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「超高高度飛ぶ漆黒の偵察機」結局何だったの…? 実は軍用機の歴史を変えた経緯とは

掲載 更新 15
「超高高度飛ぶ漆黒の偵察機」結局何だったの…? 実は軍用機の歴史を変えた経緯とは

「鉄のカーテン」破るにはめっちゃ高いトコ飛べば良くね?

 1960年5月1日、アメリカの高高度偵察機「U-2」がソ連上空で撃墜される事件が起きました。この事件は当時の米ソ間で大きな外交問題になったのはいうまでもありませんが、この事件を契機に軍用機をめぐる用兵思想に大転換をもたらしました。一体何が起きたのか、当時を振り返ってみましょう。

【画像】え…高度…。これがマジで発生した「日本上空を飛ぶU-2」の様子です

 冷戦下の1950年代、旧ソ連や東ヨーロッパを中心とした共産圏国家の軍事情報は秘密のベールに包まれ、その境界線は「鉄のカーテン」と呼ばれていました。その「カーテン」の内側の情報を収集する唯一の方法が、偵察機による上空からの写真撮影でした。ただ当時の偵察機では航続距離や高度などで限界があり、現在のような偵察衛星も当時はありませんでした。

 そこで計画されたのが、ソ連戦闘機の監視網よりも高い高度を飛行できる偵察機を飛ばすという方法です。

 ロッキードの主任技術者ケリー・ジョンソンはグライダーのような機体に強力なジェットエンジンを搭載することで、現代の旅客機のおおよそ2倍の飛行高度となる、高度7万フィート(約2万1300m)で飛行可能な機体を設計しました。この機体に興味を示したのがCIA(アメリカ中央情報局)でした。同機関はソ連とその同盟国の軍事情報を熱望していたのです。

 CIAの予算が投じられ開発された機体は偵察機としての正体を隠すため、「U-2」と命名され表向きはNACA(NASAの前身)の高高度気象観測機とされていました。U-2は1955年に初飛行し、翌年1956年からは「鉄のカーテン」の内側で偵察飛行を開始しました。最初は西ドイツの基地から東ヨーロッパ諸国の上空を飛行したU-2ですが、その後、“ウラのミッション”を実施すべく、トルコ領内の基地からいよいよソ連上空の飛行も開始します。

 それに対抗すべく東側は、戦闘機を発進させてU-2の迎撃を試みました。しかし、U-2の飛行高度まで近づくことはできません。回を重ねる毎にU-2の飛行は東側の飛行場、軍用機の配備状況、ロケットやICBMの開発状況など多くの貴重な情報をもたらしました。

 こうした偵察飛行により、U-2の有用性が実証されたわけですが、それにともない搭載される機器も増えていきました。しかし機体重量の増加は飛行高度の低下に直結します。U-2にとって飛行高度の高さだけが唯一の安全策だったので、重量の増加は大きなネックとなりえます。

 そのため、エンジンをパワーアップして翼を大きくすることで飛行高度を維持することになりました。初期型が搭載していたJ57エンジンに代わり強力なJ75エンジンを搭載した最初の機体が厚木基地に配備され飛行が始まりました。

 この機体が1959年9月24日、神奈川県の藤沢飛行場に不時着。日本で「黒いジェット機事件」と知られるアクシデントを起こすことになりました。当該機のパイロットは新型エンジンにより高度記録を更新したものの、従来の機体よりも燃料消費量が多かったため燃料不足に陥り、結果として厚木基地の手前の藤沢飛行場に着陸したのです。

「黒いジェット機事件」後のU-2、何があった?

 一方で、U-2製造における真の目的である、ソ連上空への飛行は4年目を迎えるとさらに大胆な計画が打ち出されました。これまではソ連上空まで進出した後はトルコ領内の基地に戻るルートをとっており、行動半径が限られていました。そこで、さらに奥地を偵察すべく計画されたのが、パキスタンの基地を離陸してソ連領内を縦断しコラ半島を経由した後、ノルウェー領内の基地に着陸するルートです。

 天候による延期がありましたが、アイゼンハワー大統領の承認を得ていよいよ1960年5月1日早朝、ゲーリー・パワーズ飛行士操縦のU-2が、パキスタンから離陸します。奇しくもこの時に使用された機体は、藤沢に不時着した新型のU-2でした。

 パキスタンの基地を離陸後順調に推移していたこのミッションですが、行程の前半を終えソ連の中心部の差し掛かったところで、地対空ミサイルSA2がU-2の近くで爆発しました。U-2は高い高度を飛ぶためにギリギリの強度で設計されていました。そのため、爆風を受けただけで機体が破壊されてしまったのです。

 パワーズ操縦士は墜落する機体から何とか脱出して救助されましたが、機体の残骸からは偵察機材が回収されます。そうして、墜落した機体がアメリカの偵察機だったことが明るみになってしまったのです。

 この事件により、ソ連領空を飛行することはたとえ飛行高度が高くても安全ではなくなったことが認識されるようになりました。U-2を設計したケリー・ジョンソンはソ連上空を安全に飛行するためにさらに高い高度を高速で飛行することでミサイルの迎撃を回避できる機体の設計を開始しました。目標は高度8万フィート(2万4000m)を速度時速2000マイル(3200km/h)で飛行可能な機体でした。これが後にマッハ3級の戦略偵察機SR-71として完成することになります。

 しかし、U-2撃墜は偵察機にとどまらず、ほぼ全ての軍用機の運用に大きな影響をもたらしました。高高度を飛行することを前提に設計された軍用機が、そのメリットを活かせなくなったからです。

 象徴的な出来事がマッハ3級の戦略爆撃機XB-70の中止。同様に超音速戦略爆撃機B-58は就役後わずか10年で全機が退役することになりました。この事件を契機にその後開発された多くの軍用機がB-1爆撃機やトーネード戦闘攻撃機のように低高度高速飛行に主眼が置かれるようになりました。

 パワーズ操縦士はソ連の法廷で有罪判決を受けましたが、米ソ間の人質交換で1962年にアメリカに帰国しました。優秀なパイロットではありながら、帰国後は冷遇されていたことに同情するアメリカ国民は少なくないと言われています。同氏はその後、民間人として報道ヘリコプターの操縦に従事しましたが1977年墜落事故により亡くなっています。

※一部修正しました(4月16日22時10分)。

文:乗りものニュース 細谷泰正(航空評論家/元AOPA JAPAN理事)

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みんなのコメント

15件
  • yam********
    このバカでかいグライダーみたいな飛行機が、ペンシルロケットみたいなF104の兄弟機だと知って衝撃を受けた思い出がある。
    しかも、翼に車輪がないので、着陸時には兵士がピックアップトラックに乗って滑走路を並走し、地面をこすらないように受け止めるというサーカスじみたことを毎回やっているらしい。
  • dar********
    最初アメリカは知らんぷりするつもりだったがパイロットが捕虜になってしまい、事実を認めざるを得なくなった。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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