現在、自動車用としてはフィアットのみが採用する2気筒ガソリン・エンジンについて、自動車のメカニズムに詳しい世良耕太が解説する。
2気筒が選ばれたワケ
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フィアットは乗用車用ガソリン・エンジンとしては現在唯一、2気筒エンジンを生産している(ディーゼルは、スズキがインド向けに0.8リッター2気筒を投入)。
4気筒でも3気筒でもなく、2気筒を選んだのは“論理”からだ。論理的に正しいとして2気筒が選択され、量産に移された。TwinAir(ツインエア)のペットネームを持つ0.9リッター(正確には875cc)の2気筒ガソリン・エンジンは、日本では「500」と「パンダ」で選択出来る。
生産は2010年に始まり、日本には2011年から導入された。フィアットは500などが属するAセグメントと、そのひとつ上のBセグメントを対象にした新しいエンジンを開発するにあたり、“燃費向上”と“ファン・トゥ・ドライブ”の観点で65psから105psの最高出力が必要であると考えた。その最高出力を発生させるのに必要な排気量は、燃費、発進性、パフォーマンス、異なるモデルで使用する際のフレキシビリティなどの観点で検討し、900cc前後が妥当とする結論に達した。
排気量が決まると次は気筒数である。フィアットは2気筒、3気筒、4気筒をリストに載せ、燃費、コスト、NV(振動・騒音)、パフォーマンスの4項目をバランス良く成立させる気筒数を検討した。その結果、2気筒を選択したのである。
排気量がおなじなら、気筒あたりの容積を小さくすると(4気筒よりも3気筒、3気筒よりも2気筒)、燃焼室の容積に対する表面積の比率が小さくなり、冷却損失が減る。気筒数を減らしてピストンの数が減ると、軸受(ベアリング)やバルブの数が少なくなり、機械損失(フリクション)が減る。
2気筒、3気筒、4気筒の対決では最初に熱力学の観点で4気筒が脱落し、最終的には2気筒と3気筒の一騎打ちになった。排気量を900ccに設定した場合、気筒あたりの容積は2気筒が475cc、3気筒は300cc、4気筒は225ccになる。燃料が持つエネルギーを効率良く圧力に変換する観点で検討すると、気筒あたりの容積は325~500ccが最適との計算結果が出た。となると3気筒も外れるが、とりあえず候補に残し、2気筒と“最終決戦”をおこなうことにした。
A/Bセグメントのクルマに横置き搭載することを考えると、2気筒は3気筒の3分の2に近い長さにすることができるので、搭載性の面で都合がいい。3気筒エンジンは振動を抑えるためのバランスシャフトを搭載するユニットと非搭載にするユニットにわかれるが、2気筒の場合は必須になる。その点を勘案してもムービングパーツの点数は3気筒のほぼ3分の2になるので、2気筒にコストメリットがある。
問題は2気筒特有の振動であるが、フィアットはバランスシャフトで解決できると考えた。スタート/ストップシステムを組み込めば、少なくともアイドリング時の振動は気にならなくなる。こうして、単筒容積437.5ccの2気筒エンジンが生まれたのだ。
フォロワーがあらわれない理由
TwinAirはターボチャージャーを組み合わせ、最高出力85ps/5500rpmを発生する。最大トルクは145Nm/1900rpmで、高いパフォーマンスとエコ性能を実現したエンジンということになる。
フィアット500 1.2 CULTが積む1.2リッター4気筒エンジンの最高出力は69ps/5500rpm、最大トルクは102Nm/3000rpmだ。WLTCモード燃費はTwinAirが19.2km/Lなのに対し、1.2リッター4気筒版は18.0km/Lである。0.9リッター2気筒のTwinAirのほうが、排気量の大きな1.2リッター4気筒よりも、出力/トルク、燃費の両面で上まわっている(過給、非過給の違いはあるが)。
論理の勝利だ。論理的に正しいならフォロワーがあらわれてもよさそうであるが、そうはなっていない。多分に、“振動”が原因である。2気筒エンジンは4気筒や3気筒に比べて爆発の間隔が広いため、どうしても燃焼に起因するトルク変動の問題がつきまとう。とくに低回転域で目立ち、アクセルペダルを少し強めに踏み込むとドンドンドンとエンジン(より正確にいえばシリンダーブロック)が派手に振動してしまうのだ。
この振動は周波数が低いためエンジンマウントでは取り切れず、車体を伝わって乗員にも伝わってしまう。フィアットは許容範囲と判断したかもしれないが、ほかのメーカーは「ノー」と判断したのだろう。それが、2気筒エンジンにフォロワーが現れない最大の理由だ。
未来は明るい?
ダイハツは2009年の第41回東京モーターショーに、軽自動車向け直列2気筒直噴ターボエンジンのコンセプトモデルを出展した。
660ccの排気量で効率の最大化を考えた場合、気筒あたりの容積が220ccになる3気筒より、330ccになる2気筒のほうが最適であると判断したのである。
2011年の第42回東京モーターショーに2気筒エンジンの改良版を出展したが、現在に至るまで製品化には至っていない。
マイルドハイブリッドとして利用するベルト・スターター・ジェネレーター(BSG)に振動打ち消し効果を持たせることで、2気筒エンジンに特有の振動を大きく低減するアイデアもある。
ガソリン・エンジンではフィアットのTwinAirが孤軍奮闘する格好であるが、2気筒エンジンが高いパフォーマンスとエコ性能を実現するポテンシャルを備えているのは確か。
振動の問題が解決できれば、フォロワーは現れるに違いない。
文・世良耕太
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みんなのコメント
気筒当たりの容積を大きくすると、だろ。
一番肝心な部分を間違えるかね。