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『紅の豚』に出てきそう!? いかにも「古そうな複葉飛行艇」が第二次大戦で引っ張りダコだったワケ「空母にも発着できます!」

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『紅の豚』に出てきそう!? いかにも「古そうな複葉飛行艇」が第二次大戦で引っ張りダコだったワケ「空母にも発着できます!」

『紅の豚』に出てきそうな複葉の小型飛行艇

 第2次世界大戦中、イギリスは複葉単発の小型飛行艇スーパーマリン「ウォーラス」を運用しました。同機は、まるでアニメ映画『紅の豚』にでも出てきそうな外観をしていますが、飛行艇ながら陸上からも発着でき、戦艦からのカタパルト射出、果ては空母への発着艦もこなせるほどの汎用性を持っていたとのこと。「ウォーラス」とは、いったいどんな飛行艇だったのでしょうか。

【画像】空母でも発着できます!「ウォーラス」飛行艇の様々なシーンをイッキ見!

「ウォーラス」を生んだスーパーマリン社は、傑作機「スピットファイア」を生んだ航空機の名門メーカーです。その誕生は既存企業の買収で、1916年にパワーボートやヨットの設計者で、飛行艇にも見識があるヒューバート・スコット・ペインがペンバートン・ビリング社を入手し、名称をスーパーマリン・アヴィエーション・ワークス社(以下スーパーマリン社)に変更したのが発端です。ちなみに、社名は「海原(Marine)」を「飛び越える(Super)」という意味です。

 こうしてスコット・ペインが社主となった翌年、航空機設計技師レジナルド・ジョセフ・ミッチェルが入社します。なお、彼は後年、前出の傑作戦闘機「スピットファイア」を設計しています。

 彼は精力的に仕事と向き合い、当時の同社の看板ともいえる飛行艇の設計においてその才能を示します。さまざまな試作戦闘飛行艇を手掛けますが、いずれも機体が艇体を兼ねており、複葉で上下の主翼のあいだにエンジンが配されたデザインでした。

「シーガルV」改め「ウォーラス」に

 1921年、ミッチェルは偵察飛行艇「シーガル」を開発します。同機は名目上こそ偵察飛行艇でしたが、実際には偵察だけでなく弾着観測、救難、軽輸送、対潜哨戒と、艦載機に課せられるほとんどの任務に対応可能で、まさに汎用飛行艇と呼べる機体でした。しかも、堅牢でシンプルな構造のため整備も簡単で、整備施設や整備兵の技量に限界がある軍艦の上でも使い勝手がよく、艦隊では好評だったといいます。

 しかし1930年頃になると「シーガル」も陳腐化・老朽化が見られるようになり、その後継が必要になりました。その要望を最初に挙げたのはオーストラリア空軍でしたが、完全な新規設計の機体ではなく、「シーガル」の性能向上型を求めたといいますから、同機がいかに優秀だったかわかります。

 これを受けたミッチェルは、「シーガル」とほぼ同サイズながら、全く新しい機体を開発します。具体的には、「シーガル」が木製胴体なのに対して、新型機は胴体を金属製にし、空冷星型9気筒エンジンを推進式(プロペラ後ろ向き)に搭載していました。なお、当初この機体には「シーガルV」の名称が与えられています。

 1933年6月21日、「シーガルV」は初飛行に成功。このとき、同機は宙返りや曲技飛行まで行って見せて、その運動性能の高さを示したとか。また、カタパルトによる射出テストも行われましたが、これは世界初となる完全装備の水陸両用機によるカタパルト射出となりました。

 これら一連のテストの結果、「シーガルV」は、1930年代半ばにオーストラリアとイギリスに採用され、セイウチを意味する「ウォーラス」へと名称が改められています。

陸上でも、海上でも、ときには空母上でも

「ウォーラス」が、ほかの飛行艇と比べて圧倒的に勝っていた部分、それは陸上の飛行場でも、海の上でも、空母の飛行甲板からも、どこへでも降り、そして飛び立てる性能を持っていた点です。

 これは、優れた短距離離着陸性能を持っていたからですが、それに加えて胴体に引き込み式の降着装置を備えていたことで可能な芸当でした。また胴体後端には着艦フックも装備していたため、これも空母への着艦が可能な要素のひとつとなっています。

 加えて、前述したように巡洋艦や戦艦などが備えるカタパルトから射出することもできました。なので、これら水上戦闘艦からカタパルトで発艦したのち、空母へ直接着艦するなんてこともできたのです。

 こうした、場面を選ばない使い勝手の良さと抜群の便利さから「ウォーラス」は第2次世界大戦が始まると偵察、弾着観測、救難、軽輸送、対潜哨戒、傷病兵輸送に加えて、秘密諜報員の潜入や脱出といった特殊任務にまで幅広く用いられました。生産機数は740機と決して多くはありませんが、前出のイギリス、オーストラリアに加え、ニュージーランドやカナダなどでも運用され、好評を博しました。

 戦後は、民間に払い下げられた「ウォーラス」が捕鯨母船に搭載されて鯨の群を空から探したり、傷病者空輸の「空飛ぶ救急車」となったりしたほか、観光や遊覧などにも利用されています。

 たとえるなら「痒いところに手が届く」。スーパーマリン「ウォーラス」はそんな性格の飛行機だったのかもしれません。(白石 光(戦史研究家))

文:乗りものニュース 白石 光(戦史研究家)

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みんなのコメント

22件
  • lns********
    ウォーラスやソードフィッシュが活躍出来たのは対する独伊軍にまともな海軍航空隊がなかったせいもあります。太平洋戦域では性能的にははるかに優れた零式水上偵察機や二式大艇も、米軍の圧倒的な制空権下では活動が封じられてしまった。
  • fv4********
    アメリカ海軍にも、陸上飛行場や空母に発着できる水上機のグラマンJ2Fダックがありました。こちらも複葉機でしたが、飛行艇型ではなく水上飛行機の胴体を下にふくらませて大型のフロートと一体化させたような形態で、車輪はフロートへの引き込み式、ふくらんだ胴体下部には座席なら2名分を設けられる輸送用スペースがありました。初飛行はウォーラスと同時期でしたが、シーガルの発展型だったウォーラスより、基本設計が新しいJ2Fダックの方が速力や航続距離など飛行性能は上でした。
    ウォーラス同様、偵察、観測、哨戒、救難、連絡、軽輸送と便利に使える多用途機として重宝したようです。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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