地方鉄道を支える熱量経済
「ビーフ」とは、ヒップホップ文化における対立や競争を指す。1984年、ウェンディーズのCMで使われたキャッチコピー「Where’s the beef?(ビーフはどこだ?)」は相手を挑発する表現として広まり、その後ヒップホップの世界でも定着した。本連載「ビーフという作法」はその精神にならい、モビリティ業界のさまざまな問題やアプローチについて率直に議論する場を提供する。他メディアの記事に敬意を払いながらも、建設的な批判を通じて業界全体の成長と発展に寄与することを目指す。
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※ ※ ※
近年、鉄道分野でもクラウドファンディング(以下、クラファン)を活用した資金調達が活発になっている。成功事例がメディアで取り上げられる機会も増えている。
鉄道ライター・杉山淳一氏は、2022年10月7日配信の記事「ファンが地方鉄道を支援、今後はサブスクも? 鉄道系クラファンの新潮流」で、この動向を肯定的に紹介している。記事では、地方鉄道がクラファンを通じて「保存費用のために新しいお財布を持てる」とする杉山氏の見解が示されている。ファンの支援の輪を「互助の精神」と位置づけ、その広がりに期待を寄せている。
杉山氏のリポートは、鉄道ファンの熱意や、経営が厳しい地方鉄道の新たな活路に光を当てる内容となっている。その意義を否定するものではない。
ただし本稿では、あえて別の視点を提示したい。鉄道遺産の保護をクラファンに委ねる現状がはらむ構造的な問題に着目する。具体的には、公的制度の空洞化や、共通財に対する責任の所在といった点を中心に、批判的に考察を進めていく。
批判点1「制度放棄の容認」
杉山氏の記事で示された「新しいお財布を持てる」という期待は、地方鉄道にとって一見前向きな選択肢に見える。しかしその裏で、
「公共インフラや文化資産の維持・保存」
という、国家や自治体が本来担うべき責任を曖昧にしかねない。結果的に、制度の放棄を容認する構図にもつながる。
公共インフラの整備や文化資産の保護は、本来、熱意や共感といった一部のファンの思いに依存すべきものではない。税によって支えられた公平で体系的な計画の下で、議会による民主的統制のもとに責任ある支出として行われるべきだ。
クラファンは、こうした制度的プロセスを経ずに、感情や話題性によって資金の行き先が左右される。資金配分の基準が一部の個人の熱量や企業のマーケティング戦略に委ねられるかたちとなる。これは、公共財としての鉄道の価値評価や優先順位づけを歪めるリスクをはらむ。
蒸気機関車や歴史的車両の動態保存は、単なる趣味ではなく、技術や文化を映す貴重な文化財の継承にあたる。したがって、その保存には国家的制度のもとでの体系的な支援が求められる。
クラファンによる一時的な資金調達が、本来必要とされる制度的保障の議論を後退させるなら、それは「新しいお財布」とはいいがたい。場当たり的な延命策に終始し、文化財保護の視点を欠いたまま制度の基盤そのものを損なう恐れがある。
批判点2「善意と感情に依存する危うさ」
杉山氏は、鉄道系クラファンの成功事例を紹介し、ファンによる支援の輪が広がっている状況を肯定的に描いている。記事の結びではクラファンで「良い答えが見つかればいいと思う」と前向きな期待を示している。
しかし、歴史遺産が保存に値するかどうかは、専門的な知見に基づく厳格な審査と評価によって判断されるべきである。原則として、歴史遺産はすべて保護されることが望ましい。ただし、現実には資源に限りがあるため、保存対象を選別する必要がある。そこには専門性が不可欠だ。
一方で、支援者の数やSNS上の「いいね!」の多さによって保存の是非が左右されるような状況は、公共的な価値判断を
「個人の趣味嗜好に委ねる構図」
を内包している。例えば、蒸気機関車の修復プロジェクトは、ノスタルジーに訴えるテーマとして共感を得やすい。しかし、そうした案件に対して資金が集まる一方で、地味だが意義のある文化資産が見過ごされるリスクもある。資金の流れが感情に依存しはじめた時点で、それは制度的な保障から外れつつある。
支えてくれる人がいるから続けられるという言葉は、一見すると美しく聞こえる。だが裏を返せば、公的制度にはもはや期待できないという、
