この構図が覆る見込みは薄い。自動車関連のコストが高いことは、都市部で自家用車が選ばれにくい理由のひとつになっている。それでもなお、ユーザーに高い保険料を負担させる仕組みは、変わりそうにない。
ビッグモーター事件があぶり出した「業界の闇」とは、損保会社が持つ強大な政治力そのものだったのかもしれない。
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