現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 「ロビー・ミューラー」──連載:北村道子のジェントルマンを探して

ここから本文です

「ロビー・ミューラー」──連載:北村道子のジェントルマンを探して

掲載
「ロビー・ミューラー」──連載:北村道子のジェントルマンを探して

数々の映画衣裳をはじめ、さまざまなメディアで衣裳デザインとスタイリングを手がけてきた北村道子による「現代のジェントルマン像」を探る連載。第14回は、撮影監督のロビー・ミューラーについて語る。

今回、ヴィム・ヴェンダース、ジム・ジャームッシュ、ラース・フォン・トリアー作品の撮影監督として知られるロビー・ミューラーについて話せるのが嬉しいのは、私は彼を「心の師匠」と呼んでいるからなんです。最初の衝撃を受けて彼の手がけた作品を追いかけるきっかけになったのは、ラース・フォン・トリアー監督作『奇跡の海』(96)です。全編手持ちカメラで撮られた映像で、どこで切っているのかわからなかった。そして、かつて手がけたヴェンダースの初期三部作『都会のアリス』(74)、『まわり道』(75)、『さすらい』(76)などを振り返って観ていくと、映像の質が全然違っていると気づくんだよね。『パリ、テキサス』(84)の赤に見えるピンクのセーターや、『アメリカの友人』(77)の燃える車を眺める横に停めた赤い車。推測だけれど、彼は、そういう自然光に映える色をリクエストする、もしくはきちんとあるままで捉えるんじゃないかな。

Mrs. GREEN APPLE──10年目の現在地

ミューラーの出身は、旧オランダ領のキュラソー島なんだけれど、12歳の頃にアムステルダムに移住し、何もないところで1台のカメラを買って、虜になったんですよ。なぜこの人からこういうものが出てくるのかを知りたくなると、私、その人が生まれ育った土地を見に行くタイプなので、会いたくなって、実際に行ってるんです。それで、コンタクトを取ろうとしたけれど、その頃彼は血管性認知症を患っていて、『コーヒー&シガレッツ』(03)を最後に闘病に入っていたんです。なんとか探し当てて家を訪ねたんだけど、本人には会えませんでした。

彼の撮影方法にはルールがある。まず、基本的に自然光。そして、カメラは手持ちが多い。撮り始めたら止めずに長回しをする。それに従えない場合はやらない。それが自分の映画のやり方だ! という感じでね。おそらく、カメラ自体もおもちゃみたいな感覚から始まって、自分と一体化して、監督以上にストーリーを理解している気がする。そういう彼に寄り添う監督たちも、非常にクリエイティブだということです。ミューラーの仕事を愛していたジャームッシュは、彼に会いたいんだけど、どこに行けば会えるかとヴェンダースに訊ね、そこから一緒に撮影をすることになったくらいだから。

撮影風景を見たことはないんだけれど、映画を観ていると本当に独特なんです。基本は自然光を好むんだけれど、暗いシーンでも落ちている影は一つだから、照明を全く使ってないかのように光をつくっている。だからこの人の作品って、ある種モノクロームに見えてくるのよ。そして、カメラ自体が球体であるかのような映像に見える。人工的な直線ではなく、太陽とか月の弧に歩調を合わせていくみたいにね。俳優たちもあまりに自然にフレームの中に居るから、コントロールされていないように感じさせる。ミューラーが撮影監督をするならばと出演を決めた俳優も多かったんじゃないかな。でも、だから、究極的に、芸術って神とか自然とのコンタクトに近いんじゃないかと私は思っていて。私も、そこにない晴れを待つのではなく、偶然現れた雨を恵みとしてもらいましょう、と撮影に挑むタイプなんです。その考え方は、完全にミューラーの影響ですね。回転する地球の分子であると自分を捉えて、そこで一体何ができるのかを考える。そのジェントルマンな視点が、彼にはあるんですよね。

OBBY MÜLLER(1940-2018)旧オランダ領キュラソー島生まれ。1962年から3年間オランダ映画学院で学び、卒業後は短編映画の撮影監督として活動。ヴィム・ヴェンダースの卒業制作長編『都市の夏』(70)以降、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(99)まで多くのヴェンダース作品でタッグを組む。ほか、ジム・ジャームッシュ監督作『ダウン・バイ・ロー』(86)、『ミステリー・トレイン』(89)、サリー・ポッター監督作『タンゴ・レッスン』(97)などの撮影監督を務める。2018年、78歳で逝去。

MICHIKO KITAMURA1949年石川県生まれ。30歳頃から、映画、広告、雑誌などで衣裳を務める。『それから』(85)以降、数々の映画作品に携わる。著書に、人気シリーズ『衣裳術』第3弾(リトルモア)などがある。

