もう10年以上前の話になるだろうか。かつてマツダの新車を買うと、大幅値引きで買ったのはいいが、いざ下取りに出す時になると、他社のディーラーでは買い叩かれるため、結局は高く買ってくれて大幅値引きをしてくれるマツダディーラーに戻ることになり、再びマツダの新車を買うという「マツダ地獄」と呼ばれていたことがあった。
ボーナスセールや年度末の決算セールには300万円のクルマで40万円以上の値引き……なんていうケースも多発していた。
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しかし、最近では大幅な値引きはしなくなった、という話を耳にする。本当にマツダ地獄はなくなったのだろうか?
中古車事情に詳しいモータージャーナリストの萩原文博氏が、最新モデルであるスカイアクティブX搭載車を中心に中古車相場を調べ解明していこう。
文/萩原文博
写真/ベストカー編集部 ベストカーweb編集部 マツダ
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新車の大幅値引き販売をしなくなった
従来のマツダディーラーのイメージはまったくない。ブラックで統一され、まるでカフェやホテルをイメージさせるマツダの新世代店舗
かつて一度は聞いたことのある「マツダ地獄」という言葉。これはマツダの新車を購入すると、他社のクルマに乗り換えようとすると下取り価格が安く、マツダ車に乗り続けることになるという負のスパイラルのことだ。
下取り(買取)価格が安くなる理由として挙げられるのは、人気車ではないこと、そして新車購入時に大幅な値引きを行い販売していることだ。
当時のマツダは特に後者の影響が大きく、新車を安く手に入れているにも関わらずユーザーはライバル車より下取りが安いと言っていたのである。
当然ながら新車を値引きして販売すれば、クルマの価値を示す残価率は下がるので下取り価格は安くなるのは当たり前のことで、それを理解して購入すべきだったのだ。
そんなマツダ地獄にピリオドを打ったのが、マツダ独自の新技術群である「スカイアクティブ・テクノロジー」をフル搭載し、2012年2月に登場したCX-5だ。
それほどスカイアクティブ・テクノロジーは優れたモノだったのだ。値引きしなくても新車販売が好調、しかもSUVの人気車となり、下取り価格も高くなるということでいったんマツダ地獄はなくなった。
そして新世代店舗と銘打ち、販売店のCI(ブラックの外観)を変更するとともに、新車の大幅値引き販売をやめた。
新世代店舗とは、マツダのデザイン本部が監修し、「マツダらしさ 心がときめく」店舗デザイン、「マツダのクルマの魅力が引き立つ」新車ショールーム、「絆が強まる」店舗ゾーニングという3つの価値と、「品格あるたたずまい」、「惹きつける力」、「クルマを美しく魅せる」、「居心地のよいしつらえ」という4つのデザインコンセプトを規定したガイドに基づいた店舗だ。
しかし、新たなマツダ地獄が発生した。それは頻繁に一部改良を実施したことが原因。最新技術をどんどんと導入し、クルマをアップデートするのは企業として真摯な姿勢と高く評価したい。
しかし、1年のうちで2回も安全装備やパワートレインがアップデートすることもあり、これではユーザーがいつ買って良いのか判断できないうえに、中古車相場を自ら押し下げることになる。
これを以前、私は2019年1月に本サイトで「新マツダ地獄」と書いた。その後新世代商品群の幕開けを告げたマツダ3を皮切りに、CX-30が登場。さらにスカイアクティブXという斬新なパワートレインが導入された。
ちょうど新世代商品群やスカイアクティブXが導入され1年が経過した現在、こういったクルマの中古車相場はどうなっているのだろうか。またマツダ地獄が発生しているのかどうかを検証してみた。
2019年1月公開した記事「マツダ地獄はまだ残っているのか徹底調査! 衝撃の事実発覚!?」
マツダ3ファストバック:流通する中古車のうち2台に1台がスカイアクティブX搭載車
世界初のSPCCI(火花点火制御圧縮着火)方式を採用したスカイアクティブXを搭載したマツダ3は2019年12月5日に発売。価格はスカイアクティブXを搭載したグレードは319万8148~368万8463円。同グレードの2Lガソリンの20Sに比べ68万2407円高
マツダ3の中古車情報はこちら!
