今季、全日本スーパーフォーミュラ選手権で最年長ドライバーとなった中嶋一貴(36)。国内F3から欧州GP2を経てF1、世界耐久選手権(WEC)、そして再び国内トップフォーミュラへの参戦と、現役選手の中でも国内外のMS界を深く知る数少ない一人だ。
コロナ禍の様々な制限をうけ、将来を思い描くことも難しく感じられるいま、世界を舞台に『レーシングドライバー』業に励むベテランが様々な思いを語った。
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文/段純恵 写真/GAZOO Racing
【画像ギャラリー】コロナ禍の中、世界で戦う!! 今季スーパーフォーミュラ最年長となった中嶋一貴
■WEC用新型マシン、GR010HYBRIDの印象
各チームの思惑が交錯しあって車両規定がなかなか定まらなかった今期のWEC(写真は昨シーズン)
新しいクルマということで、やはり新鮮ですし、走りを楽しんでいます。ただ100%順調にいってるかというと、まだいろいろ手直ししたりその都度調整しながらという感じですね。車両規定がなかなか定まらなくて、チームも大変だったと思います。
トヨタがワリを食ってる部分がなきにしも非ずですが、各マシンの性能差をなくすBOP(性能調整)もある程度クリアになり、そんなにヘンなことにはならないだろうと聞いていますが、やはりトヨタとしてはハイブリッド他の技術で勝負したい、そういうところがあるんです。
でも残念ながら世の中そういうメーカーばかりじゃない(笑)。結局、最後はそれこそ人間の力で差が出るだろうし、特にドライバーの力はすごく問われるでしょうね。それはそれでいいチャレンジになると思います。
■コロナ禍下での海外往来
マスクはまだしも、帰国後のホテル隔離はなかなか辛いものがあるようだ
今季も海外と行ったり来たりの生活ですが、おかげさまで体力的にはけっこういい状態です。帰国後の隔離の間はコンスタントに家でトレーニングをしているので。
海外に行くのはいいんです。でも帰ってきた後が本当に大変。いま変異株が流行っている欧州などから帰国すると、まず3日間ホテルで缶詰になります。先日僕が詰められたのは両国のアパホテルのシングルルーム。帰国者全員が空港から観光バスに乗せられて連れて行かれたんですが、部屋が本当に狭い。
荷物を広げるのもベッドの上で、トレーニングするスペースなんてもちろんない。ベッドの上でストレッチぐらいしかできない。部屋から出ることも許されないし、食事はホテルで作られたらしいお弁当でしたが、これがいい感じに冷た~くなっていて……。
僕、わりと心は広いほうだとは思うんですけど、あの状況は本当に辛くてキツい。自分でお金を払うから広い部屋に、と言いたかったけど、別のホテルは絶対無理だし帰国者はみんな同じことを思っているだろうし、ワガママ言うのもなぁ……と考えちゃうところが日本人ですね。
隔離はやめられるものなら一刻も早くやめてほしいです。欧州ではなくなりましたしアメリカではそもそもやっていません。でも日本は世間の風当たりが強いのでなかなか実現しないでしょうね。
アパにいる間のヒマを潰す方法は寝るかネットを見るかだったのですが、隔離関係の記事についているコメントは基本的に『帰って来るな!』で、『ホテル代に税金使うんじゃねーよ!』というコメントも多かった。
大切な税金を使わせていただいているので文句を言える立場じゃないんですが、本当にウツウツとなる3日間でした。
■若手ドライバーの将来
若手に的確な助言ができるのはベテランというだけでなく、国内外のモータースポーツに豊富な経験がある中嶋選手だからこそだ
このコロナ禍がいつまで続くかわかりませんが、ある程度の年になってからのこの状況で助かったかもしれない。いまの学生はじめ10代20代の若者は本当にかわいそうです。彼ら自身が罹ったとしても本人が重症化することが低いと一般的に言われいてるのに行動を制限されている。
それでも、将来、彼ら若者が世界に羽ばたくチャンスはあると思います。
レース界をみても、トヨタで言えばル・マンやWECなどに参戦している限り、そこにむけたチャンスは絶対にある。
クルマを走らせる技量でいえば、いま彼らが海外にでても十分戦えると思います。ただ足りない部分が出てくるとしたら、コミュニケーションとかむこうでのやり方とかですね。海外にいけた時に、いろんな面でスッと対応することが試されると思います。
僕の英語はいわゆる受験英語です。英語、嫌いだったんですよ。子供の頃に多少英語に触れる機会はあったはずだけど、中学の時は勉強しないので成績は右肩下がりだった。
でもレースをやり続けていくならやっぱり英語は勉強しなきゃなぁと高校受験の頃に思うようになって、それからですね、英語をちゃんと勉強したのは。文法などの知識をベースに話しているタイプなので、しゃべってナンボみたいな(小林)可夢偉とは真逆です。
学校やレースで外人と話すことを繰り返し、ある程度慣れた状態で海外に行ったので、とりあえずはなんとかなった。でもそれはコミュニケーションが1対1で済むF3くらいまで。
F1で不特定多数の人と同時にしゃべったりスポンサー関係のイベントで話したりになると、なんとなく嫌だなぁと思いながらなんとかやっていました。
コミュニケーションって、相手に『こいつはこういう奴なんだ』と理解してもらうこと、必要なことをきちんと伝えることが大切です。それは日本語でもどんな職業でも同じだと思います。ドライバーの場合、コース上でちゃんと走れれば、なんでもかんでもべらべら話せなくてもいい。
僕自身すごくしゃべる方でもないし誰彼つかまえて話すタイプでもない。そんな典型的な日本人でも、最低限のコミュニケーションがちゃんととれていれば、外人みたいに『俺が俺が』と強く主張する必要はない。
特に耐久レースではそうですね。大人になってから入れた英語なので、いまでも常に頭の中で通訳している感じですが、それでもなんとかなる。そういう面で僕はいいお手本になれるかもしれません。
■今季、そして将来にむけて
帰国後の隔離期間が定められている現在の状況では、全戦参戦はなかなか難しいようだ
いつかは海外に出たいと考えている若い人は多いと思います。さっきも言いましたが、若手ドライバーの技量は世界に十分通用する。その点、スーパーフォーミュラは海外の関係者がみてもすごくいいベンチマークになっているので、いま、日本で、自分をアピールするのにこれ以上ない場だと思います。
レギュラーの選手が出場できたりできなかったりの状況も、逆に若手選手にチャンスが行きやすく、それはモータースポーツ界の将来にとってもとてもいいことです。出られない立場としてはすごくしんどいですが(笑)。
SFは開幕戦の富士、それからもてぎに変更された10月の第6戦と最終戦の鈴鹿。あと去年のようにモーターホームでの隔離生活が認められるなら5月のオートポリス戦も出場のチャンスはありますが、全戦出場は難しい。タイトル争いもおそらくは……。
でも、出られるレースではできる限り前に行きたい。あとしばらく勝ててないので、まずはひとつ勝つこと。SFでの目標はそれだけですね。WECはもちろんハイパーカーでのタイトル獲得です。泥臭くてもしっかり地に足着けて、トライし続け、チャレンジし続け行くことだと思っています。
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