東芝ライフスタイルが描く“デザイン経営”の未来
起業家であり、家電スペシャリストでもある滝田勝紀氏が、連載「家電で読み解く新時代」と題して、テクノロジーの奥に潜む“時代の空気”を紐解きます。
【画像】東芝ライフスタイルの新たな拠点を画像で見る(10枚)
今回取り上げるのは、東芝ライフスタイルが2025年8月に渋谷に開設した新拠点「Tokyo Design Center」。都市とカルチャー、そしてテクノロジーが交差するこの場所で、同社が描くのは“グローバル市場に向けたデザイン経営”の進化です。
デザインセンター長の宮澤卓行氏へのインタビューをもとに、その狙いとビジネス的インパクトを掘り下げます。
「渋谷」という“場所”がもつブランド力
東芝ライフスタイルが、渋谷・桜丘の複合施設「Shibuya Sakura Stage」に新たなデザイン拠点を開設した。その名も「Tokyo Design Center(以下、TDC)」。
渋谷という立地を聞いたとき、筆者は少し驚いた。なぜなら、日本の家電メーカーの多くは、研究開発拠点を郊外に構えるのが通例だからだ。
利便性は高くても家賃が高く、スペースも限られる渋谷に「デザイン拠点」を置く理由は何なのか──。
TDCのセンター長を務める宮澤氏は、冒頭から明快だった。
「渋谷を選んだ最大の理由は、“共創”です。渋谷には学生や若いクリエイター、ファッション、音楽、食といったカルチャーが集まる。デザインは技術だけでなく、空気感や社会の流れをどう読み解くかが重要です。渋谷にはその“現場の感覚”がある」
渋谷は、東京のなかでもとくにカルチャーとテクノロジーの発信地である。東芝ライフスタイルはここを、単なるオフィスではなく 「未来の暮らしを共にデザインするためのハブ」 と位置づけている。
CMF+P──「色と素材と仕上げ」を超えた戦略設計
TDCの最大の特徴は、単なるショールームだけでも、R&Dラボだけでもない点にある。それは CMF+P という、家電メーカーとして新しい設計思想が内包されている点だ。
CMFとはColor(色)/Material(素材)/Finish(仕上げ)の略。インテリア業界ではおなじみの考え方だが、ここにProduction(生産)を加えるのがTDCの肝だ。
「これまで家電のデザインは、造形と機能の領域で議論されることが多かった。しかし“暮らしに馴染む”という感性の領域をどう具体化するかというと、最終的にはCMFと生産の設計力が決め手になる」。
実際、TDCではCO-CREATION SPACEと呼ばれる空間で、照明・インテリア・配置環境をリアルに再現しながらプロトタイプを検証している。
会議室ではなく、生活空間の中でデザインを決める。そのプロセスが、製品の「色味」や「素材感」、「光の映え方」までの意思決定をスピードアップさせる。
東芝ライフスタイルは近年、このCMF+Pの基準を 社内全体の共通言語 として整備してきたという。
これにより、製品カテゴリーを超えたブランドトーンの統一、開発リードタイムの短縮、そしてグローバル展開時の表現軸の一貫性を狙う。
“推し活”とデザイン──渋谷発のカルチャーが製品開発を動かす
今回のTDC開設で特筆すべきは、デザインを「カルチャー」と地続きで考えている点だ。宮澤氏が現在注目しているのは、いま渋谷を中心に広がる“推し活”と“色”の関係性だという。
「推し活文化の根幹には“色”があります。推しカラーは自己表現であり、共感のシンボルです。そこから家電のカラー展開を考えるというアプローチは、従来のプロダクト開発にはなかった視点です」。
渋谷の街を歩くと、Z世代を中心に自分の「推し色」を身につけた若者たちを多く見かける。それを家電のデザインに落とし込む──。
一見突飛に思えるが、実は極めてロジカルな考え方だ。多品種少量生産が可能になった今、こうした限定色・先行色の展開は、ブランドの若返りやファンベース形成に直結するからだ。
TDCでは、年5~6件の共創プロジェクトを予定。学生やスタートアップ、インテリア業界、ファッションブランドなどと組みながら、柔軟な試作と素早い反応検証を行うという。
「生活空間で決める」──意思決定の構造改革
