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いまや絶滅危惧種の職人魂。つちやエンジニアリング流“GT500独自チューン”の妙技【スーパーGT驚愕メカ大全】

掲載 更新 8
いまや絶滅危惧種の職人魂。つちやエンジニアリング流“GT500独自チューン”の妙技【スーパーGT驚愕メカ大全】

 1994年に始まった全日本GT選手権(JGTC。現スーパーGT)では、幾多のテクノロジーが投入され、磨かれてきた。ライバルに打ち勝つため、ときには血の滲むような努力で新技術をものにし、またあるときには規定の裏をかきながら、さまざまな工夫を凝らしてきた歴史は、日本のGTレースにおけるひとつの醍醐味でもある。

 そんな創意工夫の数々を、ライター大串信氏の選定により不定期連載という形で振り返っていく。第8回となる今回は、これまでの「メーカーによる開発」から離れ、いちチームによる創意工夫をこらしたアイテムを振り返る。

1年でボツとなった野心的アイデア。02年型ニッサンGT-Rのラジエター移設大作戦【スーパーGT驚愕メカ大全】

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 近年のGT500クラスを戦う車両は、各メーカーの開発部門が開発してそれぞれ関係のあるサテライトチームに供給したものであり、基本は完成状態でデリバリーされてきてそのままの仕様で1シーズンを戦う。

 基本的なコンポーネントは公認部品となっていて、自由に改変することはできない規則になっているため、レースを現場で闘うチームは、自分たちの車両に独自の工夫やアイデアを盛り込んで「チューニング」することができない。できるのは、公認部品として供給される部品を交換したり、ブレーキやラジエターなどの空気口をガムテープで塞いで温度調節をしたりするくらいのものだ。

 本来モータースポーツは、ドライバーが車両を操って行なう速さ競争の一方で、その車両を開発しメンテナンスする技術者たちが小さいモノから大きなモノまでさまざまなアイデアをひねり出しては車両に改造を加え、少しでもパフォーマンスを高める「現場の技術競争」がふたつの柱として成立していたものだ。

 しかし近年はスーパーGTに限らず、コスト高騰や行きすぎた技術競争を防止し競技車両の安全性を保つことを目的に、技術の競争を極力抑制しよう、そのためには現場での開発はできるだけ避けようというのが世界的な流れになっている。

 スーパーGTでも以前は、供給された車両にチームが独自の改造を加えることが少なからず為されてはいたのだが、近年は基本、車両規則の中で許されている範囲であってもメーカーは供給先のチームが独自の改良を加えることを許していない。メーカー自身がこうした方針を打ち出しているのは、当初の基本仕様を守り開発熟成の方向性を保つためである。

 まだこうした方針が確立していなかった頃には、メーカーから供給された車両のロールケージに剛性面の問題を持つけだし独自の補強を加えたものの、それを見つけた供給元のメーカーからかなり厳しいクレームが来て、元に戻さざるを得ないというようなこともあったようだ。

 こうしていまやGT500を戦う各車両は、メーカー毎にほぼ同一の仕様でコースに現れる。だからといって、現場でレーシングカーを走らせる技術者たちは自分たちの発想や技術で少しでもレーシングカーを速く走らせたいと願っている人たちだ。その情熱は容易に消えるわけではない。

■つちやにとってはGT500も“素材”。風洞よりも経験を重視

 2000年からGT500クラスでスープラ、SC430を走らせていたつちやエンジニアリングは「何かやらなくては気がすまない」職人気質の集団だった。

 総帥の土屋春雄氏は、若き日からレースの現場で積み重ねてきたノウハウをツーリングカーのシャシーやエンジンに注ぎ込んではパフォーマンスを引き上げ戦い続けてきた。当然、GT500クラスの車両もつちやエンジニアリングにとっては「素材」であった。

 もっとも冒頭指摘したようにGT500では徐々に車両を供給するメーカーの意向が強くなり、試行錯誤の自由度はどんどん狭まっていった。ここではつちやエンジニアリングがGT500参戦時代終盤の2008年前後に繰り出した、ある意味「最後の独自アイテム」を紹介する。

