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高貴ですらある“裏”カリナンで千年の都へ。Vol.2

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高貴ですらある“裏”カリナンで千年の都へ。Vol.2

本拠地の京都と東京の間をドライブすること200台以上、文句なしのベストモデルはカリナンだった。しかもそれはオルターエゴである“ブラックバッジ”。京都をゆく、オーセンティックブランド、ロールス・ロイス初のSUVとは……。

Rei.Hashimoto第一印象。巨体がうそのようにドライバーと融合

70年間、真のスポーツカーであり続けるヴァンテージ(後編)

英国の大型高級車というと、走り出してしばらくは車体のあちこちが緩く感じられて、そんななかに乗り込んだドライバーもどうもすれば望まれない客のような気分になりがちだった。値段の高低だけではない分不相応さがそう思わせてしまうのか、と思いきや、しばらく走っているうちにどんどん馴染んでいく。しまいには温泉に浸かっているかのような心地よささえ覚えるに至る。実をいうとスタンダードのカリナンにはまだそんな風情が残っていた。ファントムがそうであったように。

けれどもブラックバッジは違う。走り出した瞬間に、あの巨体がうそのようにドライバーと融合する。アクセルを軽く踏めばクッと前進し、ハンドルを切ればスーッと曲がっていく。ごくごく自然に、躊躇うことなく。

客層がこれまでとまるで違うのだろう。「しばらく走れば、そうですね小一時間ほどで馴染んできますから」なんて悠長な謳い文句などまるで通じない相手を想定したに違いない。乗って数分も経てば、ボディサイズを忘れてしまうほど乗り手に馴染んでいるのだ。

それでいてスタンダード仕様の美徳であった“心地よい無音”空間もまた見事なまでに保たれた。張りつめた静けさではなく、暖かく柔らかな静けさだ。無味無臭ではない。旨い水のようである。

新たなユーザーが必ずしも昔ながらの静謐さを好むわけじゃない。RRはそのことも知っていた。シフトレバーにはlowというインディケーションがあり、これを操作するとV12エンジンの重低音が増す。スーパーカーの爆音とは明らかに異なる、けれども腹の底に響く迫力のサウンド。「バッソ・プロフォンド」(男性コーラスのバスパートで最も重い声を担当する)とRRがオシャレに名付けたエグゾーストシステムだ。

Rei.Hashimoto高速ドライブ。行きも帰りもあっという間の450km

ぶっ飛ばしてタイムレコードを作ったという話じゃない。所要時間はいつもとさほど変わらない(制限速度±1割でたんたんと走った方が疲れない、慌ててすっ飛んでも長距離ではさほど変わらないしロクなことが起きない、ということもこの9年で学んだ)。けれども精神的に早く着いた。異常なくらいに。

肉体的にも極めてラクだった。疲れがまるでない。目、肩、背、腰、膝、脚、どこにも不具合がみあたらなかった。京都に着いてすぐデスクに向かうことができたほどだ(普段は飲むか寝るかのどちらかだ)。ロールスロイスでなかったら(つまりは5千万円もしなければ)、東京往復用のGTとして速攻でオーダーしたいくらいのクルマだった。

何がそんなに良かったのか。“全てだ”という答がホンネだけれど、それじゃ話が進まない。幾つか特に素晴らしかった点を挙げておこう。

まずは視線の上下移動がほとんどない。それゆえノーズの右先端が視覚のある場所に定着するから、車線を乱すことがない。ボディの強靭さとアシ回りのデキの良さが、視界の高さと相まってトリプルで安定した走りに効いている。

次にパワートレーンだ。6.75リッターもあると日本の高速道路速度域ではほとんど回転数が上がらない。それでいて右アシへの食いつきが鋭いからクルーズから追い越しまで快適にこなす。

最期に思わず声を上げてしまうほどリッチで胸の空く加速フィールを挙げておこう。たんたんとしたクルーズに徹するとはいうものの、たまには性能を楽しみたくなるもの。そんなときのひと踏みがたまらなく素晴らしい。V12エンジンのサウンドがノーズの先で昂り、精緻なフィールが右アシ裏に伝わって、それらが実際の加速と見事なシンフォニーを奏でてくれる。

カリナン・ブラックバッジの加速フィールはもはやアートというべきだ。

Rei.Hashimoto街中ドライブ。真骨頂は日常生活の使い勝手

京都東インターまであと20分。いつもなら“今回も無事に帰ってこれた”と安堵のため息ひとつとともに、というタイミングで、“もうちょっと走っていたい”と思わせたのは、カリナン・ブラックバッジの前には同門のドーンとベントレーミュルザンヌくらいのものである(手が届かないという共通項もある)。

けれどもカリナン・ブラックバッジの真骨頂は“そこから”。高速道路を降りてから=日常生活でも使い勝手がいいことにこそあった。

ドーン(レイスやゴースト、ファントムも然り)やミュルザンヌは、ある意味古式ゆかしき超高級車ゆえに、毎日のアシとして使い倒すことに抵抗がある。勝手な思い込みかも知れないが、ドーンやレイスはできればハレの日にハレの場所への移動に使いたいし、ゴーストやファントム、ミュルザンヌといった最新のサルーンは“ショーファー”つきじゃなきゃ格好悪そうだ。借り物か運転手に見えてしまう怖れ大である。

その点、カリナンは全く新しいジャンルの超高級だ。世の中の人にまだ理解の及んでいないことは道中のサービスエリアなどでの視線から想像するに明らかだった。新参モノゆえの気軽さがカリナンにはある。たとえ目立つパープル色であっても!

実際に京都の街中を転がしていても、大きさをむやみに感じることはなかった。もっと小さいけれども丸こいSUVのほうがはるかに大きさを感じる。所作にダルなところもないので、想像する以上に扱いやすい。もちろんフツウの駐車場(例えばコインパーキング)に停めることは難しいのだけれども。

Rei.Hashimoto高級車のゆくえ。EVでもその魅力は失われないだろうが……

カリナン・ブラックバッジは今、新車で販売されているなかで最も完成度の高い乗用車である。値段が高いから当然というなかれ。このドライブフィールを実現したことに大きな意義があるというものだ。なにしろ言葉ではなく実際の最高を体験できるのだから。

高級車の性能や機能は今、変わりつつある。クルマを主とするパーソナルモビリティに大きなパラダイムシフトが起きつつあるのだから、高級車もその例外ではいられない。けれどもカリナンをドライブして20世紀的なクルマの魅力を否定する要素を見つけることはできなかった。むしろエンジンフィールやドライバビリティなど、それを極めた感さえあった。ロールス・ロイスこそ自動運転やEVに最も近しい存在だと思っていたというのに……。

もちろん、近い将来、RRがフル電動化してもブランドから魅力が失われることなどないだろう。よくできたクルマこそセルフドライビングに適している。その広い居住空間は移動の時間に変革をもたらす格好の場所にもなるはずだ。

それでも人はクルマを運転し続けたいと思うのではないか。RRの最新作はそれを決して否定したくなかったのだろう。

文・西川 淳 写真・橋本玲 編集・iconic

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