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クルマの燃費は走る環境やドライバーの運転のしかたで大きく変化するので、燃費性能を比べるためには、一定の同じ条件で燃費を計測する必要がある。その燃費計測用の条件が法的に定められたのが「試験モード」で、かつての10モード、10・15モード、そしてJC08モードとなり、現在WLTCモードが加わっている。
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完成車検査とは
販売されるクルマは、すべて国交省による型式認証を受けている。国交省が決めた保安基準や、排ガス基準、安全基準などをパスすると型式認証が得られ、販売ができる。ただしこの型式認証のための試験を受けるのは、量産前段階の試作車で行なうのである。
そのため、実際に工場で量産される大量の台数のクルマは、すべて型式認証を取得した状態と同じであることは必須であり、それを確認するのが完成車検査だ。これは型式指定制度と呼ばれ、日本独自の制度だ。
その完成車検査だが、クルマの寸法が型式認証の値と同じかどうかや、保安基準にパスしているかどうかなどで、要は車検での検査と同じように全車がチェックされるものの、燃費・排ガスの性能に関しては、抜き打ちテストになっている。
つまりチェックのためのテストは、時間と手間がかかるため、例えば生産された1000台の中の1台を抜き取って燃費・排ガスのチェックを行なう。そして試験データを蓄積し、統計的に型式認証時の試験結果と同等のゾーンに入っているかを確認する、という手段がとられているのだ。
この抜き取り検査の時に、おそらく試験の時間的なロスを少なくすることや、ばらつきはある程度許容されるにもかかわらず、ばらつきが許されないと誤認し、ばらつきが少ないデータに書き換えたというのがスバルの、完成車検査での燃費・排ガス試験の不正問題だった。
モード試験とは
これまでクルマの燃費は、1973年、当時の運輸省で採用したのが、市街地を想定した10項目の走行パターンを想定した10モード燃費で、その後1991年に、運輸省は郊外を想定した15項目の走行パターンを加えて10・15モード燃費を設定した。
しかし10・15モード燃費は実走行での燃費との差が大きいということで、2011年4月から、新たにJC08モード燃費試験法に変更された。さらに2018年からは世界共通化を目指したWLTC(国際調和排出ガス・燃費試験法)モード燃費も、JC08モード燃費とカタログに併記されるようになっている。
なおWLTCモード は市街地、郊外、高速道路の各走行モードを平均的な使用時間の配分でまとめた国際的な走行モードで、平均燃費と市街地モード (信号や渋滞等の影響を受ける比較的低速な走行を想定)、郊外モード(信号や渋滞等の影響をあまり受けない走行を想定)、高速道路モード(高速道路等での走行を想定)の4種類の燃費が記載される。ただし、高速燃費は欧米と日本では法定最高速が異なるため、日本のほうがやや低速となっている。
これまでのJC08モード燃費とWLTC平均燃費を比べるとWLTC平均燃費のほうがやや低くなる。その理由は、JC08モード燃費は、温間スタートと冷間スタートの両方で試験を実施して、それぞれの結果に対して温間スタートの結果を75%、コールドスタートを25%の比率で燃費を算出するが、WLTCモード燃費は冷間スタートが試験に用いられる。
またWLTCモードではアイドリング時間が減少するために、アイドリングストップ搭載車の燃費値が悪くなったり、試験時の平均車速が上昇するために、ハイブリッド車や軽自動車の燃費は厳しくなる傾向にある。
ところが、WLTC燃費も実際の走行とは乖離があるとして、ヨーロッパを中心に新たにRDE(実走行)燃費・排ガス試験法を重視する動きが主流になりつつある。RDEは、実際に都市部、郊外路、高速道路を走りながら燃費・排ガスを計測する。とはいえ、一定の条件を揃える必要があるため、この試験に適したテストコースを設定する必要があり、そのコースを走る時の運転状況に合わせたシャシーダイナモによる試験化も可能になっている。
シャシーダイナモでの試験とは
いずれにしても明らかなのは、試験の公平性、天候、ドライバーの運転操作などの影響を少なくするために、試験をする施設内にあるシャシーダイナモ上で燃費・排ガスは計測されるのだ。
シャシーダイナモは、クルマの駆動輪で巨大なローラーを回転させ、その時に排出される排ガス成分を分析して、排出量や、燃費を算出する。このシャシーダイナモでの計測時はステアリングを直進状態にしている。シャシーダイナモ上でステアリングを切ると車体が左右にぶれるからだ。
またJC08モードではエアコンはオフとされる。運転席に座ったドライバーは、クルマの右側にあるディスプレイに表示される速度、つまり加速や減速(アクセルオフ、またはブレーキ操作)の指示通りにアクセルを踏み、あるいはブレーキを踏む。