 当時レクサスSC430を開発し供給するTRDにとって、こうしたチーム独自の改良は「面倒くさい」話ではあったかもしれないが、つちやSC430にはレース毎に何かしら独自の工夫が盛り込まれていたもので、現場技術の競争が好きなファンにとっては楽しみな「パフォーマンス」だった。

 あるレースでつちやエンジニアリングはボンネット上に開けられたラジエターアウトレットに、カバー状のフィンを追加してきた。これによりラジエターを通過した熱気の流れが変わってボンネット後方から排出されるようになり、空気はフロントのウインドウシールドを駆け上がるとルーフに沿って流れリヤウイングに流れ込んでリヤウイング効率を上げるはずだ、というのがつちやエンジニアリングの狙いであった。

 TRDは、ムービングベルト付きの大型風洞実験施設で検証した結果空力・冷却関連のデザインを決めてきたはずだが、風洞実験施設も持たないつちやエンジニアリングには、積み重ねてきた経験を通して何か違う空気の流れが脳味噌の中で見えていたということなのだろう。

■開発元のTRDをも唸らせたつちやエンジニアリングの職人技
 
 あるときは、非常に目立たない工夫ではあったがフロントフェンダーとバンパーの継ぎ目にアタッチメントを増設してフェンダーをわずかに膨らませるという改造を繰り出した。これはボディ外板で何かを起こそうとしたのではなく、タイヤハウス内部の容量を増やし、空気を流れやすくすることが狙いだった。

 当時のSC430はフロントリップスポイラー下面を少し持ち上げて空気を積極的にエンジンルーム床面に流し込み、床面に設置したフロントディフューザーを通して空気を車体側面へ引き抜くことでダウンフォースを生み出していた。その空気の流速をもっと上げてやればダウンフォースはもっと増える。それなら空気の流れを改善するためにタイヤハウス内側の空間を拡げて空気が流れやすくしてやろう、という発想である。

 話を聞いて注視しなければ違いを見落としてしまうような改造ではあったが、ドライバーが体感できる程度のダウンフォース増加があったというから、現場職人の発想はあなどれない。

 その他にもこの時代のつちやエンジニアリングは、フロントのリップスポイラー両端にサイドフィンを立てるなど細かい工夫も行なっている。

 また、TRDは純正でリヤウイングステーの間を繋いでステーの剛性を上げるためのクロスバーをシーズン途中で各チームに供給したが、つちやエンジニアリングはわざわざほぼ同じ形状のクロスバーを自製して「少し軽いモノ」を使っていたこともあった。職人の情熱ここにありという対応である。

 こうしたつちやエンジニアリングの工夫について、車両を開発供給するTRDは興味深く眺めていたようで、当時のTRDの担当者は「彼らは、土屋(春雄)さんの創意と工夫があふれたクルマ作りをしていて、TRDが思いつかないようなアイデアを提案してくれます」と肯定的な感想を述べていた。

 しかし近年は、レギュレーションが創意工夫を制限する方向に進んだこともあって、基本的にチーム独自の改変は許されてはいないようだ。

 その結果、近年ではこうした現場の創意工夫いわゆる職人技は、JAF-GT300クラスの車両でわずかに見られるくらいで、クラス1規則を採用するGT500クラス、GT3クラスにおける現場での作業は公認パーツの交換だけとなってしまった。「自動車レース」の魅力が若干ながら薄まっているように感じるのが少々残念ではある。

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みんなのコメント

8件
  • GT3規格によって、お金を出せばある程度の速さを持つ車両を手に入れる事ができるようになった。
    レースの敷居は下がったが、職人達の腕の見せ場が無くなった。
    今のレースは昔ながらのレース屋さん達は面白くないだろうな。
  • 確かにイコールコンディションも必要かもしれないがトップカテゴリーは派手なの見たいよね。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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