「日本一速い男」と呼ばれ、かの元F1ドライバーE・アーバインをして「日本にはホシノがいる」と言わしめた「星野一義」。通算133勝、21の4輪タイトルを獲得した稀代のレーシングドライバーの50有余年に渡る闘魂の軌跡を追う。(「星野一義 FANBOOK」より。文:小松信夫/写真:SAN’S/モーターマガジン社)*タイトル写真は、1990年6月16日-17日ル・マン24H。
90年ル・マン制覇を目指しての大いなる助走
1983年から開発がスタートした日産のグループCカーは、85年のWECジャパンでの勝利を追い風に、ル・マン24時間制覇を目標に急速に進歩していった。
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エンジンもスーパーシルエット用を流用した2リッター直4のLZBから、アメリカで開発が進められたV6・ 3リッターのVG30、さらにV8の純レーシングエンジンであるVEJ30、VRH30、VRH35を矢継ぎ早に投入。
シャシーも85年まで使用していたマーチ製から、89年には専用開発されたローラ製のフルカーボンシャシーに進化。さらに88年まではJSPC・全日本耐久選手権とル・マンのみを走っていたものが、89年からはレギュレーションでル・マンへのスポット参戦ができなくなったため、ヨーロッパに拠点を設けてWSPC・世界耐久選手権へのフルエントリーも開始する。
89年は結果こそ残らなかったが、世界選手権と全日本での熟成を着実に進めてデータを集め、ル・マンで勝負をかける本命マシンが日本とイギリスでそれぞれ開発された。
日本のニスモが開発したマシンはニッサンR90CPと名付けられ、90年のJSPC開幕戦の富士500kmで、星野/鈴木利男組と長谷見昌弘/A・オロフソン組の2台がエントリー。このレース、やはりデビュー戦のトヨタ90-CVがポールtoウインを獲得。長谷見組が僅差で2位、星野組は4位に。
続くWSPC開幕戦の鈴鹿では、星野組がリタイアしたものの、長谷見組が3位に入り、前年から一転して速さと安定性を発揮する。
デイトナ24Hでその実力を世界に知らしめる
そして迎えた90年のル・マン24時間日産はニスモから長谷見/星野/鈴木組のR90CPがエントリーし、さらにNME(ニスモヨーロッパ)とアメリカのNPTIが各2台のR90CKを持ち込むという、ワークスマシン5台を揃える万全の必勝体制で臨んだ。
予選ではNMEのR90CKでM・ブランデルがPPを獲得、星野も駆ったR90CPが予選3位と、順調な滑り出しを見せた。しかし決勝では日米欧3つのチームの連携が上手く取れず、トラブルも続出。
最終的に3台がリタイアする中、ニスモの23号車が日産勢の最上位で、当時の日本人最高の5位に入賞した。ただしこの結果は、事前の優勝宣言をした日産、そして星野にとっても大惨敗というほかなかった。
しかし、R90CPはル・マン後のJSPCではそのポテンシャルを遺憾なく発揮して見せる。第3戦の富士500マイルでは長谷見組がポールtoウイン、星野組も一時は最下位まで転落しながら3位。
第4戦・鈴鹿1000kmでは星野組が優勝、長谷見組が7位。第5戦・菅生500kmでは長谷見組が優勝、星野組が4位。長谷見組、星野組によるタイトル決定戦となった最終戦の富士1000kmは、星野組が2位、長谷見組が5位となり、両車が同ポイントで並んだが、優勝回数の差で長谷見がチャンピオンとなる。90年にF3000、ツーリングカーのタイトルを決めていた星野は、惜しくも3冠を逃すことになった。
91年になって、日産はル・マン挑戦を停止。しかし星野は、再び鈴木利男とのコンビを組み、R91CPを駆って挑んだJSPCで3勝をマーク。トヨタ91C-Vを駆る小河等/関谷正徳組を2ポイント差の僅差で下して、自身初のJSPCタイトルを手にする。
さらに92年2月には、アメリカ・IMSAシリーズのデイトナ24時間に星野/鈴木/長谷見/オロフソン組で総合優勝して世界を驚かせる。92年のJSPCでも、星野はR92CPを駆り、第2戦から3連勝、ライバルを寄せ付けない速さでJSPC2連覇。この年で終焉を迎えたJSPC、その歴史の掉尾を飾ったのだ。(次回に続く)
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