この記事をまとめると
■日本にはCVTしかないWRXの「MT仕様」に豪州で乗った
「乗りたい……」日本のスバリストが涙! 喉から手が出るほどほしい「国内未導入」のスバル車3選
■試乗車はWRX S4 tS Bスペックというスパルタンなグレード
■右ハンドルということもあり日本に導入してほしいクルマだった
EJ20とはまた違う「低速トルク」が豊富なエンジン
ここ数年、ホントに円が安いというか弱い。「円安」というは易しだが、それは賃上げとか国内問題でどうこうというより、とりもなさず日本円で生活する我々の購買力がひたすら弱くなっているということ。だから今年初頭、北米やオーストラリア市場においてスバルWRXに6速MT仕様が登場した、そんな報せを聞いて臍を噛む思いをしたスバリスト&予備軍は少なくないのではないか。群馬産なのに、贔屓筋もいるけど煩さ方がひしめく国内市場をひとまずスルーして、海外の需要から応じていくという事情は、多少わからなくもない……。
そこで今回は、日本と同じ左側通行・右ハンドルのオーストラリアで、そのステアリングを握るべく、ニューサウスウェールズ州シドニーへと試乗取材に向かった。飛行機で9~10時間となかなかに遠い国のはずだが、時差は±1時間とあって、この円安のご時世、2泊3日の弾丸出張というピュアきわまりない日程で。
シドニー郊外のガレージで対面した試乗車両は、より正確には「スバルWRX S4 tS Bスペック」と呼ばれる仕様。全長4670×全幅1825×全高1465mmというボディ外寸は、既存のCVT仕様とまったく同様ながら、大型リヤスポイラーを備えている。ホイールは専用19インチでポテンザS007と組み合わされ、その奥、ブレーキにはダークなオレンジ色のブレンボの4ポットキャリパー&ドリルドディスクがおごられる。国内の売れ筋グレードである「STIスポーツR」が公道での操安性や乗り心地を重視しているのに対し、こちらtS BスペックMT仕様はサーキットも視野に入れた、スパルタン仕様であることを主張する。
とはいえ搭載されるパワーユニットは、当然ながら4気筒2.4リッターのボクサーエンジンで、その最高出力は275馬力/5600rpmと、日本仕様と変わらない。ただし今回のオーストラリア仕様のスペックシートによれば、CVT仕様でも試乗車のMT仕様でも最大トルクは350Nm/2000-5200rpmとアナウンスされており、日本仕様の375Nm/2000-4800rpmよりもマイナス25Nmほど絞られているが、トルクをプラス400rpmほど高回転寄りまで維持する設定になっている。これはおそらく、エンジンの味つけ云々より、仕向け地の法規制に沿ったためにそうなっている、的な違いだろう。
外観をひとまわり観察したあとは、インテリアに移ってみる。起毛素材、つまりウルトラスエードの黒を基調としつつも、赤ステッチに彩られた内装は、決して狭くはないがスパルタンな雰囲気を醸し出す。レカロシートの赤ステッチ&黒ウルトラスエードというトリム自体、「R-ブラック・リミテッド」と共通ではあるが、助手席の目の前のダッシュボードを覆うウルトラスエードには、「WRX」という赤いロゴ刺繍が施されている。
当然のことだが、大きく異なるのはセンタートンネル上の様子ならびに操作系だ。シフトコンソール上は柔らかなブラックレザーで丁寧に覆われ、縦に赤ステッチがかかっている。シフトレバーはニュートラル位置で少し左に寄っていて、1-2速、3-4速、5-6速が往復となるHパターンの6速仕様で、リバースは手前側にすくい上げ式だ。さらにドライバー側の手前には、引いてくれといわんばかりの配置で、レバー式サイドブレーキが備わっている。やや左寄りオフセットが右ハンドル仕様として気になるかもしれないが、オーナーじゃなくてMT好きならニヤリとしてしまう、お手本のような配置といえるだろう。
ちなみにドリンクホルダーも、CVT仕様のような左右並列ではなく、小物トレイを挟んで後方寄り配置で、前後方向に2本差しだ。
クラッチを踏み込んでエンジンスタートのボタンを押すと、車内が低くくぐもったボクサーエンジン特有のアイドリング音に包まれる。軽過ぎず重過ぎずのクラッチペダルの反発を足裏に感じながら、筆者としては久々のクラッチミートを敢行した。スバルの4ドア・ボディのMT仕様とあって、古い記憶で低回転域でトルクの細かったEJ系の感覚を思い描いていたら、いい意味で肩透かしにあった。3名乗車でアイドリング近くから繋いだにもかかわらず、呆気ないほどスルスルと滑らかにWRXは進み始めた。
まだ慣れないシドニー市内の道は、そこかしこに緩やかな丘が少なからずで、坂道発進の機会も多いのだが、オートホールドも利く。これなら初心者やMTにブランクのあるドライバーでも難なく入っていけて、扱いやすいことは確実だ。
どんなシーンでもMTで操ることが楽しめる最高の仕上がり
かくして市街地を抜けて、バイパスから高速道路、郊外路にワインディングまで、WRX S4の走りの資質を、コキコキとMTを操作を通じて全身で再発見する、刺激的な体験を2日間近く、楽しんだ。その結論からいえば、WRXのMT仕様は単なるラリースペック公道車ではなく、4ドア・セダンの実用性を備えた良質の、しかし趣味性の高いドライバーズカーだった。
