■6輪のうち後ろ4輪が駆動する「6×4」駆動
UDトラックス(以下UD)は2023年4月4日、大型トラック「クオン」のなかでもフラッグシップモデルにあたる大型トラクタの「クオンGW 6×4」を13年ぶりに復活させて発売した。トラクタとはトレーラーをけん引するためのトラックで、トラクタヘッドなどとも呼ばれる。重量物を載せたトレーラーをけん引するために優れた動力性能と高い操縦安定性が求められる。トレーラーを連結するカプラー部分は「第5輪」と呼ばれ、カプラー部分にかかる垂直方向の力の上限値を示す第5輪荷重は11.2トン~20トンで大型トラックのうちで最大クラス。連結車両総重量(GCW)は54.8トンから86トンにもおよび、これをけん引できるトラクタは、重トラクタや重量トラクタとも呼ばれる。トラクタの分野ではUDは伝統的に強く、この重トラクタクラスのシェアはUDがトップとなっている。
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クオンGWのGWは、3軸のトラクタの型式を指し、サブネーム的に付けられている「6×4」とは6輪(3軸)のうち、4輪(2軸)が駆動輪であることを示す。今回の場合はトラクタの後ろ側の2軸部分が駆動輪である。GWの重トラクタは、13年前にモデルラインアップの再編成により生産終了となったが、クオンGWを復活してほしいというユーザーからの声が多く、今回、復活したわけだ。
復活の背景にあるのは、近年、親会社の変更があったから。UDはもともと日本デイゼル工業として1935年に設立され、その後、日産自動車の傘下に入ると日産ディーゼル工業へ社名を変更。2007年にボルボに売却されて2010年に「UDトラックス」に社名を変更した。2020年にいすゞがボルボ・グループと戦略的提携に関する基本契約を締結したことで、いすゞ自動車がUDをボルボから買収。そのためUDが事実上の親会社となるいすゞと協業した製品の第1弾が、今回のクオンGW 6×4というわけである。
同時にいすゞもクオンGW 6×4のOEM車となる新型トラクタのギガを発売した。従来いすゞは中型トラック「フォワード」の広幅キャブ(キャブ=運転台、キャビン)をベースに、大型トラックのキャブを仕立てていた。そのため、他社の大型トラックに比べると、若干、キャブが小さかったが、新型ギガはクオンをベースにすることで他社同様のフルサイズのキャブが得られたわけで、UDを傘下に収めた効果が表れている。当然だがギガの生産もUDの上尾工場で行われる。先述のようにUD生産のギガは、クオンをベースに新しい顔を持つキャブを新作したことから、今後、バリエーションの拡大が見込まれる。
ちなみに、クオンGW 6×4の内外装はクオンのフラッグシップとして専用の仕様になっている。外観ではダーククロームメッキの専用グリル、シルバーメッキのヘキサゴングリルと3本のバー、左右ドアに装着される専用エンブレム、チンスポイラーを装着。内装ではブラック系の専用シートとブラックレザーステアリングホイールを標準装備としている。ギガの内装はブラウン系の専用色で、ギガには専用装備としてADB(アダプティブドライビングビーム)が装備されている。テレマティクスシステムはUDといすゞでそれぞれ専用となる。
■軽い操作力と外乱を伝えないアクティブステアリング
話題をクオンに戻そう。トラクタドライバーが重量物輸送で求めるのは、パワーと快適な操縦性と疲労の軽減だ。馬力に余裕があれば運転が楽なのは乗用車と同じで、高速道路の合流や登坂路を楽に走ることができれば疲れが少ないことはトラックでも同じ。そのためクオンGW 6×4は高出力、大トルクの直6ディーゼルGH13エンジンを採用。型式からもわかるように排気量が13Lにもなる大型エンジンで、最高出力は470馬力(最大トルク2346Nm)、490馬力(同2448Nm)、530馬力(同2601Nm)と3種類を設定。特に530馬力仕様はクラストップレベルの数値を誇る。ちなみに、ベースエンジンはボルボのD13系で、クオンGW 6×4自体がボルボ時代のノウハウが生かされたモデルだ。試乗会に展示されていたエンジンを見るとブロックには「MADE IN ITALY」の文字が刻まれ、インテークパイプなどには「MADE IN INDIA」の文字が見られた。
