この記事をまとめると
■シルビアの復活を熱望する声がSNSで話題になった
モータージャーナリスト夫婦が乗って触って結論! ルノー グランカングー vs 日産セレナで休日の主役になるのはドッチ?
■現実問題を考えると今の日産にシルビアを復活させることは難しい
■中途半端なクルマになるくらいなら復活させないほうがよさそうだ
シルビアは本当に復活できるクルマなのか?
筆者は俗にいうZ世代ではないのだが、一応それに限りなく近い世代ではある。そのため、普段からSNSにはひと通り目を通して、なんとなく世のなかの動向をリアルタイムで追っているつもりだ。しかしこのSNSというのは、自身が興味のあるカテゴリーばかり見る傾向にあるので、情報量としてはクルマやそのほか趣味の方面が圧倒的に多い。なので、自ずとクルマ関係の話題が目に入ってくるわけで……。
そこで最近見た話題で、少し気になるネタがあった。それが「シルビアの復活」に関する投稿だ。最近のSNSはその人(ユーザー)の好みに合わせて投稿が調整される傾向にあるので、「クルマは好きだけどそんなの見てねーよ!」という人ももちろんいるかもしれないが、少なくとも筆者の周辺ではそういった話題が盛り上がっていた。
とくにそこで物申すことはないので、「盛り上がってんな~」くらいにしか思っていなかったが、実際シルビアは復活できる可能性はあるのだろうか? ギョーカイの端くれのさらに端くれに位置する小僧なりに少し考えてみた。
ちなみにシルビアというクルマは、この記事を開いている人にとってはもう説明不要だと思うが、簡単に解説するのであれば、日産が1965年から2002年まで、じつに7世代に渡って販売していたスペシャリティクーペだ。ただここでいう復活論が巻き起こっているのは5代目~7代目までの、いわゆるS13~15までのモデルだろう。間違っても「手作業で作られたクリスプカットが美しい初代を~」とかではないはずだ。
そんなS13~S15までのシルビアは、なんといっても1990年代~2000年代初頭におけるドリフトブームの主役的マシンで、猫も杓子もとにかくシルビア、もしくは姉妹車である180SXが大流行。モータースポーツのシーンでも多用されていた。
この背景には、新車価格がS13であれば約160万円~250万円、S14であれば約160万円~270万円、S15は約200万円~260万円と、今の基準で見ればとにかく半端なく安かったことが挙げられる。しかも当時は5年も10年も乗った国産車なぞ、余程の人気モデルでもなければ下取り価格はタダ同然なんてのも珍しくなかった。「下取り5万円!? なら知り合いに30万で売るわ!」といった光景もよくあった。
となれば、仮に30万で知り合いから買った人は、がめつい人でなければ手放す際に知人に、「これ飽きたから15万で買わない?」となり、次の人は「5万円でどう?」、最終的には「遠い先輩が乗ってたシルビア、これもうボロいからあげるわ。これでドリフトでも練習しな」みたいな感じになるわけだ。
そんなこんなで、格安マシンを改造したりする文化も広がったので、チューニング文化も活性化。シルビアは走り屋小僧たちの愛機となったわけだ。もちろん同じような流れでスカイライン(タイプMなど)や、シビック、少しお金に余裕がある人はGT-Rやスープラとなったわけだが、話し出すと収拾がつかなくなるのでこの件はまたいつか。
しかし、燃費対策や排ガス規制によりS15が販売されていた21世紀初頭は、まさにスポーツカー氷河期。「コストをかけてこんなスポーツクーペを作るまでもない」ということもあり、シルビアの血統は2002年のS15で絶たれた。その後も「燃費が悪くて古くてあんまり速くない」ということで、シルビアは数十万円でゴロゴロ転がっていたが、2020年前後からの世界的なネオクラシックカーブームにより、シルビアの相場は高騰を超えて爆高。最低でも150万円前後、走行距離不明、それもNAエンジンのAT、事故歴ありみたいなヤバい物件からが入口という異常事態になった。お金にならない以上、ドリフトなどで酷使され、使い捨てのように使われたクルマばかりなので、今では状態のいい物件は希少車扱いなのだ。
そんな世のなかになれば、窮地に立っているにもかかわらず健気に応援する日産ファンたちは「シルビアを出してくれ!」となるのも無理はない。人間はないものねだりをする生き物だからだ。しかも、隣の芝は青く見えるかの如く、トヨタのGR86(86)やスバルのBRZ、マツダのロードスターなどはコンスタントに売れている。シビックタイプRもヒット中だ。置いてけぼりの日産ファンが、令和のシルビアを欲しがるのも無理はない。
ただ実際問題、シルビアの復活は実現可能なのだろうか?