というのもFA型ボクサーエンジンにMTの組み合わせは、ノッキングや駆動系の揺れをほぼ感じさせず、いかにも現代的で細やかな燃焼制御やマウント剛性の高さが、ひと昔前のMT車とは段違いの解像度を、手もとや身体に返してくる。しかもビッグボア特有の低回転域から心地よいビート感、加えてショートストロークらしいパンチの効いた吹き上がりをも味わえる。「フロアシフトMT」の実用車として模範的なアップデート感、突き抜けぶりだ。
スポーツカーのセンターコンソールのようにヒジに近い高さで、コキコキと手首のスナップだけで軽快に扱えるMTではないのだが、また頻度の高い2‐3速間が往復で済むようなシフトパターンでもない。だがシフトストロークの手応えと節度感が絶妙で、1-2速のゲートはドライバーから遠いのだが、ゴクリと吸い込まれるような摺動感を伴って確実に入るタイプ。最終減速比も全体的にクロースしたギヤレシオもやや低めで、発進してしまえば市街地走行はほぼ3速ホールドでもこなせてしまう。それでいて混み合う高速道路を6速で巡航中も、アクセル踏み込みに対するピックアップは鈍くない。普段走りでは適度な鷹揚さでありながら、スポーツ走行したいときはいきなり俊敏になる、そんな絶妙の塩梅なのだ。
だから郊外路に出ると、ステージの広さに応じてSTIが掲げる「強靭でしなやかな走り」が、より鮮烈に表われてくる。5種類(コンフォート/ノーマル/スポーツ/スポーツ+/インディヴィジュアル)のドライブモードを切り替えながら、WRXの可変シャシーをMTで操る躍動感には並々ならぬものがある。ステアリングやペダル操作に応じた姿勢の変化や駆動の反応は、スポーツ+で当然もっとも速まるが、コンフォートでも中回転域、3500rpm辺りからブースト圧の高まりとともにステンレスの4本出しマフラーが、バリトンのエキゾーストを伸びやかに奏でる。
STIがチューニングを手がけた電子制御ダンパーは、コンフォート/ノーマル/スポーツの3段階で減衰力が変わる。いずれもストローク感はあるがロール量は少なめで、乗り心地は硬質といえる。だが嫌な突き上げのカドは丸められており、抑えの利いたボディコントロールと安定した4輪の接地がむしろ一貫している。
制御介入が出しゃばるような感触は皆無だが、濡れた路面でも自然な回頭性のハンドリングで、旋回中に水たまりを踏んでも乱されることはなく、中高速域から加速時まで盤石の駆動スタビリティを頼りにできる。平たくいえば、メカニカル・グリップの質がもとより高いからこそ、安心して踏めるのだ。
8月のシドニーの気候は冬の終わりかけで、天気が目まぐるしく変わってにわか雨に何度も遭遇した。水たまりもあれば舗装のヒビ割れ、パッチ路面も少なからずで、起伏の激しい丘陵地のワインディングは決して平滑な路面ばかりではない。
そうした変化の激しい土地柄だからこそ、まわりにスバル車がいっぱい走っているなかで、今回は500km近くの距離を重ねた。走るほどにMTで操る充実感が得られ、そこに切れ味と奥行きが自然とついてくる、それがWRX S4 tS の印象だ。
オーストラリアでは舗装路を少し外れると、アウトバックと呼ばれる未舗装のカントリーロードは珍しくはない。そんな道にも入ってみたが、地上最低低135mmの十分なクリアランスがありながら、コーナリングにおける低重心ゆえの安定した踏ん張りは、WRX S4の十八番ですらある。走りのために荷室やリヤシートなど実用性を犠牲にしたスポーツカーではなく、手頃なサイズ感のセダンでそれが実現されているのは、まさしくSTI謹製のコンプリートカーならでは。MT仕様ならその手応えというか歯応えが、心地よく増す。
ちなみにあとまわしになったが、MTシフトレバー以外の操作系、とくにABCペダルのうちアクセル&ブレーキの距離感まで、巧みに作り込まれた配置にも唸らされた。ブレーキペダルは右足の母指球で初期ストロークをグッと押さえた先では、踏力の強弱で調整しやすく、アクセルペダルより深々と奥に沈みすぎる嫌いがない。要はヒール&トゥがしやすい配置&可動域に収まっているし、ブレンボの強大な制動キャパと相まって、減速や制動でも飽くことなくコントロールを楽しめる。単純に、サーキットなどのスポーツ走行まで睨んで突き詰められたディテールというだけでなく、うねる・跳ねる路面でも確実な操作性を担保するスバルらしい「0次安全」にも繋がるところだ。
そう、MTとはいえアイサイト標準装備で、ACCで前車と一定距離を保ちながらの巡航や加減速も可能だ。無論それは、選択中のギヤの範囲内でのこと。エンジンもギヤ比も寛容だからこそ、車列が流れていればシフトチェンジは不要だが、渋滞などで25km/h以下に減速するとACCはオフ、30km/h以上で再設定が可になる。2ペダルならほぼ任せられる局面でもひと手間が要る訳だが、これを面倒と感じるのならもとより「2ペダル向き」、もしくは「自動運転向きドライバー」だ。
というわけで、試乗以外は生理的現象という出張の旅程だったが、市街地から高速、ワインディングまで、WRX S4の資質をMT操作を通じて再発見する、刺激的な体験となった。身体が思い出すか慣れてくるかすれば、MT操作自体が生理的なものだからこそ、2ペダルでは物足りなくなるのだが。
このMT仕様の国内発売はいまだアナウンスされていないが、オーストラリア現地での車両価格は6万7587AUD(約648万円)。右ハンドル仕様のもうひとつの好適仕向け地として、日本市場を是非とも検討してほしい、そう願わずにいられない1台だった!
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