もちろん、指示速度よりアクセルを踏み込みすぎたり、逆に踏み込み不足で一定の許容範囲を超えると「エラー」となり、その試験は無効とされる。だからドライバーは、モニターの指示に合わせて正確にアクセルを操作できなければならない。しかし、これは実際の道路での運転でも同じで、目標速度をオーバーして減速するといった運転を繰り返すと燃費は悪化する。ベテラン・ドライバーは自分が意図した速度にピタッと合わせることができるが、そうした運転スタイルと同じことが求められるわけだ。
省燃費の切り札
シャシーダイナモのローラーは、実際の道路を走る時と同じ抵抗になるように調整されている。抵抗の代表が走行抵抗で、この走行抵抗は事前にクルマを惰性走行させて各車速での減速度を測って調べる。この走行抵抗の測定法が問題になったのが三菱自動車の燃費不正問題だ。なおこの走行抵抗は転がり抵抗と空気抵抗から構成されている。
転がり抵抗は速度にかかわらずほぼ一定だが、空気抵抗は速度の二乗に比例する。速度が2 倍になれば空気抵抗が4 倍になり、車速が50~60km/h で二つの抵抗がほとんど等しくなる。さらに抵抗には、車両重量が1000kgとか1500kgの物体を動かし加速するという加速抵抗がある。これがよく問題になる等価車両重量で、日本の場合は車両重量を一定のグループに割り振っているのだ。この加速抵抗(等価重量)がJC08モード燃費計測の抵抗の50%以上になり、残りが転がり抵抗と空気抵抗だ。
なお転がり抵抗の80%以上はタイヤにより発生し、残りが駆動系やベアリングなどの摩擦抵抗だ。そのため燃費の性能を高めるためにはタイヤの転がり抵抗を減らすことが重要になり、近年は低転がり抵抗の低燃費タイヤが続々登場している背景もある。
燃費計測で見ると、タイヤの寄与率は20%~25%あり、その転がり抵抗が30%低減できれば燃費はなんと5%以上向上するのだ。つまり燃費向上の切り札の一つがタイヤというわけだ。
また駆動系ではトランスミッションの抵抗(効率)が大きく影響する。トランスミッションはMT、DCT、トルコン式ステップAT、CVTがあるが、MT、DCTの伝達効率は98%程度で、ステップATは90%~95%程度、CVTが高い油圧を使用するため90%以下の効率だ。
しかし、CVTはエンジンの出力ではなく燃費の良いゾーンを積極的に使用している。現象的にはアクセルを踏むとまずエンジン回転速度を上げ燃費の良いゾーンにしてから,速度を合わせるということができるので、近年はCVTが全盛となっているわけだ。
■実燃費を良くするには
ダウンサイジングターボ・エンジンは、排気量を小さくしてアクセル開度を開け気味にし、燃費効率の良いゾーンを多用する発想で、小排気量エンジンなら内部のフリクションロスも小さくできる。一方、小排気量化でトルクが不足するため、ターボで過給して低回転でトルクを引き出すというのが燃費面で見たコンセプトだ。
ところで、10・15モード燃費は、一定速度を一定時間維持するような運転モードが多かったが、JC08モード燃費では指定のグラフを見れば明らかなように、加速、減速の繰り返しで、アクセルを一定に保つ時間はない。つまり一般的に思われているより加減速の激しい運転モードであり、加速でもじんわり加速するより急加速(もちろん床までアクセルを踏み込むような全開加速ではなく、追い越しなどでの加速のイメージだが)のシーンが多い。
JC08モード燃費の運転時間は20分間で、市街地から郊外路を走るというパターンに近い。そして加速を繰り返すわけで、実は加速はゆっくり加速でも急加速でも燃費に対する影響はそれほど大きいわけではない。この点はかなり誤解されていることが多い。簡単に言えば静止から50km/hまで加速するのに必要なエネルギー(燃料)は一定で、ゆるい加速でも急加速でもほぼ変わらないと言える。
急加速して目標の巡航速度に早く到達し、その後は燃費の良い巡航状態を維持するというのが「ドイツ式」エコ運転で、理にかなっている。逆にゆっくり加速する、つまりスロットル開度が低いとポンピングロスが多い状態での加速になるため、燃費の効率は良くないのだ。日本では「ゆっくり加速」が省燃費運転と言われているため、交通の流れにもいい影響はない。
また、ブレーキをかけるとエネルギーはブレーキ熱として放出されるため、無駄なブレーキは燃費悪化の一番大きな原因にもなる。
同様に、巡航中にアクセルを頻繁に戻すということも燃費にとっては損失になる。なぜならまたアクセルを開け直して仕事(速度)を取り戻さなければならないからだ。言い換えれば、アクセルを戻さない方が燃費は向上する。つまり上手にアクセルを微調整できるドライバーは燃費がよくなるのである。
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