■往時の東海道を偲びながらスーパーカーで旅する
(前編からの続き)江戸時代の旅人たちと同じように宿場町である鞠子宿に立ち寄った。ここは東海道五十三次で20番目の宿場町だ。実は、ぜひともここでランチをとりたかったのは、とろろ汁が名物なのである。子供の頃は大嫌いだったのに、25歳を過ぎてから大好きになったとろろ汁には眼がないのだ。
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歌川広重の「東海道五十三次・鞠子」で描かれている茶店「丁子屋」はあいにくと定休日だったが、他の店で美味なるとろろ汁ランチをいただくことができて満足した。
この辺りには江戸時代の宿場町の景観が保存されていて、次の岡部宿やその手前の宇津ノ谷などでGTを停め、往時を偲んだ。道幅が狭く、段差などもあるのでマクラーレンGTの取り扱いには要注意だ。リフトアップシステムを活用して、ノーズを地面に擦らないようにした。
前述のように、江戸時代のお伊勢参りは徒歩だったから江戸から2週間くらい歩いて向かった。でも、こちらはクルマだから夜までには伊勢に着きたい。何も考えなければ、ここから新東名に戻って名古屋経由で伊勢に向かうコースを取るところだが、それでは面白くない。
GTの特徴的な縦長のカーナビ画面とスマートフォンの地図アプリを交互に確かめていたら、グランドツーリングにふさわしい良いアイデアが閃いた。伊良子岬からフェリーに乗って、対岸の鳥羽港に渡る「伊勢湾フェリー」に乗るのである。
コロナ禍による自粛期間中にAmazonプライムビデオでハマって観ていた映画「次郎長三国志」の影響だ。三国というのは、駿河国、遠江国、三河国のことで、静岡県の中部、西部、愛知県東部を表しているから、まさにこの辺のことだ。森繁久弥演じる森の石松が船に乗る有名なシーンがあって、それと伊勢湾フェリーが重なった。
サイトを見ると、今から向かえばコロナで減便中の最終便に間に合いそうだ。途中に渋滞があって、ドキドキさせられたけれども、伊勢湾フェリースタッフの適切な対応もあって、無事に乗船することができた。
クルマの旅でフェリーに乗るのは楽しい。今までアスファルトの上を走ってきたのをちょっと休んで、クルマと一緒に海の上を行く。GTをフェリーの中央部分に停めて、階段でデッキに上がっていく。水平線の向こうに陽が傾き、ほどなくしてフェリーは伊良湖湾を離れた。幸にして天候に恵まれ、視界は開け、伊勢湾の潮風が心地良い。
■「GT」とはいえ、スーパースポーツとして一級品の走りとは?
1時間弱の乗船で、フェリーは鳥羽港に到着した。港からすぐ近くの伊勢志摩スカイラインへ急いだ。ここは何度か走ったことがあるワインディングロードだ。
と同時に、朝熊山の頂上付近にある金剛證寺は伊勢神宮の鬼門を守る奥の院としても知られ、お伊勢参りの際に参詣される名所なのである。
マクラーレンGTならば、朝熊山頂上の展望台まで一気だ。2速、3速、4速を駆使してコーナーをクリアしていく。走行モードは、「POWERTRAIN」も「HANDLING」も両方ともSPORTを選んだ。
マクラーレン各車の走行モードは、ふたつに分けて設定することができる。だから、さきほどまでの高速道路では、パワートレインをスポーツに、ハンドリングをコンフォートに設定していた。一般道では、両方ともコンフォートで、もうひとつ備わっているトラックモードはサーキット走行用なので使わなかった。
パワートレインをスポーツに設定すると、エンジンを各ギアで7500回転のレッドゾーンまで引っ張り、自動的なシフトアップを極力おこなわなくなる。フットブレーキを踏んだ時のシフトダウンも頻繁になり、状況によっては4速から2速へと1速飛ばしで落としたりする。
このスポーツモードでのフットブレーキによるシフトダウンのコントロール性の高さも、GTでは他のマクラーレン同様に素晴らしかった。強く踏めば瞬時に2速落ちるが、踏んでいる時間が長かったり、あるいはステアリングを切っていたりすると1速分だけだったり、変速しなかったりする。フットブレーキを踏む強さだけでなく、さまざまな要素をクルマ側が測定し、実行してくれている。疲れを知らない一流のレーシングドライバーに任せているようなものだ。
ハンドリングをスポーツモードにすることによって、コーナリングやブレーキング時の姿勢変化がさらに少なくなる。伊勢志摩スカイランのような、コーナーが連続し、傾斜も強いところでペースを上げて走るにはとても役に立った。
そうして登っていった朝熊山頂上の展望台からの眺めは格別だった。さっき上陸した鳥羽港やその沖の答志島、鳥羽市や伊勢市の街並みなどだけでなく、360度の視界が開けている。江戸時代にお伊勢参りに来た人たちもこの絶景に息を飲んだことだろう。
日本橋からここまで500km弱を運転してきた。そんな長距離を運転してきたと思えないほど負担や疲労が少ない。その理由は明らかだ。前述したプロアクティブ・ダンピング・コントロールを備えたサスペンションシステムが路面からのさまざまな入力を遮断し、スーパースポーツとしては異例に穏やかで快適な乗り心地を実現していることが、まず第一。
また、すべてのマクラーレンのスポーツカーの特徴となっている堅牢なカーボンファイバー製シャシ「モノセルII-T」が安定性に大きく寄与している。
5年前に、マクラーレン650Sで中国の西安から敦煌まで10日間あちこちを巡りながら約5000kmを運転しながら旅したことがあるけれども、あの時と同じ感触だ。
非常に軽く堅牢なシャシに賢くサスペンションを制御するプロアクティブ・ダンピング・コントロールが組み合わされることによってグランドツーリングを極上のものにしてくれる。もちろん、GTのそれは最新のものにアップデイトされ、スーパースポーツではなくグランドツアラー向きに最適化されている。車間距離を一定に保ちながら先行車に追従するACCや、車線内走行を保つLKASなどの運転支援デバイスを装着できたら、なお完璧だろう。
マクラーレンGTは、これまでのマクラーレンから少し趣向を変えたグランドツアラーに仕上がっていた。具体的には、荷物積載量を増やし、静粛性などの快適性を向上させている。ほかにありそうでない稀有な存在ともいえる。
今夜はホテルで休み、明朝、僕らも伊勢神宮にお参りすることにしよう。江戸時代の庶民にとって伊勢参りは一生に一度の夢だったけれども、幸い現代では何度でも来ることができる。次もまた、ぜひクルマで来てみたい。
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