「“隠れ家のような”夜行バス」あ、意味違ったわ…
ウィラーが高速バス「ウィラーエクスプレス」で夜行向けの新シートを搭載した便を10月6日(金)から運行します。それに先立ち9月14日、報道向けに新シートが公開されました。
新シートの名称は「ドーム」。3列シート全26席すべてが、固い“シェル”で覆われており、リクライニング時に後ろを気にしたり、前のシートがリクライニングしても空間を邪魔されることがありません。
さらに、座席にはベビーカーの幌のような“カノピー”が設けられており、これを下ろせば胸のあたりまで完全に遮蔽されます。カノピーのなかにはスマホホルダーが設けられているうえ、明かりを遮ることができるので、人に気兼ねすることなくスマホも使えるのがポイントです。
こうしたシェル型シートは2017年登場の「リボーン」に続く2例目。そしてカノピーは廉価版の4列シート「リラックス」の改良版として2023年に登場した「プライム」の大型カノピーを採用しています。両シートの特徴を合わせたものといえます。
そうかこれが“隠れ家感”か!
実際に車内へ入ってみると……そこには、従来のバスでは見たことがないような特異な空間が広がっていました。
車内には、大人の背丈ほどあるシェル型シートが所狭しと並んでいます。シートは通路を挟んで1列あたり1+2席の配置ですが、その通路も人によってはカニ歩きになるほどの狭さ。さらに、シートピッチ(前後間隔)は108cmあるものの、「リボーン」と違いシェルの頭部が後ろに張り出しているので、通路から座席にアクセスするまでも難儀します。
しかし、いざ座ってみると「ひとりの空間」としては十分な広さです。座面は55cmで4列シート「プライム」より9cm広く、素材もファブリックではなく合皮で高級感があります。リクライニングは約130度まで倒れ、フットレストもあり、足先は前席下をくりぬいた空間に収まるようになっています。今回は可動式の枕に加え、可動式の腰当てクッションも初めて備わっているそう。
カノピーを下ろして、そのなかのスマホスタンドにスマホをセットすれば、快適なマイ空間の出来上がり。そこで、はたと気づきました。このシートは「圧倒的な個室感」「隠れ家のようなプライベート空間」とうたわれていますが、このアクセスのしづらさとのギャップ、確かに“隠れ家的”かもしれません。
狙いは「高速バスカムバック層」
取材では同じシェル付き3列シートの「リボーン」にも乗車しましたが、リボーンは全18席で、シートピッチが158cmも確保されており、かなり広々としていました。車両も、リボーンがスーパーハイデッカータイプの三菱ふそう「エアロクイーン」に対し、「ドーム」は「プライム」と同じくハイデッカータイプの「エアロエース」なので、床から天井までの高さが低め。リボーンにはシェルがありませんが、プライムと比較すると、改めてリボーンの高級感を認識しました。
今回の新シート「ドーム」はグレード的にも、4列シートのプライムと、リボーンの中間に位置付けられます。運賃は東京 名古屋線の場合、プライム4300円 、ドーム6900円 、リボーン9000円 となっています。なお、ドームは1+2席配置のうち独立した1席は500円高に設定されています。
「安価な4列のリラックスは、学生さんを中心にご乗車いただいていますが、就職されると高速バスから離れてしまう方もいらっしゃいます。そうした方に、もう一度ご乗車いただけるようなシート」とウィラーの担当者は話します。
むしろ、シェル型シートで26席というのは、かなり詰め込んだ印象すらあります。高速バスの収益は座席数がカギを握るのです。新シートのドームは、4列に慣れた人へ、ちょっと高級かつ個室感の高い3列シートを提供する側面もありそうです。もっとも、バスのシェル型シート自体、ウィラーエクスプレスならではのものではありますが。
ドーム搭載車はまず、東京 名古屋線の夜行便でデビュー。年内には東京 大阪線にも導入される見込みです。
ちなみに、ドーム搭載車にもリボーン搭載車にも、車内にトイレはありません。トイレは高速道路での休憩時に済ませます。女性の利用者が6割を超えるウィラーでは、車内トイレがあるほうがむしろ「においが気になる」などの意見があるといい、歴史的にトイレ付車両のほうが少数派となっています。
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