試乗は悪路から開始。試乗車はクオンGW 6×4のエアサスペンション仕様で、ヘッドのみでの走行だ。まず驚かされたのは波状路での走行。路面左右がくぼんでいるため車体が左右に大きく揺れるが、ステアリングに手を添えているだけでまっすぐ進み、サスペンションシートのおかげもあって波状路とは思えない優しい乗り心地。通常ならば外乱によってステアリングにキックバックが起こり、ステアリングをしっかりと保持するところだが、UDアクティブステアリング(クオンの4軸大型トラックCG系の後軸エアサス車などではオプションだが、GWでは標準装備)の効果で手を添えているだけで走ることができる。このアクティブステアリングもボルボFH系が採用するタイプと同じで、油圧パワーステアリングにモーターを組み合わせることで運転操作をアシストしてくれる。モーターの制御ユニットは、各種センサーから1秒間に約2000回の情報を得て運転環境を検知して、ステアリングの重さに適切なトルクを付加するという。積み荷や路面状況などに左右されないステアリング機構だ。
操舵感は極めて軽く、軽乗用車より操舵力がいらないほど。路面からのインフォメーションはほとんどなく、乗用車ばかりを舗装路で運転している筆者は心もとなくなるが、開発エンジニアに聞くと「ドライバーは仕事で運転するためなるべく疲れないほうが好まれます。悪路を長時間走る方もいるわけで、インフォメーションより軽いほうが好まれます。欧州のドライバーにはもっと軽いほうが好まれていて、ボルボFHはもっと軽い設定です」とのこと。クオンGW 6×4は国内のドライバーに試乗してもらい、これでも少し重めの設定だというから驚いてしまう。ボルボFHは車両設定で操舵力の設定を変えることができるが、クオンGW 6×4は変更できない。この操舵力の軽さは女性ドライバーにも喜ばれそうだ。
後輪4つが駆動するGW 6×4が威力を発揮するのが悪路での坂道発進。トラクタヘッドだけだと第5輪(カプラー)に垂直荷重がかからないためトラクションが得られにくいが、デコボコした坂でも一瞬トラクションコントロールが作動して難なく上ることができた。次は同じ場所でインパネ右側に付けられたスイッチでデフロックを作動させるとタイヤが空転することなく、あっさりと上る。6×4のためデフロックは前後別々に作動させることができ、試乗では前後をロックしたが、路面状況に合わせてデフロックを作動させることで、最大限のトラクションが得られるはずだ。
■12段電子制御式ATが素早い変速の「ESCOT-VII」に進化
次はオーバルの舗装路での走行。試乗車は積み荷20トンのトレーラーを連結したGW 6×4エアサス仕様で、連結車両総重量は40トン。発進するとすぐエアサスの効果がわかる。通常トレーラーをけん引していると発進時にトラクタヘッドがピッチング方向に揺れるのだが、まったく揺れないのだ。とても20トンの荷物を積載したトレーラーの発進ではなく、通常のトラックよりスムーズな感じだ。エアサスは車高調整機能があるためトレーラーの連結作業がラクで、第5輪荷重16トンと18トンクラスの国産車でリヤエアサスを設定するのは初めてとなる。
コースの路面には運転席側だけにデコボコの突起物が設置されていたが、悪路同様ステアリングを手で持たなくでもクルマは真っ直ぐに進み、ステアリングも動かない。さらに驚いたのはトレーラーが突起物を踏んでもヘッドの動きにまったく影響がなく、重いトレーラーをけん引していることを感じさせない。これはエアサスの効果でもあるが、連結装置のカプラーが通常は前後方向にだけ動くのだが、左右方向にも動くため揺れを感じないのだ。
アクセルをさらに踏んで加速すると、直6ディーゼルGH13エンジンの530馬力/2601Nmの実力を実感する。20トンの荷物を載せたトレーラーを引っ張っているとは思えないほど軽々と加速してくれる。これは新世代に進化した2ペダルの12段自動変速トランスミッション「ESCOT-VII(エスコット・セブン)」の効果もある。従来のESCOT-VI(シックス)より変速スピードがアップしたことで変速時の失速感がまるでなく、乗用車のようにスルスルと加速。あっという間に60km/hを超えると操舵力が少しだけ重くなった。パワステは速度感応式で60km/hを境に操舵力が切り替わる。
もちろんACC(追従クルーズコントロール)も装備し、UDでは「トラフィックアイクルーズ(車間距離制御装置)」と呼んでいる。追従走行では渋滞時に減速して完全に停車制御。乗用車と同様にステアリングスイッチで車速と車間距離変更が可能だ。前方車両との車間距離はフロントグリル下端、ナンバープレートの上方に付けられたミリ波レーダーで検知するため降雨時でも安定した作動が見込めそうだ。しかし、テストコースでは先行車がなく、天候もよかったためその実力を試すことはできなかった。
