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濱口弘のクルマ哲学 Vol.59 DEFENDER130の真実

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濱口弘のクルマ哲学 Vol.59 DEFENDER130の真実

名前だけ同じDEFENDER、と鼻で笑っているつもりだった。本誌2021年10月号に、当時デビューしたばかりの現行DEFENDERの記事を書いた。その時から素晴らしい出来のクルマだとは思っていたが、私は旧型DEFENDERの、68年間続いた無骨でいて恒久的なデザインを愛し、限定アニバーサリーモデルを中心に5台所有しているので、現行DEFENDERを今の型式のうちに購入することは、全く考えていなかった。淡く、2世代ほど後になったら身体の変化により選択するのかな、と遠く考えていた。それが、だ。

戸狩温泉スキー場を私が取得し、初めての冬季営業開始に向け準備をしている中で、山頂へゲストをお迎えするクルマとしてジムニーを購入したことは、昨年ここに書き記した。ジムニーの走破力に助けられた数ヵ月だったが、購入目的であるゲストを乗せスキー場を案内したのは、たった1回しかなかった。それは後部座席が狭く、成人男性4人が乗ることは難しかったからだ。

編集前記 Vol.38 バイクとの新たな関係性

途方に暮れていた私は、現行DEFENDERについて耳を挟むことになる。それは、いつもお世話になっているランドローバー調布の営業担当者から、DEFENDER130は、大人7人が快適に座れるスペースがある、と聞かされたことだった。1度に大人7人を運ぶことができ、オフロード性能に疑いのない車種、これ以上の選択はないと、すぐオーダーさせてもらったのが11月であった。そこから納車を指折り楽しみにしているうちに、私のゲレンデに雪が降り始めた。スキー場経営としては嬉しいことだが、DEFENDER130の購入が遅かったのは間違いない、その真実もすぐに深い雪で覆われていった。DEFENDER130は営業が始まる1週間前に納車されたが、その頃には残念ながらキャタピラの雪上車や圧雪車でないと、ゲレンデには登れなくなっていたのだった。

納車してほどなく大人7人で戸狩から長野と新潟の県境にある豪雪地帯へ古民家を見に行くことになった。アプリでは反映されていない積雪による通行止めも考えられる地域なので、DEFENDER130ならば快適な現代SUVだからいいだろう、その程度に思い、皆をクルマへ招いた。

2列目のシートがキャプテンシートになっていることで、3列目にスムーズに移動できる。電動ステップが装備されたこともあり、後部座席に5人の大人がスムーズに収まった。運転席に座ると、目線は旧型と変わらない見慣れた高さだ。目線を横に移動させると、旧型にはなかった助手席のDEFENDERの文字。何度見ても私の心をくすぐる。7人も乗っている車内は常に誰かが話している状態だが、運転席と3列目に座る人との会話がスムーズなことに驚いた。低回転で回るエンジン音はわずかにしか聞こえてこず、高い静粛性は友人との会話を滑らかにさせる。重いディーゼル音と振動が、出ている速度と比例しないクラシックなDEFENDERに慣れていた私には、発売当初この心地よさが受け入れがたかったのだが、こうして乗っていると快適で手放せなくなる。車内幅もヘッドクリアランスも大きく取られているが、ラゲッジスペースも大きく確保されていて、機動力も高い。新型にハードコアな部分は何一つなく、そこを旧型と一つ一つ比べる私だったが、後部座席にぎっしり乗った大人たちのくつろいだ笑顔が、DEFENDER130のストレートな評価なのだろう。

走りも一新した。一体成型のアルミ合金モノコックへ生まれ変わったDEFENDERの構造は、加減速はもちろん、段差で捻れを感じたり、ボディのリアが遅れてくるようなことはない。車体は大きいけれど一体感があり操作しやすい。同価格帯のSUVセグメントであるメルセデスのGクラス、レクサスLXと比較してみると、両車ラダーフレームなのに対し、DEFENDERはシャーシのアルミ化にエアサスペンションと、圧倒的に捻れ合成と乗り心地で優位にいる。乗降時の車高調整だけでなく、走行時や悪路走行での車高変化もDEFENDER130は一つ頭が抜けた存在だ。カタログスペックではGクラス、LXともにトルク、馬力でこのクルマを上回るものの、新設計が有効に作用し、ボトムエンドでの蹴り出しがスムーズだ。数字以上のパワーを感じさせながら、DEFENDER130は私たちを軽快に雪深い新潟の山里へ連れてきてくれた。

クルマを降り、膝まで埋まる新雪をかき分け、1階が雪に埋まった古民家の框(かまち)を上がる。豪雪地帯において200年を越えて尚どっしりと構え、5メートルになる雪の重みを受けるよう組まれた柱と梁は、表面に塗られた柿渋によっていまだ呼吸を続け、周囲は雪で覆われていても内部に湿気は感じられない。朽ちる様子が一片もない本物の古民家に圧倒され、せり出た裄の奥から窓の外を眺めると、明治後期にタイムスリップしたような山間の景色に、DEFENDER130が見えた。文化財になり得る古民家と、文化を体現してきたDEFENDERが、厳しい自然の中で巡り合った不易流行と温故知新の融合を、私はいつか形として表現したいと、この景色と空気を心に焼きつけた。

Hiroshi Hamaguchi

1976年生まれ。起業家として活動する傍ら32才でレースの世界へ。スーパーGTでの優勝を経て、欧州最高峰GTシリーズであるヨーロピアン・ル・マン・シリーズ2024年度シリーズチャンピオンを獲得。ル・マン24時間出場。フィアットからマクラーレンまで所有車両は幅広い。投資とM&Aコンサルティング業務を行う濱口アセットマネジメント株式会社の代表取締役でもある。

文:ahead ahead_official
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