連覇、そして自身3勝目を目指して2021年のインディ500に挑む佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン)。いよいよ18日(火)から、伝統のオーバルコースでの走行セッションがスタートする。
その前日の17日、佐藤はオンラインでの取材に応じた。この中で佐藤は、ゴルフのマスターズに日本人として初めて優勝した松山英樹や、メジャーリーグの大谷翔平らの活躍から、大いに元気付けられていると語った。
■佐藤琢磨、インディ500連覇を目指して……「世界で戦う日本人のひとりとして、全力を尽くす」
今季からはF1の角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)、FIA F3の岩佐歩夢(ハイテック)と、佐藤の後輩・教え子とも言えるドライバーが、ヨーロッパでの新たなチャレンジを始めている。しかしふたりはここまで、厳しいシーズン序盤戦を強いられている。
自身の活躍によって、ふたりの若いドライバーに何かを伝えられるのではないか? そう尋ねると、佐藤は次のように語った。
「いや、自分も苦労しているんで……今年はふた桁順位が多すぎますからね」
佐藤は今季ここまで、5戦中3戦でふた桁順位でのフィニッシュ。最高位は第2戦セント・ピーターズバーグの6位で、ドライバーズランキング12番手に留まっている。
「戦略や不運といった問題もあるんですが、結果が出せていないのにはフラストレーションが溜まっています」
「常に気力を強く持ち続けるのは大変です。2~3戦ならすぐに流れを変えることができますが、それがずっと長く続いてしまうと、そこから抜け出すのは心理的にも難しくなります。ただモータースポーツは、マシンを使うスポーツであり、チームスポーツである以上、うまくいかないのには必ず科学的な理由があります。そこをチーム一丸になって見つけて、改善していくことに全力を注げば、必ず結果は出ると信じています」
「インディ500は大きな転換期になります。僕は良い流れでは来れていないですが、その原因も分かっていますし、ポジティブな部分もある。それを最大限に活かして、プラクティスから流れを変えていきたいですね」
そう自身のことを踏まえ、佐藤は角田と岩佐が置かれている状況について語った。
「角田選手にしても、岩佐選手にしても、初めてのシーズン・体験で大変だと思います。あの世界は慣れるだけでも大変ですから」
佐藤は現在、インディカー・シリーズに参戦する傍ら、鈴鹿サーキット・レーシングスクール(SRS)のプレジデントを務めている。角田は佐藤がプレジデントに就任する前このSRSを卒業し、F1まで辿り着いたドライバーである。
「角田選手は色々なプレッシャーも感じていると思いますが、まだ1年目です。僕のF1での1年目は酷かった……鈴鹿に戻ってきてようやく、F1で始めて良いレースができたと思ったくらいでした。だから角田選手はまだまだこれからだと思います」
「チームという面を考えても、1年目としては最高の環境でやれていると思います。アルファタウリは元を辿ればミナルディですし、ドライバーを中心に一緒になっていくという雰囲気です。僕も名前がトロロッソだった頃にこのチームでテストしましたが、今もその頃と同じような雰囲気だと思います。レッドブルが関わるようになって厳しい側面もあると思いますが、自分を信じて、スタッフを信じてやっていってもらいたいと思います」
一方岩佐に関しては、佐藤琢磨体制となったSRSの最初の卒業生。佐藤にとっては教え子とも言え、今も細かく連絡を取り合っているという。
「岩佐選手とは、毎レースごとにLINEでやりとりしています。しかし、FIA F3にはジュニアカテゴリー独特の難しさがあるようです。まだまだドライバー中心にはなっていません」
「チームのこれまでのやり方を変えさせるのは難しい。自分のやりたい方向に変えていくためには、それをチームに納得させる要素が必要になります。それが、さっきも言った”科学的根拠”ですよね。岩佐選手とは、そのことについて話しました」
今季のFIA F3は、F1スペインGPの併催として開幕し、そのレース2で岩佐は7位になった。ただレース1では14位、レース3では15位と、入賞には届かなかった。
「ハイテックは、練習走行では良いんですが、予選以降はダメだと。そのためドライバーがプレッシャーを感じてしまい、攻めた走りができていないんです。そのためハイテックは、先日ヘレスで行なわれたテストで、”予選の練習”というプログラムと立てたと……でもそうじゃないんですよ。やっぱりクルマに自信を持てていなかったら、予選で思い切りいけないんです」
そういう状況に置かれている岩佐にアドバイスしたところ、すぐにその効果が現れたようだ。
「岩佐選手は、やってみたいことがあるのに、チームには『それはやる必要ない』と言われてしまったと言っていました。だからそこは科学的に考えて、こういう挙動だからこうしたい……テストだからこそやってみたいと言ってみるといい……とアドバイスしました。すると翌日のテストではトップタイムを記録してきましたから、面白いです」
「彼はすごく知的だし、静かな中に熱いモノも持っている……そして冷静に判断する力も持っている。珍しいドライバーだと思っています。SRSにいた時から、彼はすぐに海外に行かせたいと思ったので、すぐフランスF4に参戦することになったんですが、その経験が活かされ、知らない環境の中で自分をうまく作っていくということができるようになった気がしています」
「今は少し躓いてしまっていますが、シーズン中盤以降メキメキと力を発揮してくれる、そんな期待を持って見守っていきたいと思います」
角田や岩佐のような若いドライバーたちの存在から、逆に力をもらっていると感じることはあるのか? そう尋ねると、佐藤は次のように語った。
「角田選手のパフォーマンス、F2時代に見せた巧さと鋭さは、僕らドライバーから見ても、やっぱりすごいと思います。若さもありますしね。インディカーにも、10代のドライバーもいますし、そういうドライバーが特に最近は頭角を現してきている。そういう中で走るというのは、すごく刺激があります。自分もまだまだここで踏ん張って、頑張っていかなきゃと思います」
佐藤がイギリスF3で活躍していた当時、ヨーロッパ各国のF3を日本人ドライバーたちが席巻した。2001年、イギリスF3で佐藤が、ドイツF3で金石年弘が、フランスF3で福田良が、それぞれチャンピオンを獲得したのだ。その時のことも引き合いに出し、佐藤は次のように締め括った。
「海外で戦う(日本人)ドライバーは全員、僕がイギリスF3を戦っていた時もそうでしたけど、お互いがライバルであると言えます。だから今も、ポジティブな形で、お互いに刺激し合っていきたいと思っています」
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