「静かな敗北宣言」
でもある。
民間の善意に依存するかたちで存続するインフラや文化財は、もはや公共財としての安定性を失っている。その結果、制度的責任が曖昧になり、必要な制度改革や公的支援の拡充といった本質的な課題から、社会の視線を逸らしてしまうのである。
批判点3「感情消費の経済的限界」
杉山氏は、大井川鐵道のSL修復を取り上げ、総費用3億円に対してクラファンの調達額が7500万円にとどまる点を指摘し、「金額が小さい気がする」と書いている。そのうえで、クラファンのさらなる可能性にも期待を示している。
この事例から見えてくるのは、クラファンによる資金調達が、大規模事業においてはあくまで部分的な資金にすぎないという現実である。
一時的な資金確保には成功するかもしれない。しかし、車両の維持・保守や人材育成、安全な運行体制を支える恒久的な財源を、クラファンだけで賄うのはほぼ不可能だ。
「愛で支える」
「ファンの熱意で守る」
といった物語は感動的だが、行政や研究機関が行う文化財保護のような持続性を欠いている。むしろ民間の善意や感動の物語が、本来あるべき文化財保護行政の不備を覆い隠している面もある。
クラファンが成功事例として語られる一方で、行政は本来担うべき公共財への財政的・制度的責任を
「情緒の市場」
に委ねつつある。クラファンの成功は、美談としての側面を強調されるあまり、制度的な責任の空洞化という問題を見えにくくしている。
制度放棄が招く保存危機
鉄道の歴史的資産は、単なる郷愁の対象や愛好家の所有物ではない。それは近代国家が築いてきた交通体系の集積であり、近代日本の空間構造の痕跡である。そこに宿るのは、人やモノの移動に伴う集団的経験の蓄積だ。地域経済の生成と衰退、産業の転換、国家と地方の力学といった広域的な構造変動の記録でもある。
したがって、それを保存するとは、単に車両や駅舎を維持することにとどまらない。空間の履歴を読み取り、次代へ継承するための制度的な装置を構築する意思表示にほかならない。
この作業を寄付の多寡や応援コメントの熱量に委ねるべきではない。ファンの献身や一時的な盛り上がりに依存する姿勢は、責任の所在を曖昧にする。長期的な政策整備の遅れを制度的に正当化する温床となりうる。それは単なる民の善意による救済ではなく、
「公の責任の放棄」
と読み替えるべき現象である。歴史的車両の保存が一部の熱心な支援者の努力により達成されたと語られるとき、本来問われるべき疑問が黙殺されている。なぜ国家的裏付けが与えられていないのか。なぜ保存対象の評価と選定が体系化されていないのか。個人の善意が制度的無策のいい訳に利用されている状況では、いくら支援が集まっても、それは文化財の保護ではなく、文化財の切り売りに近いものとなる。
クラファンは制度的な不備を覆い隠す
「柔らかなレトリック(言葉や表現を巧みに使って相手に強い印象を与えたり、説得力を持たせたりする技術)」
として作用する。成功例は可視化され、拡散され、称賛される。しかしそのたびに制度への問い直しは後退する。社会の構成員が拍手喝采とともに寄付ボタンを押す瞬間、制度的支出の設計や優先順位の調整といった本質的課題は市場化された情緒に呑み込まれている。問題は支援そのものではない。それが制度に代わるものとして機能し始めたときに、構造的に重大な転換が起きているのだ。
必要なのは支援を前提としない制度構造の再構築である。鉄道遺産は観光資源でも展示物でもない。それは空間の記憶であり、社会が移動と経済をどう設計してきたかの記録である。その保存には国家的関心の枠組みを再定義し、財政の射程を再配分する決断が求められる。
いま必要なのは誰かの善意に期待することではない。不可視化された制度の怠慢を明らかにし、未来の交通史への責任を誰が負うのか、社会が自らに問うことである。(昼間たかし(ルポライター))
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みんなのコメント
自治体も国も鉄道の維持なんかにカネを出したくない。
それなら高速道路を誘致したい、建設したい。
これが本音。
これが出来てないから出来る範囲で寄付で行っていることで恒久的な保存
などは望むべくもない。時代の流れで滅びゆく物を温かく見送っているだけ。