©山形国際ドキュメンタリー映画祭(ロビー・ミューラー)、© ZENTROPA ENTERTAINMENTS4, TRUST FILM SVENSKA, LIBERATOR PRODUCTIONS, PAIN UNLIMITED, FRANCE 3 CINÉMA & ARTE FRANCE CINÉMA (Dancer in the Dark)、フランス映画社

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油7円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

女はなぜ、“男の指”に釘付けになるのか──齋藤薫のジェントルビューティー考
女はなぜ、“男の指”に釘付けになるのか──齋藤薫のジェントルビューティー考
GQ JAPAN
瀬戸内の風景に美しく溶け込む下瀬美術館での展覧会、『周辺・開発・状況』をレポート
瀬戸内の風景に美しく溶け込む下瀬美術館での展覧会、『周辺・開発・状況』をレポート
GQ JAPAN
六本木エリア「SHUGOARTS」── 1stコレクションを手にするための東京ギャラリーガイド
六本木エリア「SHUGOARTS」── 1stコレクションを手にするための東京ギャラリーガイド
GQ JAPAN
サンローランがシャルロット・ペリアンの名作家具を再現──2025年、ミラノデザインウィークでおさえておくべきトピックス
サンローランがシャルロット・ペリアンの名作家具を再現──2025年、ミラノデザインウィークでおさえておくべきトピックス
GQ JAPAN
ヘンリー・ゴールディング、メットガラ2025で着けたカルティエ「タンク ア ギシェ」を語る
ヘンリー・ゴールディング、メットガラ2025で着けたカルティエ「タンク ア ギシェ」を語る
GQ JAPAN
これぞダンディ! メットガラ2025のメンズ・ベストドレッサー12名をランキング形式で紹介
これぞダンディ! メットガラ2025のメンズ・ベストドレッサー12名をランキング形式で紹介
GQ JAPAN
高橋龍太郎さんに聞く、アートの買い方、飾り方
高橋龍太郎さんに聞く、アートの買い方、飾り方
GQ JAPAN
藤倉麻子がデジタルと色で鮮やかにあぶり出す都市や郊外の断片──GQ クリエイティビティ・アワード2025
藤倉麻子がデジタルと色で鮮やかにあぶり出す都市や郊外の断片──GQ クリエイティビティ・アワード2025
GQ JAPAN
藤田嗣治のエキゾチシズムが込められた《シーソー》──今月のアートを深掘り
藤田嗣治のエキゾチシズムが込められた《シーソー》──今月のアートを深掘り
GQ JAPAN
日本屈指のアートコレクターである高橋龍太郎に学ぶコレクター道
日本屈指のアートコレクターである高橋龍太郎に学ぶコレクター道
GQ JAPAN
GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAE、漫画や日本画が織り重なりモノクロの物語を紡ぐ現代美術家──クリエイティブ・アワード 2025
GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAE、漫画や日本画が織り重なりモノクロの物語を紡ぐ現代美術家──クリエイティブ・アワード 2025
GQ JAPAN
是枝裕和「iPhoneだけで劇場公開作品を撮るという時代は、もうすぐそこまできている」──短編映画『ラストシーン』公開
是枝裕和「iPhoneだけで劇場公開作品を撮るという時代は、もうすぐそこまできている」──短編映画『ラストシーン』公開
GQ JAPAN
ロロ・ピアーナによる芸術的で映画のようなインスタレーション──2025年、ミラノデザインウィークでおさえておくべきトピックス
ロロ・ピアーナによる芸術的で映画のようなインスタレーション──2025年、ミラノデザインウィークでおさえておくべきトピックス
GQ JAPAN
六本木エリア「TARO NASU」── 1stコレクションを手にするための東京ギャラリーガイド
六本木エリア「TARO NASU」── 1stコレクションを手にするための東京ギャラリーガイド
GQ JAPAN
ジョージ・ルーカス、メットガラ2025で履いていたのはナイキの60ドルのスニーカー
ジョージ・ルーカス、メットガラ2025で履いていたのはナイキの60ドルのスニーカー
GQ JAPAN
空前のニルヴァーナTシャツ旋風を紐解く──ベルベルジン・ディレクター、藤原裕「ヴィンテージ百景」
空前のニルヴァーナTシャツ旋風を紐解く──ベルベルジン・ディレクター、藤原裕「ヴィンテージ百景」
GQ JAPAN
ジョージ・クルーニー、アディダスの静かな名作スニーカー「ロッド・レーバー」で大人なスタイルを披露
ジョージ・クルーニー、アディダスの静かな名作スニーカー「ロッド・レーバー」で大人なスタイルを披露
GQ JAPAN
藤原ヒロシの今月気になったもの、買ったもの「sacai×NIKE Zegamadome」──連載:HIROSHI FUJIWARA WHAT I WANT
藤原ヒロシの今月気になったもの、買ったもの「sacai×NIKE Zegamadome」──連載:HIROSHI FUJIWARA WHAT I WANT
GQ JAPAN

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村