まずは、2019年5月に発売されたマツダ3から。マツダの新世代商品として走行性能や乗り心地を向上させた新世代車両構造技術「スカイアクティブ・ビークル・アーキテクチャー」を搭載。
さらに2019年12月には火花点火制御圧縮着火「SPCCI」を実現した2Lガソリンエンジン、「スカイアクティブX 2.0」搭載モデルを発売した。
まずはファストバックと呼ばれる5ドア車だ。マツダ3ファストバックの中古車の流通台数は3カ月前の2020年8月の時点では、約215台だったが、現在では約290台まで増えている。そして流通している中古車の平均走行距離はこの3ヵ月の間約2000kmのままだ。
気になる平均価格の推移だが、3ヵ月前の時点は約289万円。その後一時約298万円まで上昇したものの、再び値落ちに転じ、現在は約292万円でわずかな値上がり傾向という状況だ。
この平均価格の動きを1年という長いスパンで見ると驚きの結果となった。2019年11月の時点のマツダ3ファストバックの中古車の平均価格は約260万円。その後需要期の3月に約265万円まで値上がりしたものの、260万円付近をキープしていた。
しかし2020年6月になると一気に平均価格は約290万円まで上昇し、現在も高値をキープしているのだ。このような値動きを示すことは珍しいが、注視してみると、ある事実が見えてきた。
新車価格の高いスカイアクティブX搭載車を販売開始したのが、2019年12月5日。ちょうどその半年後に大幅な値上がりを示している。
まさにこの値上がりは展示車や試乗車のスカイアクティブX搭載車が中古車試乗に大量に流入したことがおよぼした値上がりだったのだ。
なぜそう断言できるのかというと、現在、マツダ3ファストバックの中古車の価格帯は約169万~約369万円と最高値と最安値で200万円も開きがある。
そして流通している中古車のグレード構成を見てみると、最も多いのが、約73台でスカイアクティブXを搭載したXプロアクティブツーリングセレクションなのだ。
続いてXバーガンディセレクションが約44台で続き、第3位もX Lパッケージの約31台とベスト3を独占。
スカイアクティブX搭載車以外では第4位の15Sツーリングの約28台が最高なのだ。実にマツダ3ファストバックの中古車のうち約55.3%、つまり2台に1台がスカイアクティブX搭載車となっているからだ。
最新の平均価格で新車価格からの値落ち率を見てみると、エントリーグレードの15Sツーリングは約8.4%となっているのに対して、流通台数が最も多いXプロアクティブツーリングセレクションは約12%と大きくなっている。
加えて価格帯では約270万~約337万円となっており、走行距離172km、2019年式のモデルが最大19%ダウンとなっている。
まさに現在マツダ3ファストバックではスカイアクティブX搭載車が狙い目といえる状況だ。
マツダ3セダン:スカイアクティブX搭載車は全体の約25%
マツダ3セダンのスカイアクティブX搭載車の比率は約24.6%とファストバックの半数以下
マツダ3セダンの中古車情報はこちら!
一方、マツダ3セダンはファストバックと異なる動きをみせている。中古車の流通台数も約135台と半分しかなく、ほぼ直近3ヵ月間は大きな変動は見られない。
中古車の平均走行距離も約2000kmから約3000kmへと微増していて、この動きにリンクして、平均価格は3ヵ月前の約276万円から現在は約270万円へと6万円の値落ち幅を記録している。
ファストバック同様にマツダ3セダンの平均価格の推移を1年というスパンで見てみると、この1年で約291万円という最高値を付けたのが2020年3月の大需要期のタイミングで、その後は順調に値落ちし、現在の水準となっている。
現在マツダ3セダンの中古車の価格帯は約169万~約357万円。グレード構成はディーゼルエンジンを搭載したXD Lパッケージが約55台で最も多く、第2位はスカイアクティブXを搭載したX Lパッケージの約15台。
そして第3位は約14台でXD Lパッケージ4WDとXプロアクティブツーリングセレクションが並んでいて、スカイアクティブX搭載車の比率は約24.6%とファストバックの半数以下とグレード構成が大きく異なっている。
最も流通台数の多いXD Lパッケージの値落ち率は約9.5%。一方のX Lパッケージは約4.7%に留まっている。
そしてXD Lパッケージの価格帯は約215万~約290万円。走行距離2000kmという中古車が約230万円なので、約21%ダウンとなっている。マツダ3セダンの狙い目はディーゼルエンジンを搭載したXDとなる。
CX-30:スカイアクティブX搭載車はディーゼル搭載車よりも値落ち率が高い
2LスカイアクティブXエンジンは「M Hybrid」と呼ばれる24Vのマイルドハイブリッドシステムを組み合わせ、180ps/22.8kgmを発生。WLTC燃費は16.8km/L。一方、2LスカイアクティブGエンジンを搭載する20S Lパッケージは156ps/20.3kgm、WLTCモードは14.8km/L
CX-30の中古車情報はこちら!
