■発想の転換! 車両輸送専用貨車から汎用コンテナの活用へ
日本国内で販売される新車(完成車)を運ぶ手段において、鉄道輸送のシェアは高くありません。そんななかで、三菱自動車工業(以下、三菱)とダイハツ工業(以下、ダイハツ)は、新車の軽自動車の一部を鉄道で輸送しているといいます。
その方法はなんと、コンパクトな鉄道コンテナを活用するというもの。ではどのようにしてコンテナで軽自動車を運んでいるのでしょうか。
【画像】コンテナに「軽」!? なんかカワイイ積載方法を写真で見る(27枚)
現代における新車の輸送は、積載車による陸上輸送や、船による海上輸送が主ですが、近年は生産拠点の集約化や輸送効率の向上、トラックドライバー不足の解消、CO2削減などを推進するために、環境負荷が少なく、一度で大量に運べる鉄道輸送にシフト(モーダルシフト)する企業も多く見られます。
例えばクルマ用のパーツ輸送では、トヨタが名古屋南貨物駅(名古屋臨港鉄道)から盛岡貨物ターミナル駅(JR貨物)間で「TOYOTA LONGPASS EXPRESS(トヨタ・ロングパス・エクスプレス)」という貨物列車を走らせているほか、2023年4月からは、スズキも一部の部品輸送を鉄道にシフトを開始しています。
このように自動車部品に関する鉄道輸送は脚光を浴びつつありますが、かつては、新車自体も鉄道輸送が行われていました。
ピークを記録した1972年には、国内の乗用車生産台数のうち3割にあたる約80万台が、「車運車(ク)」と呼ばれる車両輸送専用の貨車を用いて運ばれていたのです。
その後、国内の港や高速道路整備が進む一方で、鉄道での新車輸送が下火となる中、1990年代からは様々な自動車輸送用コンテナが開発・実用化され、新車の輸送も行われましたが、2010年頃にはそれも終了してしまいました。
ところが現在でも、一部のメーカーが鉄道による新車輸送を行っています。それが、三菱とダイハツの軽自動車輸送です。
三菱では1996年5月から、同社水島製作所(岡山県倉敷市)で生産された新潟地区販社向けの軽自動車(主に「eK」シリーズ)について、倉敷貨物ターミナル駅(水島臨海鉄道)から新潟貨物ターミナル駅(JR貨物)間で鉄道輸送を開始しており、2023年現在で27年という長い歴史を持ちます。
三菱の担当者によると、鉄道利用はモーダルシフト(環境負荷の低い物流への転換)による環境配慮型輸送が目的だと説明します。
そのメリットは環境負荷の軽減に留まらず、長距離陸上輸送の代替輸送能力確保、輸送リードタイムの短縮などがあるといいます。
現在は、貨物輸送開始当時よりもさらに環境負荷低減や物流の効率化が叫ばれるようになったため、まさに時代が追いついた輸送方法と言えるでしょう。
三菱の鉄道による軽自動車輸送は、当初大きめのコンテナに4台の軽自動車を積むことができる「UV42A」コンテナで運んでいましたが、その直後に軽自動車の車体サイズなどが規格変更を受け大型化。UV42Aへの積載が不可能となり、12フィート・5t積みタイプの汎用コンテナ(「19D」など)を使用するようになりました。
この場合、軽自動車を専用パレットに載せ、フォークリフトによってひとつのコンテナの中に1台ずつ積み込まれます。ちなみにコンテナ貨車(コキ)1両あたり、最大5個の12フィートコンテナを積載できます。
なお倉敷貨物ターミナル駅には、新車の整備や点検・オプションの装着などを行う三菱の施設も併設されています。
■「マイカー」時代の到来とともに1960年代に急速な発展を遂げた鉄道貨物「車運車」
一方のダイハツは、グループ全体の物流で排出されるCO2の総量を、2035年までに10%削減することを目指し、様々な取り組みをスタートしています。
鉄道輸送もそのひとつですが、こちらも三菱と同時期の1996年頃より、京都貨物駅(梅小路・JR貨物)から新潟貨物ターミナル駅(JR貨物)間で取り組みを開始していました。
三菱の軽自動車輸送と同じく、12フィート汎用コンテナ内に軽自動車+パレットを収めていたのですが、2018年には、パレットとフォークリフトを用いずに、自走でコンテナ内に積むための専用固定具を開発。積み込みを簡素化したことによって、鉄道輸送路線の拡大が可能となりました。
現在では福岡貨物ターミナル(JR貨物)から新潟貨物ターミナル駅(JR貨物)間をはじめ、北九州貨物ターミナル駅(JR貨物)を起点に富山貨物駅(JR貨物)、北長野駅(JR貨物・しなの鉄道)、南松本駅(JR東日本・JR貨物)、金沢駅(JR西日本・IRいしかわ鉄道)間の計6区間で、軽自動車の鉄道コンテナ輸送が実施されています。
ダイハツによると、今後も継続して新規路線を開拓していくといい、さらなる路線展開があるかもしれません。
軽自動車輸送の場合、クルマが汎用の12フィートコンテナに入り、輸送にかかわる大きな新規開発や関連施設整備が不要だったことが輸送量の増加につながりました。
近年の鉄道貨物は、貨物ターミナル駅でのトラック積み替えが容易なコンテナ輸送が中心となっており、ここに鉄道輸送普及のカギがあるように思います。
2022年5月に三菱ふそうが、鉄道を利用したトラック輸送を行うと発表していますが、このプランでも、初期コストがかかる専用貨車開発ではなく、既存のコンテナや貨車の活用、もしくは小改造して使用することが予想されます。
なお同社によると、「貨物1tを1km運搬する際のCO2排出量」は、営業用トラックが225gなのに対し、船舶は41g、鉄道はわずか18gのみとのこと。
輸送時の大幅なCO2削減を実現するため、見直しの機運高まるクルマの鉄道輸送。今後の動向に目が離せません。
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