UDアクティブステアリングの真骨頂はLDP(車線逸脱抑制機能)。60km/h以上で走行中に走行車線から逸脱するとステアリングが自動的に動いて、元の車線に戻る。逸脱防止だがレーンキープに近い操舵感で、車線を超えると意外に素早い操舵で元のレーンに戻るが、トレーラー特有の揺れ戻しがなく安定していた。ただ気になったのは試乗時間が夕方だったため、LDPの効果を確かめるカーブ区間がちょうど西日で、逆光によってカメラが車線を読み取りにくかったのか、車線をはみ出しても作動しなかった場面があった。また、LDPが180秒以内に2回以上連続して介入し、ドライバーのステアリング操作が確認できないと警告音とポップアップ表示による警報が作動する。操舵判定はトルクセンシングタイプで、乗用車に普及しつつあるステアリングタッチセンサーではない。こうしたADAS(先進運転支援システム)は大いに有用性はあるが、あくまで補助のため、ドライバーがつねに気を配ることが必要だ。
■安心感の高いブレーキ性能
次は高速域からのブレーキングと補助ブレーキである流体式リターダーの効果を確かめる。まずはブレーキだが、GW 6×4は総輪ディスクブレーキが標準装備だ。乗用車では一般的なディスクブレーキだが、国産トラックやトラクタでは少数派。現在でもドラムブレーキが主流で、採用される理由はメンテナンスコストが抑えられるからだ。ドラムは摩擦材のシューが長持ちするため交換距離が長く、ディスクブレーキのパッドは一般的には交換距離が短いため物流会社は敬遠する傾向があった。
この発表試乗会でUDトラックス代表取締役社長 丸山浩二氏のコメントでも、自身が地方の販売を担当していたときにUDがディスクブレーキを採用すると聞いたとき最初は反対したそうだ。現場を知っているからこその反応だった。だが安全性を重視するとやはりディスク。耐フェード性が高いためクオンのような大型トラックやトラクタには相性がいいわけだ。トータルコストでもドラムブレーキと比較しても遜色ないレベルにあり、2017年の導入後もユーザーからの不満は聞こえてこないという。
さらにUDはクオンGW 6×4に大容量の流体式リターダーを採用している。流体式リターダーとは、プロペラシャフトとともに回転するローターをオイルで満たし、オイルの攪拌抵抗を利用して制動トルクを発生させる仕組みである(温度が上がるので水冷式になっている)。何とブレーキトルクはエンジンの最大トルクを上まわる3250Nmと超強力。
テストコースで高速域からリターダーをテスト。フットブレーキを踏まずにステアリングポスト左側に設けられたリターダーレバーを4段階の一番強力なポジジョンにすると、まるでフットブレーキを踏んでいるかのように強力に減速(リターダー+エンジンブレーキ)して停止寸前まで減速。フットブレーキを使う必要ないほど強力な減速が得られる。例えばトレーラーにとって難所の峠道として知られる長野県と群馬県を通る国道18号碓氷バイパス区間の下り坂では、フットブレーキを使うのは計算上5回だけでいいらしい。リターダーを使わなかった場合だと41回フットブレーキを踏む必要があるが、ほとんどフットブレーキを使わずに降坂できるためディスクブレーキのパッドの摩耗が少なくて済むわけだ。それにフェードしにくいため安全性も高い。
車庫入れ時の微速後退も12段電子制御式AT「ESCOT-VII」のよさが実感できる。トレーラーけん引時のバックはトラクタヘッドの動きがギクシャクしがちだが、GW 6×4は微速後退時でもトラクタヘッドのピッチングがない。これはトランスミッションの制御が緻密なのに加え、エアサスの効果も見逃せない。さらにアクティブステアリングの操舵が軽いためトレーラーを折り曲げる逆ハンドルから戻すことが遅れずに済むのがありがたい。また、ハンドルを大きく切ったときに自動的にステアリングが戻るセルフセンタリングが強力なのも電動アシストのステアリングらしい特徴だ。
坂道発進もトレーラーが苦手とする場面だが、乗用車と同様のヒルホールド機能があり、ブレーキペダルを放しても2秒間はブレーキが作動したままで後退を防いでくれる。そのままブレーキペダルを踏まないと自然に後退するが、2mほど下がるとまた自動的にブレーキが掛かるという安全性を重視した仕様。坂道での発進時から加速は極めてスムーズで駆動力の途切れ感がないため実際の加速も速い。
■ドライバー不足解消のために誰でも運転しやすいトラックを
大幅に性能がアップし快適性も向上したクオンGW 6×4は、いわゆる「2024年問題」を解決する可能性を秘めている。働き方改革関連法によって2024年4月からドライバーの年間時間外労働の上限が960時間に制限されるが、今でもドライバーは不足している。労働環境改善のための改革だが、労働時間が制限されることで収入が減少するため、新規のドライバーの就業者数が減少する可能性が指摘されている。だが、クオンGW 6×4のような扱いやすく快適性が高いトラクタが普及すれば、女性ドライバーが増えてドライバー不足の問題を解決できる可能性がある。
〈文=丸山 誠/写真=北村誠一郎〉
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2024年問題と関係ねぇ