ファンの声とマーケティングは別問題
まず、クルマの骨格となるプラットフォームから見ていきたい。シルビアというのだから、さすがにFRで作らないと大炎上は間違いない。間違ってもFFで作った日には即終了。では、日産にFRのプラットフォームがあるのか? パッと思いつくのはやはりフェアレディZ(RZ34)やスカイライン(V37系)に使われているFR-Lプラットフォームだろう。2001年から25年も使われているのにも驚きだが、さすがにこれは大きすぎる。直列4気筒のコンパクトなエンジンにFR駆動というシンプルなパッケージを求めている層には不向きだろう。
もちろん、これをベースに切った貼ったをすれば不可能ではないが、きっと「もとが2001年の骨格じゃん!」とかいう人もきっと出てくるので、マーケティング上なんともいえなさそうだ。GT-R用のPMプラットフォームなんてのも最近まであったが、これも大きいしそもそも4WD用であるし、シルビアのキャラを考えたらオーバースペックだろう。
心臓部であるエンジンはどうだろう。残念ながら、直列4気筒のエンジンはあるがどれもスポーツ向けのエンジンかといわれると難しい。FR駆動のフェアレディZやスカイライン用にV6エンジンがあるが、「ならZでいいじゃん」となるのでこれを使うのも現実味がない。しかし、FFに使われているエンジンの搭載向きを変えればFRに流用可能なことも多い。アライアンスを組んでいるルノーのメガーヌR.S.などに搭載されていたM5Pエンジンのベースである、MRA8DEエンジンなんかがまだ使えるなら、1.8リッターだがこれはかなりいい相性かもしれない。
なお、間違っても「電気の日産」とかいってEVで出した日には大炎上待ったなし。e-POWERもシルビアを欲しがっている層には刺さらないだろう。
実際、S13などのシルビアに搭載されていたCAエンジンやSRエンジンは、当時の日産における大衆車向けエンジンであり、特別なモノではなかったので次期シルビアを作るとするなら、一般的なHRエンジンをなんとかすれば使えそうだ。エクストレイルに搭載されて話題になった、可変圧縮技術を使ったVCターボは耐久性の面で難があると関係者から聞いたことがあるので、話題性としては申し分ないが、相当に詰めないと、こちらはスポーツカーには使えないだろう。トランスミッションはおそらく釜(ケース)をなんとかすればどうにでもなるので、この件は心配いらなそうだ。
ボディのデザインやインパネのデザインはどうにでもなるので、ここでは省略する。
では、実際にこんな感じでパーツを寄せ集めて、本当にシルビアは作れるのだろうか? 結論からいうと、現在の日産の体力では、かなり厳しいだろう。新車1台の開発費というのは、俗に1000億円以上といわれている。日産は2026年3月期に5000億円以上の赤字を出したことで話題になった。新車の開発はその5分の1もの費用が掛かる。
「シルビアが欲しい!」といっている層はネット上ではかなりいるようだが、「そもそも彼らが本当に買うのか?」というのが、メーカーが1番不安視しているところだ。「こういうクルマが欲しい!」といわれてメーカーが応えて世に出した結果、きっと受け入れられた数より裏切られた数のほうが相当多いだろう。とある輸入車のMTモデルも、日本のファンが熱望した結果入れたのに、大量在庫を抱える羽目になったという話も聞いたことがある。おそらく、最低限でも上記のようなことをやって、シルビアを復活させたとして、採算を取るとしたら一体新車価格はいくらになるのだろうか……?
R35GT-RやフェアレディZ(RZ34)の開発主査を務めた田村宏志氏は、「シルビアは復活できないんですか?」というファンからの問いに対して「シルビアを欲しがっている人は、本当に出たらそのシルビアを買うんですかね……? 昔の200~300万円みたいな価格は厳しいですよ……? 声は多いですけど、それがそのまま消費者にはならないですからね」と疑問を呈していたこともある。
少なくとも、S13のころのように200万円前後で出すことは現状ほぼ100%無理だろう。軽自動車ですらそのラインからスタートなのだから、いくら装備を簡素化しても現実的ではない。さらに、世の中から電動化を求められている自動車メーカーの立場的には、現状では純ガソリンのFRスポーツの復活はかなりハードルが高い。
仮に、あの手この手でなんとか300万円以下で次期シルビアを強引に作ったとして、欲しがっていたファンは本当にそれを理想のシルビアとして受け入れるのだろうか?
一時期、東京モーターショーで発表されたコンセプトモデル、「IDx」は「シルビアの再来だ!」ともいわれていたが、これがみんなが望むS13~S15が持つ薄くて平たいクーペなのかというとちょっと怪しい。どちらかというと初代シルビアのようにも感じる。もしこれが今、再度復活したとてシルビアではないだろう。
一方で、GR86やBRZが売れまくっているのは、トヨタという一大ブランドによる緻密な戦略とモリゾウこと豊田章男氏によるブランディング力、そしてメーカーの体力があるからこそできる思い切った価格設定にある。トヨタでさえ、スバルと組んで86を作った背景には、「スポーツカーなんてニッチなもの、共同でやらないとコスト的に危なかったから、使えるものは流用した」という大前提があったのだ。ロードスターが売れているのも、ロードスターという1989年の誕生以来絶えることのない、圧倒的信頼性とブランド力があるからにほかならない。S15の生産終了から25年を迎えようとしているだけに、途切れた血統の溝は想像以上に大きい。
もちろん、ひとりのクルマ好きとしてシルビアが復活してくれたら当然嬉しい。しかし、中途半端な姿で出てきたり、それこそフェアレディZ並かそれ以上の価格で出てきたら、それはそれで、「凄いけどなんか違う」という感想になるだろう。現在販売されている、現行型のシビックタイプRでさえ、かなり売れている一方でまだまだ「こんなのシビックじゃない!」という声も少なくない(いい加減受け入れて欲しいが……笑)。
安価で楽しいピュアFRスポーツとして一世を風靡したシルビアの伝説は、そっとしておいたほうが全クルマ好きにとって1番幸せなのかもしれない。クルマ作りはボランティアではないのだ。とはいえ、もし密かに開発が進んでいたら、それはそれで楽しみであるが果たして……!?
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