続いては、2019年9月に登場したミドルサイズSUVのCX-30だ。CX-30の中古車の流通台数は3ヵ月前の約265台から現在は約380台へと右肩上がりで増加している。
中古車の平均走行距離は直近3ヵ月の間は約1000kmをキープし、目立った動きはない。しかし平均価格の動きは活発で、3ヵ月前の約292万円から2020年9月上旬に最高値の約299万円まで上昇。
その後は2020年10月上旬まで値落ちし、約289万円の最安値となった。その後はまた値上がりとなり、現在は約295万円まで値を戻しており、現在も値上がりは進行形だ。
まだ新しいモデルながら、1年という長いスパンでみると振り幅が非常に大きい。2020年4月までは値落ち傾向だったが、5月になると緩やかな値上がりとなり、6月には最高値となる約306万円まで上昇。その後は上げ下げを繰り返して現在の約295万円となっている。
現在CX-30の中古車価格帯は約224万~約375万円と幅広いのが特徴だ。中古車のグレード構成を見てみると、最も多いのがスカイアクティブXを搭載したX プロアクティブツーリングセレクションの約68台。
続いて2Lガソリンエンジンの20Sプロアクティブツーリングセレクションの約58台、そして20X L パッケージの約43台となっている。
このグレード分布を見ると、CX-30の急激な値上がりはマツダ3ファストバック同様にスカイアクティブX搭載車の市場流入によるものと考えられる。
搭載するエンジンによる値落ち率を見てみると、中古車の流通台数が最も多いX プロアクティブツーリングセレクションの現在の平均価格は約302万円で、値落ち率は約11.5%と高い。
続いて流通台数の多い20Sプロアクティブツーリングセレクションの平均価格は約251万円で、値落ち率は約8.1%。
そしてディーゼルエンジン搭載車で最も流通台数の多いXD Lパッケージ4WD車の平均価格は308万円で、値落ち率は約6.8%に留まっている。マツダCX-30もスカイアクティブX搭載車がお買い得だ。
まとめ:スカイアクティブX搭載車の中古車価格はお買い得なのか?
技術的には凄いが価格が高すぎるのか、中古車になると割安になり、お買い得な中古車となっているスカイアクティブX搭載車
したがって、CX-30やマツダ3ファストバックの中古車はスカイアクティブX搭載車が狙い目、ということになる。
これは、中古車の流通台数が少ないマツダ3セダンには当てはまらない。当てはまるのはスカイアクティブX搭載車の多いマツダ3ファストバックやCX-30。
同じ2L同士の新車価格を比較すると、両モデルともに、2LスカイアクティブX搭載車のほうが2LスカイアクティブGよりも約68万円高いが、中古車になるとその差が大きく縮まっており、まさに狙い目といえる状況になっているのだ。
つまり、スカイアクティブX搭載車はおいしい中古車なのだ。また、マツダではフルモデルチェンジを行わず、デミオがマツダ2、アテンザがマツダ6とネーミングを変更した。それぞれ平均価格の推移を調べてみたが、値動きに大きな違いは見られなかった。
新車時価格の高いスカイアクティブX搭載車の値落ちが大きいというのは、新たなマツダ地獄といえるのかもしれない。
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いい記事だ。