筆者がもっとも印象に残ったのは、TDCでの意思決定プロセスだ。従来、製品の色や仕上げは、会議室の机の上で決まっていた。蛍光灯の下で見た“白”と、実際のリビングで見た“白”は、まったく違う。これを現場感覚で判断するのがTDCの手法だ。
「照明の明るさや色を自在に変えたり、設置場所を変えたりして、最終判断をします。生活空間の文脈で意思決定することが、最終的な品質にも直結する」
また、TDCはデザイン部門だけでなく、企画、マーケティング、生産技術も巻き込み、横串で議論する場 として機能している。社長直下の組織体制に移行したことで、スピード感も格段に上がったという。
Tokyo Design を“ラベル”に──グローバル発信の最前線へ
もう一つの大きなポイントが、TDCのグローバル戦略との接続だ。宮澤氏は、TDCを 「東京発のグローバル・デザインラボ」 として位置づける。
「今後、本体である親会社・美的集団から海外デザイナーの受け入れも進めます。日本から発信するTokyo Designを“ラベル”として海外のプロジェクトにも活かしたいと考えています」。
すでに中国・欧州の拠点との連携も始まっており、東京で決まったデザインが海外モデルに反映されるケースも増えていく見込みだ。
つまりTDCは、単なる国内拠点ではなく、グローバル戦略のハブとしての役割を担うことになる。
この戦略は、近年の「デザイン経営」の潮流とも合致している。単なる意匠としてのデザインではなく、事業戦略そのものにデザインを組み込むことで、競争力を高めるという考え方だ。
「Tokyo Design Center」という名の“メディア”
TDCの面白い点は、ここが単なる開発施設ではなく、情報発信の拠点としても設計されていることだ。将来的にはイベントや展示の一般公開も視野に入れているという。
「普段は非公開ですが、期間限定の一般公開は検討しています。展示会のように“つくる過程”を見せることができれば、ユーザーとの距離も縮まります」。
TDCは、製品を「つくる」だけでなく、社会と「つながる」場所でもある。いわば “TOSHIBAブランドのメディア” としての機能も内包しているのだ。
起業家的視点で見る──“渋谷発”がもたらすビジネスインパクト
ここまで聞いて、筆者は家電スペシャリストとして、そしてメディア事業を運営してきた起業家として、ある確信を持った。いま、家電業界は機能の差別化が難しくなっている。
テクノロジーが成熟し、性能はある程度“横並び”になった。だからこそ、これからの勝負は 「どんな文脈でそのプロダクトが語られるか」 に移っていく。
渋谷という立地、CMF+Pというプロセス、カルチャーとの接続。これらはすべて、機能ではなく“文脈”をどう設計するかに直結している。
これはブランドを再構築し、若い世代との接点を広げ、グローバル展開を強化するための“戦略的投資”だといえるだろう。
TDCのようなデザイナー拠点はこれまでパナソニックが京都に、日立GLSが国立に先んじて作っているが、今後、多くのメーカーにとっても注目すべきビジネスモデルになる可能性が高い。
これからの「デザイン経営」は“都市”から始まる
ちなみに筆者はこれまで、欧州の名立たる家電メーカーの多くを現地まで行って取材してきた経験がある。そこではデザインとビジネスが密接に結びついていた。今回のTDC開設は、日本の家電業界が同じフェーズに踏み出す一歩だとあらためて感じた。
「渋谷」という都市が持つカルチャーの力。
「CMF+P」という戦略的デザインの力。
そして「Tokyo Design」というラベルが持つ発信力。
この三つが組み合わさることで、日本発の家電ブランドはもう一度、デザイン視点でも世界の舞台で輝くことができるかもしれない。そのスタート地点が、渋谷・桜丘のビルの一角にある。(滝田勝紀)
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みんなのコメント
さすがは東京!
渋谷に会社を置くと日本中が注目することになるらしく、いまだに東京の地名で
いけると思うところが素晴らしい。
ハードディスクDVDはどこに行ったんやろか?